【DIR EN GREY 楽曲感想】『DUM SPIRO SPERO』

今回は8thアルバム『DUM SPIRO SPERO』期の楽曲について、感想を書いていきたいと思います。


『DUM SPIRO SPERO』期の活動状況

2009年

前作『UROBOROS』は非常に完成度が高く、国内外から高い評価を受け、最高傑作との呼び声も高い作品でした。リリース前後の期間は怒涛の勢いで数々の受賞やツアーが行われ、世界的に注目度が高かった時期と言えるでしょう。まさに、DIR EN GREYというバンドの代表作とも言える作品になりました。

そんな『UROBOROS』の一連のツアーの最中、2009年12月2日にシングル『激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇』をリリース。オリコン週間チャート2位という、自己最高位を叩き出しました。リリース後、ファンクラブ・オンライン会員限定のツアー「DORJE -「a knot」 & ONLINE only-」を開催し、2009年は終わりを迎えます。

2010年

2010年1月9日、10日には日本武道館にて「UROBOROS –with the proof in the name of living…-」と銘打たれた、一連の『UROBOROS』のツアーの完結ライブが行われました。この2日間の様子は同年5月にドキュメンタリー映画化され、ライブDVDは世界17か国でリリースされました。

6月には国内で「THE UNWAVERING FACT OF TOMORROW TOUR2010」を開催。ここから年末年始まで続く同ツアーは、アルバムの縛りなく、さまざまな時代の楽曲が演奏されました。7月25日には韓国での「PENTAPORT ROCK FESTIVAL」に出演。同国での約8年ぶりのライヴ実現となります。また、8月1日、IRON MAIDENをヘッドライナーに据えた英国の巨大フェス「SONISPHERE」に出演しました。

同じく8月、「THE UNWAVERING FACT OF TOMORROW TOUR2010」の一環で、ロンドンでの単独公演をソールドアウトの大盛況に終わらせたのち、初となるロシア公演を2公演行います。

8月下旬には、APOCALYPTICAとのダブルヘッドライナーで、「APOCALYPTICA NORTH AMERICA CO-HEADLINE TOUR」をアメリカで開催。終盤の数公演では、APOCALYPTICA側からの要望で、京さんがゲストボーカルとして「Bring Them to Light」を歌唱する一幕もありました。

10月からは国内で「THE UNWAVERING FACT OF TOMORROW TOUR2010」を再開。最中の10月16日には「LOUD PARK 10」に出演しました。2006年に同フェスに参加した時は、観客やメタル誌のライターから冷ややかな目で見られていましたが、この時は大盛況だったようですね。国内でも、メタルバンドとしての評価が高まっていたことを象徴するような出来事だと思います。

12月1日には、遠藤ミチロウのトリビュートアルバム『ロマンチスト〜THE STALIN・遠藤ミチロウTribute Album〜』がリリース。同作品に「ワルシャワの幻想」で参加しました。音源化作品では初のカバー曲となります。その後、年末から年明けにかけて、東名阪ツアー「THE UNWAVERING FACT OF TOMORROW TOUR2010-2011」を開催し、2010年の終わりと2011年の始まりを迎えました。

2011年

1月26日、シングル『LOTUS』をリリース。5月には「a knot」会員のみを対象とするツアーとして「TOUR2011 THE DECOMPOSITION OF THE MOON」を開催しました。ここで先行披露された『DIFFERENT SENSE』は6月26日にリリースされます。

アルバム発売に先駆けて、7月22日には、ブックレット作品『AMON』をリリース。そして8月3日、8thアルバム『DUM SPIRO SPERO』がリリースされました。世界20カ国での同時期発売となり、米ビルボード誌のThe Billboard 200で135位、トップ・ヒートシーカーズチャートで2位を記録しました。

リリース直後、ドイツにて「Wacken Open Air」に4年ぶりに出演しましたが、この日のライブはメンバーをして「最低のライブだった」と言わしめるほど、不調なライブでした。現地のPAとのコミュニケーションが上手くいかず、メンバー自身の集中力も削がれていたことが主な要因だと思われます。幸先の悪い中、8月中はヨーロッパにて「TOUR2011 PARADOX OF RETALIATION」を開催しますが、このツアーは好調だったようですね。このツアーでは、『DUM SPIRO SPERO』から約半数の楽曲が演奏されました。

なお、8月22日からitunesにてシングル『蜜と唾』がリリースされます。これは『DIFFERENT SENSE』のc/w曲「罪と規制」の規制解除版で、2011年限りの配信となりました。この作品は、その後に開催された特別なライブにて、会場限定でCD販売もされました。

