【DIR EN GREY 楽曲感想】『UROBOROS [Remastered & Expanded]』

今回は、7thアルバム『UROBOROS』のリマスター版である『UROBOROS [Remastered & Expanded]』について、感想を書いていきたいと思います。

※この作品は『DUM SPIRO SPERO』期の1作品という位置づけなので、リリース前後の活動状況については、そちらを参照していただけると嬉しいです。


UROBOROS [Remastered & Expanded] (2012.1.11)

7thアルバム『UROBOROS』のリマスタリング盤。『DUM SPIRO SPERO』のミックスを手掛けたTue Madsenによるリマスター及びリミックスが行われた他、原盤には収録されていなかった「HYDRA -666-」と完全生産限定盤のLPディスクのみにしか収録されていなかった「BUGABOO RESPIRA」が追加されています。また、原盤では英詩版が収録されていたシングル曲「DOZING GREEN」「GLASS SKIN」については、本作では日本語詩版に変更されています。

0 アルバム総評

本作の元となった『UROBOROS』は、DIRのアルバムの中では非常に評価の高い作品で、『Withering to death.』と並ぶかそれ以上に、最高傑作との評価を受けている作品です。アジアンテイストの濃厚な世界観の中で光るメロディの聴きやすさ、変幻自在のボーカルワーク、秀逸な曲構成など、本当に隙のない作品だと私自身も思います。
一方で、音質については賛否両論でした。原盤は音がかなりこもっていて、ギターは各弦の音が混ざっているし、ドラムはどこか古臭くて粗い音になっています。低音が強調されているので、ベースはむしろ聴こえやすいです。ボーカルも、エコーが弱いためあまり響かないし、グロウルは他の楽器の音に埋もれ気味です。音質については、メンバー自身も課題に感じていたとのことです。
その反省か、『DUM SPIRO SPERO』は非常に音の分離がよく、過去最高レベルに音の解像度が高いミックスになりました。ミックスを担当したTue Madsenは、メンバーからの信頼を得たのか、以降、何作も協働することになります。
本作はそんなTue Madsenが、『UROBOROS』をミックス、マスタリングした作品になります。そのため、原盤とは異なり、音の分離がよくなり、奥行きのある音像となりました。原盤では聴こえなかったような音の細部も聴こえるようになり、『UROBOROS』の「音」の世界をより深く堪能できる作品です。全体傾向としては、分厚かったドラムの音が細かくなり、ギターの和音が聴こえやすくなり、ボーカルの音量が上がっています。ベースについては原盤よりもやや引っ込んだ印象ですね。
ただ音が綺麗になった分、原盤にあった独特の陰鬱さが減退してしまったことも否めないと思います。そう意味では、どちらが好きかは本当に個人の好みという感じがしますね。DIRが好きなら両方とも聴いて損はないと思うので、聴き比べて楽しんでみるのもアリだと思います。
ちなみに、音が変わっただけでなく、シングル2曲が日本語版になったり、「HYDRA-666-」と「BUGABOO RESPIRA」が追加されています。その意味では、こちらを『UROBOROS』の「完全版」と考える人も少なくないのではないかと思います。

※各曲の細かい感想は『UROBOROS』の記事に記載したので省略しますが、各曲の大まかな紹介については再掲します。

1 SA BIR

OPとなるインスト曲。オリエンタルな雰囲気漂う、陰鬱さ全開の曲です。久々のインスト始まりとなっており、アルバム全体の世界観へのこだわりを感じますね。事実、この曲には『UROBOROS』というアルバムのイメージを象徴する雰囲気があると思います。
本作では前半にSEのパートが追加され、実際に武道館ライブ「UROBOROS -with the proof in the name of living…-」で使用されていたバージョンとなっています。中盤で時計の音とともに原曲の「SA BIR」が始まり、「時が来た」というのを感じさせる演出となっております。原曲以上に臨場感、ライブ感がありますね。