9月13日、『DUM SPIRO SPERO』購入者対象の無料企画ライブ「Ratio ducat, non fortuna -Zombie-」を川崎CLUB CITTA'で行います。このライブでは、 メンバー全員が「DIFFERENT SENSE」のMVで施されていたゾンビメイクで登場しました。

その後、9月から11月にかけて国内ツアー「AGE QUOD AGIS」を開始。徐々に『DUM SPIRO SPERO』からの演奏曲を増やしていき、ツアー後半からは、「DIABOLOS」「VANITAS」を除くすべての楽曲が演奏されるようになります。11月11日にはアルバム購入者限定ライブをTOKYO DOME CITY HALLで開催。全編をシンフォニックアレンジした演奏を披露しました。11月下旬からは、全米にて「TOUR2011 AGE QUOD AGIS」を開催し、2011年の幕を下ろします。

2012年

2012年1月11日、前作『UROBOROS』のリマスター盤である『UROBOROS [Remastered & Expanded]』をリリース。原盤には収録されていなかった楽曲が追加され、さらには『DUM SPIRO SPERO』のミックスを手掛けたチュー・マッドセンによってリミックス・リマスタリングがされた拡張版の『UROBOROS』となっています。

その後、東名阪ツアー「IN THE DYING MOMENTS」が開催されますが、最中の1月22日、大阪城ホールにて「UROBOROS -that’s where the truth is-」が行われました。本編では『UROBOROS [Remastered & Expanded]』を曲順通りに完全再現、アンコールで『DUM SPIRO SPERO』の主要曲を演奏するという構成になっており、過去と未来を共に感じさせるライブになったようです。

しかし、ここまで前進してきたDIR EN GREYですが、突如、その歩みを止めなければならない瞬間が訪れます。長年の酷使で喉にダメージの溜まっていた京さんが、不調を担当医師へ訴えたところ「声帯結節」及び「音声障碍」と診断を受け、2月8日、療養のための活動停止が発表されました。3月〜4月に予定されていたASKING ALEXANDRIA、TRIVIUMらとの全米ツアーへの参加がキャンセルされ、国内でも、表立った活動はしばらくストップすることとなりました。

後にも詳述するように、『DUM SPIRO SPERO』は非常に濃密な作品で、賛否両論あるものの、奥深い作品に仕上がっています。しかしそれ故に、その楽曲を表現するメンバーにも、心身ともに大きな負荷がかかっていたことが推察されます。この過酷な歩みの中で生み出された楽曲たちの感想を書いていきたいと思います。


激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇(2009.12.2)

23rdシングル。c/wは2ndシングル「残 -ZAN-」のリメイク曲である「残」と、4thアルバム『VULGAR』収録曲「蝕紅」の一発録り音源です。ミキシングをイェンス・ボグレン、マスタリングをテッド・ジェンセンが行っており、これまでとは音の雰囲気がかなり変わっています。オリコン週間ランキングでは、DIR史上最高位の2位を記録しています。

1 激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇

メロディアスなサビとそれ以外の部分のハードさの対比が美しい疾走曲。まさに「ザ DIR EN GREY」な楽曲で、紛れもない名曲ですね。海外進出期のDIRの一番の代表曲と言っても過言ではないと思います。
いきなりサビから始まり、計3回サビがありますが、DIRの楽曲でこの構成は非常に珍しく、メロディを聴かせたいという意図を感じます。サビ以外はグロウルとホイッスルで埋め尽くされていますが、激しいのになぜかドラマチックで、どこか悲哀を感じるんですよね。それでいて楽しくノれるのが見事な構成だなと思います。
サウンド面では、ギターのリフが非常に耳に残ります。基本キーがA#まで下がり、刻みが重たくなっています。また、ドラムの手数が多く、速いのに小刻みという器用なプレイを披露しています。ミックスの関係でベースの音は埋もれ気味ですが、スラップを巧みに混ぜ込み、よく聴くとバキバキした音が聴こえて気持ちいいです。
京さんについては、サビ以外では惜しみなくグロウルやホイッスルを炸裂させておりますが、疾走感溢れるサウンドと戦うかのように激しく暴れています。一方、サビでは非常に艷やかな声を聴かせてきますね。後半、演奏が止まって「Dive like hell and destroy」と叫ぶパートがめちゃくちゃ格好良いです。
歌詩については、サビの半分がそのままタイトルになっていますが、内側に抱えている自分の醜い部分を、綺麗な見た目で取り繕って隠しているうちに、希死念慮も膨らんでくる、みたいな心理状態を表していると解釈しています。最後の「Show me your lewd self」が、他者への切実な願いのように聞こえます。
この曲はライブ定番曲で、アンコールラストで演奏されることも多いです。先日のPSYCHONNECTでもラストで聴きましたが、展開のドラマチックさが、ライブの締めに合っていますね。ライブでは「Dive like hell and destroy」をマイクレスで叫んでいて、その光景がなかなかグッとくるものになっています。
ちなみにこの曲は、私がDIRにハマったきっかけの1曲ということもあり、非常に思い出深い曲ですね。この曲を知る少し前に見たMステの「残-ZAN-」の頃からの変貌ぶりに度肝を抜かれました。全く何を言っているのか分からないけどなんかカッコいい音楽性に魅了され、文字通り「虜」になりました。その意味でも、DIR初心者にオススメの曲だと思います。

2 残

「残 -ZAN-」のリメイク曲。原曲は90年代V系特有のツタツタ系のホラー曲でしたが、ガラッと変わって本作は超ヘヴィなデスメタルになっております。極太低音で駆け抜けるハードなサウンドと全編を覆い尽くすグロウルが特徴的です。
曲の構成は基本的に原曲を踏襲していますが、後半はうねりのあるサウンドに変化しています。また、曲構成は変わらずとも、キーが3音も下がっており、音圧が桁違いに上っているため、原曲とはまるで印象が変わっています。原曲は和製B級ホラー感がありましたが、本作は洋物のスプラッター映画感がありますね。
サウンド面では、特にドラムの迫力が凄いですね。音圧と疾走感が両立した良質なミックスで、手数が多いのにスピード感があります。ギターは原曲のツタツタ感はなくなり、洪水のような低音ディストーションが気持ち良いです。ベースはスラップが多用され、特に後半は曲にグルーヴ感を生み出しています。
ボーカルについては、原曲は高音の鋭利なシャウトが光る曲でしたが、本作はほぼ全編グロウルで、低く重く攻めてきます。グロウルのテクニック自体は『UROBOROS』の頃よりも洗練されていますね。中盤にはラップのような早口のパートがあり、原曲のV系感全開の「La La La」とは全く異なった軽やかな雰囲気になっています。
歌詩は一見ガラッと変わっていますが、英詩の部分に原曲の面影がありますね。原曲は愛する人を殺害したサイコキラーの物語だと解釈していますが、本作は不特定多数の人たちへの殺意が内心で渦巻いているようなイメージがあります。ラップの部分の言葉選びがやけに仰々しくてちょっと面白いです笑
ライブでは5回くらい聴いたことがありますが、ノりやすくて楽しい曲です。特に、ラップ部分の手拍子が好きです。映像だと2017年の「ANDROGYNOS」での演奏が素晴らしいですね。声も演奏もド迫力なのに、銀テープが舞う中、笑顔で歌う京さんの姿に、曲のイメージとは真逆の暖かみを感じました。

3 蝕紅 (Shot In One Take)

「蝕紅」のスタジオ一発録り音源です。正直、ほぼリメイクといっても過言ではないくらいに印象が変わっており、重くなったサウンドと洗練されたボーカリゼーションが非常にクールな仕上がりになっています。
曲の構成やメロディ自体は原曲と同じですが、キーが半音下がっており、打込音はなくなり、バンドサウンド一本で演奏されています。C#が基本キーで、音がやや乾き気味ということもあり、『UROBOROS』収録曲のような雰囲気がありますね。極限まで無駄を削ぎ落としたオトナの「蝕紅」といったところでしょうか。
サウンド面では、音が低く太くなったギターのリフが非常に重厚で、原曲よりもどっしりとうねっています。またベースがかなりバキバキしていて、乾いたドラムの音と混ざって非常に生々しい質感を醸し出しています。打込みや多重録音がないため、各メンバーの音をじっくり聴くことができて贅沢ですね。
中でも京さんのボーカルに最も進化を感じます。低〜中音域のみでメロディが構成されていますが、原曲の癖はなくなり、かなり丁寧に歌っています。シャウトはほぼグロウルになり、「アッアオ、アッアオ」の部分はグロウルとホイッスルを器用に混ぜた歌い方になっています。音が少ない分、グロウルの迫力が凄いですね…
近年「蝕紅」が演奏されるときはこちらのアレンジで演奏されるようになっており、その意味でも実質リメイクだと思います。アカペラの部分はリリース当時は1オク上げて喉を千切る勢いで歌っていましたが、近年は原キーで静かに歌うようになりました。どちらの歌い方も京さんの魅力が出ていて素晴らしいです。
しかし、一発録りとは思えないくらい綺麗な仕上がりですね…ライブの再現度については評価が芳しくないDIRですが、演奏に集中していれば高いクオリティを保てるのかもしれません。ぜひ、他の曲でもShot In One TakeをCD収録してほしいなと思います。