2 VINUSHKA

本作の核となる曲。9分半にも及ぶ長尺の曲で、目まぐるしく変わる展開の中で、激しさと美しさをしっかりと両立させた非常に完成度の高い曲です。ある意味DIR EN GREYの名刺代わりとも言え、この曲を最高傑作に挙げる人も多いのではないでしょうか。
原盤では分厚かったドラムの音が、本作ではかなりタイトになりました。スネアがバシっとした音となり、タム回しが細かく聞こえるようになっています。また、ベースとギターが奥に引っ込んだ代わりにボーカルが前に出てきていますね。そのため、原盤では埋もれていたグロウルがハッキリ聴こえるようになっています。
原曲の陰鬱さはやや埋もれましたが、音が綺麗になった分、構築性がより強調されているように思います。

3 RED SOIL

Dieさん原曲の、アジアンテイスト全開なメタル曲。短い尺の中で様々な展開が繰り広げられ、妖艶さと狂気が共存しています。MVも存在しており、本作でもキーとなる曲ですね。珍しくShinyaさんのツーバスが聴ける曲でもあります。
ドラムの音がクリアかつ重たくなっていて、曲全体の音圧が増したように思います。サビのツーバスが迫力を増しており、スピード感も向上したように思います。また、ボーカルのボリュームが大きくなったことで、「安らぎの裏に~」の部分の声の艶やかさが際立ち、圧倒されます。
基本的に原盤の方が好きな私ですが、この曲に関しては本作のバージョンもかなり好きですね。ドラムとベースの混ざり方が自然というか、全曲これくらい自然な形で綺麗な音にして欲しかったと思いますね…

4 慟哭と去りぬ

リズムパターンが複雑な変態曲。一応最初から最後まで6/8拍子のようですが、油断するとすぐリズムが取れなくなりますね。ヘヴィなグロウルのパートと超美麗なサビとの対比が面白い曲で、DIRの曲の中でもひときわカオスを感じる曲です。
原盤と比べて音のバランスがかなり良くなり、密度のある音になりました。特にギターの音が細かくなり、パワフルになっていますね。ドラムに関しては原盤と比べるとやや薄くなってしまったのが残念ですが、全体的に原盤とは違った意味で迫力を増していて悪くないです。
ボーカルについては「身体一つ全てをうけて 流す慈悲さえ」の裏のシャウトが聴き取りやすくなっています。原盤だと気づきにくいので、こういう部分が本作の強みですね。

5 蜷局

全編クリーンボイスのミドル曲。ここまで中東チックな曲が多かった本作ですが、この曲は強烈に「和」を感じる曲となっています。うねりを感じる妖艶で怪しげなサウンドと、京さんの広い音域を活かした独特のメロディラインが特徴的な曲です。
原盤と比べて音圧が増しており、ギターのアンサンブルがより迫力を増しています。ドラムも音が太くなりましたが、原盤の荒い音の方が、この曲のメロディとは合っているように思いますね。
ボーカルはコーラスとのバランスが調整されたことにより、厚みを増してますが、原盤の方が高音のギリギリ感が出ていて好きです。

6 GLASS SKIN

22dnシングル。透明感溢れるクールなミドルバラード。歌も演奏もストレートに美しく、この時期の曲としては非常に聴きやすいです。私がちょうどDIRを知った頃、こんな綺麗な曲も作れるのかと、一気に引き込まれた思い出深い曲でもあります。
本作では日本語版が収録されていますが、曲の雰囲気的にはやはり日本語詩の方が合っていると思います。儚いサウンドが繊細な日本語の表現とマッチしています。
原盤よりも全体的に音がクリアになっており、曲の雰囲気にも合っていると思います。原盤はドラムの音が古臭い分、「脆さ」を感じるアレンジでしたが、本作は純粋に透明感のある音になったという印象です。
なお、原盤では埋もれ気味だったセリフもしっかり聴こえるようになっています。