ロマンチスト〜THE STALIN・遠藤ミチロウTribute Album〜 (2010.12.1)

パンクバンドTHE STALINおよび遠藤ミチロウに関連する音楽作品のオムニバスによるトリビュート・アルバム。メンバーが影響を受けた遠藤ミチロウの還暦を記念して制作された作品です。DIRは11曲目の「ワルシャワの幻想」で参加しています。カバー曲が音源化されたのは、本作が初となります。

11 ワルシャワの幻想

1982年7月1日にリリースされたアルバム『STOP JAP』の収録曲「ワルシャワの幻想」のカバー。コテコテのパンクだった原曲の面影は全く無く、陰鬱なドゥームメタルへと変貌し、もはやカバーとは言い難い仕上がりになっています笑 ですが、完成度は極めて高く、今後のDIRの方向性を示した曲だと思います。
辛うじて曲構成は原曲を踏襲していますが、サウンドや歌唱法は原曲と似ても似つかない変貌ぶりですね。軽快なテンポ感で地声のシャウトを繰り返す原曲に対し、重厚でうねりのあるリズムに乗せてグロウルやホイッスルが暴れ回り、最後には一気に疾走するというDIR節全開のアレンジになっています。
サウンドについては、とにかく低音が目立つ音作りになっています。薫さんは8弦ギターで演奏してますし、ベースの音がかなり目立ったミックスになっており、スラップのバキバキ感が気持ち良いです。ドラムについては、まさにドゥーミーでどっしりとした音でバスドラの存在感が凄いです。
ボーカルについては、クリーンボイスがほぼなく、序盤は低音のエッジボイスが使用されており、その後はホイッスル、グロウル、ファルセット、オペラのような低音歌唱など、実に多彩です。特にホイッスルボイスがかなりエグいことになっており、終盤、ホイッスルのまま笑ってるのがかなり狂気的です。
歌詞はさすがに原曲のままで、シンプルさが却って不気味です。「メシ喰わせろ!」みたいな歌詞をグロウルで歌っているのって一歩間違えたらギャグなんですが、曲の雰囲気も相俟ってむしろホラー感がありますね。飢え死にしかけの人間が半狂乱で襲いかかってくるような怖さがあるというか。
ライブでは、曲自体の演奏はされたことがないものの、「INWARD SCREAM」の合間にこの曲のフレーズが使われたことはあるそうですね。『DUM SPIRO SPERO』の各曲を良いとこ取りして一曲に凝縮したような、非常に完成度の高い曲なので、普通にライブで聴いてみたいと思います。


LOTUS (2011.1.26)

24thシングル。c/wは4thアルバム『VULGAR』収録の「OBSCURE」のリメイクと、2010年7月20日に新木場で演奏された「冷血なりせば」が収録されています。「LOTUS」「OBSCURE」のミックスをジェイソン・スーコフ、「冷血なりせば」のミックスをチュー・マッドセン、全曲のマスタリングをアラン・ドーチェスが行っており、これまで以上に重さが強調された音になっています。「OBSCURE」は「THE UNWAVERING FACT OF TOMORROW TOUR2010」の後半で、「LOTUS」は「THE UNWAVERING FACT OF TOMORROW TOUR2010-2011」で先行披露されました。