7 STUCK MAN

Dieさん原曲の、ミクスチャー要素が含まれたヘヴィロック。本作の中では比較的遊び心に富んだ楽曲で、ラップのような歌唱法や、ベースのスラップが特徴的です。音が重いのにどこか軽やかさを感じる不思議な曲ですね。
この曲が本作の中では最も印象が変わったように思います。ギターのカッティングとベースのスラップが聴こえやすくなり、グルーヴ感が増した分、ドラムの音がややパワーダウンした印象があります。
曲の雰囲気的には原盤の錆びれたドラムの音の方が合っている感じがしますが、サビに関しては、本作ではグロウルと他の楽器の音が綺麗に分離しているので、どんな音を鳴らしているのかがわかりやすくなったと思います。

8 冷血なりせば

Shinyaさん原曲の、宗教的な雰囲気をまとった暴れ曲。ですが、展開が凝っており、不気味な軽快さとヘヴィな攻撃性を兼ね備えた楽曲です。MVも制作されている他、一時期はライブ定番曲となっており、本作の中でも重要な立ち位置の曲です。
原盤はボーカル含め音が混ざり合っている分、どこか得体の知れなさがありましたが、本作は音のバランスが良くなった分、純粋に迫力が増したという印象があります。ただ、スネアの音がちょっと高すぎるというか、曲の重さの割になんかパカパカしているのが惜しいなと思います。
また、グロウルが完全に埋もれている原盤とは異なり、こちらはハッキリ聴こえますね。原盤はバンド全体で攻めてくる感じでしたが、本作は個々に殴りかかってきている感じがします。

9 我、闇とて…

京さん原曲の、悲哀に満ち溢れたバラード曲。DIRの曲の中でもキーが非常に高い曲で、胸を突き刺すような切ないメロディと歌声が魅力的です。『VESTIGE OF SCRATCHES』にも収録された人気曲で、「VINUSHKA」が表向きの核とすればこちらは裏の核と言えるのではないかと思います。
この曲は音数が少ない分、原盤の時点でしっかり分離していたので、そこまで大きく印象は変わっていませんね。ただ、この曲は生々しさが重要だと思うので、そういう意味では少し音が綺麗になりすぎている感じもします。
ボーカルのボリュームが大きくなっていて、歌がかなり聴きやすくなっていますが、原盤の高音を絞り出してる感が若干薄れてしまったように思います。

10 HYDRA -666-

2ndアルバム『MACABRE』収録の「Hydra」のリメイク曲。インダストリアル色が強かった原曲とは全く別の曲になっていて、宗教色の強いダークなメタル曲になっています。妖艶さと狂気を兼ね備えたボーカルと起伏の激しいバンドサウンドが特徴的です。
リマスター盤とはいえ、オリジナルアルバムに収録され、『UROBOROS』以降に制作されたリメイク曲では異例の扱いを受けています。本作は比較的原盤の音に近いというか、しっかりと雰囲気を残したまま音が綺麗になったなという印象ですね。音のバランスが良いんだと思います。ラスサビ前の、ボーカルが何重にも重ねっているパートの解像度が上がっててカオス感が増しています。
リリースされたのが2007年ということもあり、この頃のグロウルは『THE MARROW OF A BONE』の頃に近いと思います。でも、曲の雰囲気は『UROBOROS』そのものなので、このアルバムに入っていても全く違和感がありませんね。

11 BUGABOO RESPIRA

原盤では完全生産限定版のLPディスクに収録されていた、「BUGABOO」のアカペラバージョン。原曲のメロディ部分を、囁くような声で静かに歌っていますが、レコードのブツブツ音と混ざって、非常に不気味な雰囲気があります。この直後に「BUGABOO」が始まるのが、ゾクッとして良いですね。

12 BUGABOO

密教的な雰囲気のあるヘヴィロック。暗く重たく、怪しくも妖艶な気だるさを纏っていますが、途中で疾走したりと、一筋縄ではいかない曲です。ある意味『UROBOROS』の宗教的な要素が最も濃く出ている曲ですが、不思議とキャッチーさもあり、面白い曲ですね。
全体的に音圧が強化され、原盤ほど隙間がなくなったような印象です。「灼熱の曼陀羅に散りけり」あたりを聴き比べるとわかりやすいかもしれません。「You can't speak the truth without crying」のボーカルが重なっている部分がより聴こえやすくなりました。
ただ個人的には、曲自体がどことなく古臭い雰囲気を漂わせているため、原盤の粗い音の方が合っていると思います。本作はドラムの音に「加工されている感」が少し出すぎているような気がします。