1 LOTUS

Dieさん原曲のヘヴィかつ耽美なミドル曲。全編クリーンボイスとファルセットで構成されていますが、歪みの効いた重低音のサウンドが激しく、一概にバラードとは言えないような楽曲です。音は激しいですが、美しい構築性も兼ね備えています。
イントロから7弦ギターと5弦ベースのリフがゴリゴリと殴りかかってきますが、メロディが始まるとクリーンギターが中心の静かな雰囲気になり、サビになるとまた激しくなるという緩急のある構成です。間奏ではヘヴィなサウンドと美麗なファルセットが絡み合い、その後はまた静と動を繰り返す展開になります。
サウンド面では、ギターのヘヴィなディストーションと耽美なクリーンのコントラストが素晴らしいですね。ベースは、バキバキした音を鳴らしつつも、柔軟に動き回り、低音のギターに全く埋もれていません。ドラムは、多彩なリズムパターンと隙間のないプレイが曲の展開を面白くしていると思います。
ボーカルについては、低音から高音まで幅広い音域のクリーンボイスで、キャッチーなメロディを艷やかに歌い上げています。間奏のファルセットが非常に美しく、ワウのかかった激しい演奏とのコントラストがまた良いんですよね。最後に「What is believing?」というセリフで締めるのもクールです。
歌詩については、この時期の曲にしては珍しくストレートで、解釈によっては読み手を鼓舞するような内容ですね。過去の後悔は消えないし、煌めくような明日でもないけど、それでも生きる。「背に描いた意思」は京さんの背中のタトゥーを比喩として「後戻りしない覚悟」を描いているように思います。
ライブでは通常版もシンフォニック版も2回ずつくらい聴いたことありますが、生で聴くと、イントロがめちゃくちゃ格好良いです。また、ステンドグラスから始まる映像演出が非常に美しいです。ライブでは最後の「蓮を咲かせ~」からのメロディが1オク上がり、曲終わりに「記憶からまだ」と歌い上げるようなアレンジとなりますが、個人的にそれがかなり気に入っています。

2 OBSCURE

『VULGAR』収録の「OBSCURE」のリメイク。原曲からガラッと印象が変わった「残」や「HYDRA -666-」とは異なり、見せたい世界観は原曲のまま変わっていないように思います。ドロドロしたサウンドの原曲とは対照的に、スタイリッシュなアレンジとなりました。
主な変更点としては、音数が少なくなり「間」が意識されていること、テンポが上がり、躍動感のある軽快なリズムになったこと、メロディが変わったこと、あたりですかね。逆に曲構成自体は原曲のまま変わっていませんが、メロディが変わったことにより、曲全体の構成も変わったように聴こえますね。
サウンド面では、ギターの音がスッキリし、ブリッジミュートを活かしたタイトなアレンジになりました。また、ベースはスラップをフィーチャーしたフレーズになっており、曲のグルーヴ感を生み出しています。ドラムは原曲を踏襲しているものの、テンポが上がり、「溜め」がなくなったように思います。
ボーカルについては、シャウトのパートがグロウルとホイッスルになったことで、凄まじい迫力になりました。サビのメロディはまるごと変わり、淫らな暑苦しさがあった原曲と比べるとやや落ち着いた感じがしますね。裏で流れていた数多くのコーラスもなくなり、本作は最小限の声だけで構成されています。
歌詩は基本的に原曲と同じ情景を描写しているように思いますが、出てくるフレーズの順番が変わっています。最後の「背後から聞こえるのは…」は新規のフレーズですがこれが何とも不穏ですね。ただ、原曲では「棘を刺して貴方は消え」ていますが、本作では棘を刺しておらず、「背後から聞こえるのは。。。」と不吉な締め方をしており、悪夢が終わらない絶望感を示しているのかもしれません。
この曲、ライブで一番演奏されている曲なんですが、30回近くDIRのライブに行っている私はまだ3回しか聞いたことがなく、なかなか縁がありませんね…笑 演奏すれば必ず盛り上がる定番曲なので、もっと聴いてみたい気持ちはあります。「TOUR16-17 FROM DEPRESSION TO ________ [mode of VULGAR]」では、『詩踏み』の頃のアー写の仮面をかぶって歌っていたのが印象に残っています。
ただ個人的には、この曲は原曲の方が好きですね。本作の洗練されたサウンドは格好良いですし、ボーカルの進化も凄まじいですが、音のドロドロ感とメロディのキャッチーさという本質的な要素が損なわれてしまったように思います。残のように原曲寄りの再リメイクしてくれないかな…笑 もっと言えば、「UROBOROS -with the proof in the name of living...-」の時に披露された、原曲と本作の中間くらいのアレンジが一番良かったなと、個人的には思っています。


DIFFERENT SENSE (2011.6.22)

25thシングル。c/wは1stアルバム『GAUZE』収録の「蜜と唾」のリメイクの規制版「罪と規制」と、2010年11月9日に新木場で演奏された「RED SOIL」が収録されています。ミキシングをチュー・マッドセン、マスタリングをアラン・ドーチェスが担当しており、音の解像度が高いミックスとなっています。「DIFFERENT SENSE」は「TOUR2011 THE DECOMPOSITION OF THE MOON」で先行披露されました。

1 DIFFERENT SENSE

いろんな曲がごちゃ混ぜになったようなカオスな疾走曲。展開が複雑な曲は以前にも多数ありましたが、その極致とも言えるほど多彩な展開に溢れています。暴力的なサウンドの中で、悲哀に満ちたサビや美麗なギターソロが光ります。
序盤はグロウルで疾走しますが、急にメロディのパートになり、そのまま美麗なサビに入ります。ギターソロでメロウに盛り上げて、またシャウトで疾走した後、能のようなパート、デスコーラスのパートを経て、大サビに流れ込むという詰め込みっぷりです。起承転結というよりは、キメラのごとくいろんなパートを無理矢理融合させたような印象です。
音的には、久々のギターソロが耳を惹きますね。ライトハンドも含めたフレーズが非常にキャッチーで、ドラマチックなメロディを奏でています。バキバキのベースも含め、サウンド全体がゴリゴリの低音で攻めてきますが、メロディパートでは「和」を感じさせる情緒的なギターがアクセントになっています。
京さんのボーカルですが、もはや説明不要なほどに色んな声を使い分けています。能のようなメロディを入れてみたり、サビ前ではクリーンとホイッスルを重ねるなど、新たな試みも行われています。メロディ自体が全体的に歌謡曲的というか、悲哀がこもっていて、激しいのにどこか泣けてきますね。
歌詩は難解ですが、時期的に東日本大震災後の世の中が思い浮かびます。偽善を振りかざして馴れ合っているうちにいろんなものを奪われてしまっている人々のことを描いているようにも見えます。終盤は「終わりにしよう 流れる悔しさも」と決意した直後に「しかし今に気付く 叩き付けられた未来」と、そう簡単に終わらない絶望の余韻を残して終わります。
ライブでは何度か聴いたことがありますが、毎回かなり盛り上がりますね。「誰もが平等の空さえ〜」の部分ではToshiyaさんがシャウトでコーラスしています。「Wacken Open Air 2011」の頃は、特にギターソロの拙さで批判も多かったですが、近年のライブではかなり安定するようになりました。

2 罪と規制

『GAUZE』収録の「蜜と唾」のリメイク曲。タイトルが変わっているのは、その名の通り、歌詩に規制が入ったことによります。疾走感のある原曲の面影はなくなり、スローに狂気を振りまくドゥームメタルになりました。もはや原曲とは別曲です笑
展開としては、スローなテンポでひたすら重苦しくグロウルを聴かせてくるという、かなり攻めた構成になっています。途中、原曲のAメロのフレーズが出てきますが、原曲とは違い、そこから疾走せず、またスローに戻ります。他にも原曲っぽいフレーズは散りばめられているものの、よく聴かないと分からないレベルですね。
サウンド面では、ギターの低音ブリッジミュートでうねうね攻めてくる感じが癖になりますね。また、「感染 縄」からの原曲Aメロパートのアンサンブルがめちゃくちゃカッコよくて、特にベースのスラップとギターのリフの絡みが良いですね。ドラムは、「間」が意識された浮遊感のあるアレンジになっています。
ボーカルについてはほぼ全編グロウルですが、終盤は不気味なファルセットで「人間」と唱え続けています。遅いテンポでじっくりグロウルが聴けるのはこの曲ぐらいですね。耳が慣れないうちは単調に聴こえますが、聴き続けているとだんだん癖になってきます。「1・Sad・Sexually・2・Sad・Sexually」以外は原曲の要素は皆無です・
歌詩については、この曲だけでは何も分かりませんが、何やら凄惨な香りがしますよね笑 一応、原曲ともリンクする内容になっていますが、言葉が抽象的な分、怖さが増しているように思います。歌詩の全貌は、後日リリースされた無規制版で明らかになりますので、以下で解説します。
ライブについても、こちらのバージョンで演奏されたことは多分無く、基本的には無規制版が演奏されています。
ちなみにこのバージョン、『VESTIGE OF SCRATCHES』に収録されています。おそらく、人気があったからというよりは、シングルを買っていない人たちへの救済措置的な意味合いで収録されたのではないかと思います。アルバムとはいえ、ベストとなると規制解除はできなかったようですね…笑


AMON (2011.7.22)

アルバム『DUM SPIRO SPERO』リリースに先駆けて販売された、メンバー全員を対象としたインタビュー記事、撮りおろし最新アーティスト写真、ライブスチールが収録されているブックレット。付属CDには表題曲「AMON」と、オンラインゲーム「Wizardry Online」とのコラボ楽曲である「残 ‐Wizardry Ver.-」が収録されています。