13 凱歌、沈黙が眠る頃

DIRらしさ全開のダークでキャッチーなキラーチューン。デスボイスと共に疾走するパートと、綺麗でキャッチーなサビの対比が美しい楽曲です。アルバム後半の暴れ曲枠ではあるものの、シングルカットしても通用する構成の曲だと思います。
この曲らしく、正統派に綺麗な音になっており、聴いていて全く違和感がありませんね。最初のセリフの部分の聴き取りやすさが段違いで、原盤と本作の違いが顕著に出ていると思います。また、他の曲にも言えることですが、グロウルが曲から分離していて、ボーカル単体がどんな感じかが聴こえやすくなっています。原盤の、グロウルと演奏が一体になっている感じも、迫力があって良いですけどね。
終盤の京さんが叫び倒しているパートでも、原盤では聴こえにくかったファルセットのコーラスがハッキリ聴こえるようになっています。

14 DOZING GREEN

21stシングル。宗教色の強いキャ ッチーなミドル曲。『THE MARROW OF A BONE』の激しい音作りを踏襲しつつ、『MACABRE』の妖しくも切ない世界観を蘇らせたような曲で、気だるげなサウンドの中に響く京さんのハイトーンボイスと、終盤の怒濤のホイッスルボイスが特徴的な曲です。
「GLASS SKIN」と同様、日本語版が収録されています。アジアっぽい雰囲気の曲なので、こちらもやはり日本語版の方が合っていますね。原盤はややもっさりした感じの音でしたが、本作では音圧が上がり、厚みのあるサウンドになっています。全体的に低域が強調されており、ドラムとベースの存在感が増してますが、逆にギターの音はやや引っ込んだ印象です。
個人的には原盤の音の荒さがボーカルの絞り出すような高音やホイッスルボイスを引き立てていたように思うので、やや綺麗になりすぎている気はしないでもないですね。ただ、原盤はバンドサウンドがやや弱く聴こえるので、音圧に圧倒されたいなら本作かなと思います。

15 INCONVENIENT IDEAL

本作のラストを飾る壮大なロックバラード。重苦しい空気で埋め尽くされた『UROBOROS』でしたが、この曲は暗い中にも僅かな解放感がありますね。繊細さと力強さが混ざり合ったサウンドと、京さんの伸びやかな歌声がアルバムを締め括ります。
ベースの聴こえ方がかなり変わっていて、『DUM SPIRO SPERO』のように、バキバキした音になっています。ボーカルについては、主旋律がコーラスとかなり混ざっているので、原盤よりも上ハモが聴き取りにくいのがちょっと惜しい気がします。原盤の一瞬ホイッスルボイスみたいな声が混ざるのが魅力的だったので…
原盤の粗さも悪くありませんが、この曲は神々しさがありますので、本作の綺麗な音が合っているようにもいます。


最後に

世の中にリマスターアルバムはいくらでもありますが、ここまで原盤と印象が異なるリマスターアルバムは珍しいと思います。また、当時のメンバーは、半ば意識的に最新アルバムの曲を最優先して、過去の曲にはそこまで入れ込まないというスタンス活動していたので、こういう形で露骨に過去の作品をフィーチャーするのは意外性がありましたね。メンバーにとって『UROBOROS』という作品は、それだけ思い入れの深い作品だったのかもしれませんし、はたまた事務所の意向だったのかもしれませんが、いずれにしても、多方面からリマスターしてほしいという声はあったと思うので、『UROBOROS』という作品がDIR EN GREYというバンドを語る上で欠かせないことを裏付けているように思います。

少し番外編みたいな感じになりましたが、次は活動休止を挟んでの『輪郭』『THE UNRAVELING』期ですね。次の転換期に入る前兆が見える時期ということもあり、楽しみです。

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