1 AMON

三拍子系のリズムとスラップが生み出す独特の躍動感とギターのリフの機械感が共存するメタル曲。キャッチーさは薄いですが、メロディに開放感があり、独特の宗教感と神秘的なオーラがある曲です。
曲展開は複雑で、テンポアップとダウンを繰り返しながら、シャウトのパートとメロディのパートが交互に現れ、最後の最後で曲を一気に総括するかのように壮大な大サビに入ります。大サビまでは分かりやすい掴みどころがないものの、無機質なサウンドがリズミカルに叩き込まれ、妙に癖になりますね。
サウンド面では特にベースが際立っており、スラップ音がフィーチャーされています。その周囲で負けじと動き回るギターのユニゾンリフもなかなか聴き応えがありますね。ドラムについても、一曲の中で展開が何度も変わるので、かなり複雑ですが、細やかに音が詰め込まれています。
ボーカルについては、低〜中音域のクリーンボイスを中心に、グロウルやホイッスルも交えていますが、シャウト系は比較的控えめなように思います。「この胸がはり叫ぶ日を」の歌声が開放感があって良いですね。最後の「生暖かい風を受けて〜」の部分のメロディがシブくて好きです。
歌詩はタイトルから推測するに、自身の中にいる悪魔をテーマにしているように思います。自分の中から悪魔が張り裂けて出てくる、その瞬間をどこか待ち侘びているような感じというか。ここでの悪魔は紛れもなく自分でもあり、それを曝け出すこと自体、地獄に向かうような覚悟が必要であることを表現しているのかもしれません。
ライブではシンフォニック版と原曲をそれぞれ1回ずつ聴いたことがあります。ただ、原曲はいまいちノリ切れなかった記憶がありますね…テンポはそれなりに速い曲ではありますが、暴れるというよりはじっくり聴いて世界観に浸る楽しみ方のほうが合っているかもしれません。

2 残 ‐Wizardry Ver.-

オンラインゲーム「Wizardry Online」に起用された、「残」のアレンジバージョン。イントロに民族音楽と電子的なノイズが混ざったようなパートが追加され、『UROBOROS』のような雰囲気で曲が始まりますが、それ以外の変化は特にありません。いきなり曲が始まるのでちょっとびっくりします笑


DUM SPIRO SPERO (2011.8.3)

8thアルバム。前作『UROBOROS』から2年9か月ぶりのアルバムです。国内では通常盤、完全生産限定盤の3仕様が発売され、完全生産限定盤では、LP版も付属しています。完全生産限定盤のDisc2には、リメイク版「羅刹国」「AMON(Synphonic Ver.)」「流転の塔(Unplugged Ver.)」の他、デモ版やリミックス曲が収録されています。米ビルボードチャートでは135位を記録していますが、『UROBOROS』の売上・順位を共に下回る結果となっています。

0 アルバム総評

前作『UROBOROS』は、以前の作品と比較しても非常に作り込まれており、濃厚な世界観を感じるアルバムでした。国内外からの評価も非常に高く、その分、リスナーからの次作への期待値も高かったのではないかと思います。そんな中で生み出された『DUM SPIRO SPERO』。結論から言うと、前作以上に世界観が濃厚で、「奥深さ」に関しては歴代一の作品に仕上がったのではないかと思います。
まず、曲に関して言えば、どの曲も非常に複雑な構成となり、一聴しただけでは掴みきれないような曲も多いです。『UROBOROS』も大概、複雑ではありましたが、本作の複雑さはそれを軽く超えています。複雑になっただけでなく、メロディの聴きやすさも薄れ、サビらしいサビが存在しないような曲もいくつか存在します。このキャッチーさの減退については賛否両論ですが、本作を「底知れない」作品たらしめている要因の一つではないかと思います。
サウンド面では、『LOTUS』以降、7弦ギター&5弦ベースを使用するようになり、音がこれまで以上に低く、重くなっています。ギターはディストーションの効いたブリッジミュートや単音のリフが主体で、音が低くなった分、身体に響いてくるほどの重厚な音になりました。また、『DIFFERENT SENSE』で久々に解禁されたギターソロも数曲で登場しており、リフとは対照的にメロディアスなフレーズも聴けるようになりました。薫さんかDieさんのどちらか片方が弾いていた以前のギターソロとは異なり、本作は2人でハモらせたり、交互に弾いたりしてアンサンブルを魅せるようなソロになっています。ベースについては、スラップが多用されるようになり、以前よりもパーカッシブなフレーズが増えています。ギターの音が低くなるにつれて、どんどんベースが聴こえにくくなっていた中で、存在感が格段に増しました。単に聴こえるようになっただけでなく、曲に躍動感を与えており、重いだけではない魅力を生み出しています。ドラムについては、さらに手数が増えており、これにより曲がよりタイトになったような感じがします。展開が複雑な分、リズムパターンもかなり多く、シンプルに難易度が上がったのではないかと思います。また、この時期の曲はライブではメンバーそれぞれがクリック音を聴きながら演奏していたそうですが、これまでとは異なり、ドラムがリズム楽器というよりはメロディを奏でているようなフレーズになっています。その意味では、グルーヴ感は減退したのではないかと思います。
京さんのボーカルについては、『UROBOROS』で一通りの歌唱法を確立させてから、さらにパワーアップしていますね。特に、ホイッスルボイスが歪んだ声質になり、迫力を増しています。グロウルの使用率は『UROBOROS』よりも減っていますが、こちらもより低くなり、要所で曲に深みを与えています。クリーンボイスについては、平均的なキー自体は前作より低くなっていますが、低音と高音の差が大きく、「VANITAS」ではさらっとG#5の高音を出していています。本作は前作以上に声の使い分けが多い上に、メロディも複雑なので、非常に高度なボーカルワークを発揮していると言えるでしょう。
ミックスについてはTue Madsenが担当していますが、一つ一つの音の解像度が高く、歴代一と言っても過言ではないくらい音質が良いです。特に前作はミックスが賛否両論だったため、この違いはかなり大きいと言えるでしょう。本作以降、しばらくTueとの協働は続き、現在でもミックスに関わることも少なくはありません。
歌詩については、前作に増して難解さが増しています。ただ、本作のタイトルが「生きている限り、希望を抱く」という意味である以上、多くの曲がそこに繋がってくる内容なのではないかと思います。とはいえ、直接的なポジティブさは全く無く、むしろ生き地獄でもがいているような内容の歌詩ばかりですね笑 また、本作がリリースされる5ヶ月前に、東日本大震災が起こり、その影響が作品にも少なからず出ているようにも思います。「死」や「絶望」について考えることは、逆説的に「生」や「希望」について考えることになる。それくらいの感覚で聴くのが良いのかもしれませんね。
以上の通り、本作は「複雑さ」「難解さ」「重さ」を徹底的に追究して完成した作品と言え、歴代アルバム随一の「マニアック」で「取っ付きにくい」アルバムとなっています。ただその分、本作の魅力に気付いた時に、その完成度の高さの虜になってしまい、一度ハマるとなかなか抜け出せなくなるような中毒性もあります。賛否両論のアルバムですが、DIRの作品の中では最も「濃厚な」作品だと思います。
ちなみに本作は、私自身が虜になって初めて新作としてリリースされたアルバムだったので、何かと思い出深い作品です。買った当時は難解すぎてあんまりハマりませんでしたが、気づけば毎日聴くくらいには好きになっていました笑

Disc1

1 狂骨の鳴り

本作のオープニングSE。歴代アルバムの中でも取っ付きにくさNo.1の本作の入口に相応しい、不気味さの極みのようなSEですね。耳をつんざくようなノイズ音や京さんの狂気的なシャウトと、重々しいシンセのメロディの融合が、凄惨な情景を思い起こさせます。
ピアノの音から始まりますが、このフレーズが不協和音混じりで、美しくもホラーチックなんですよね。その後、一瞬の無音を挟んで、電流のようなノイズ音と、京さんの呻き声、低く鳴るシンセの音が一気に襲いかかってきます。まるでパンドラの箱を開けてしまったかのような、悪夢の始まりを感じます。
私が初めて見たDIRのライブのOPがこの曲だったんですが、ノイズ音の臨場感に凄くワクワクした覚えがあります。印象的だったのはDUM武道館の時で、青い電流が流れる映像演出が曲のイメージに合っていました。めちゃくちゃ怖いけど、なんかゾクゾクする。DIRの魅力が詰まったSEだと思います。

2 THE BLOSSOMING BEELZEBUB

本作の核とも言える、スローなヘヴィナンバー。前衛的な曲で、遅いテンポとヘヴィなサウンド、キャッチーさの薄いメロディがじわじわと耳に染み込んできます。不穏なのにどこか優雅な雰囲気もあり、DIRの濃い部分をじっくり堪能できる曲です。
一曲の中で同じ展開が二度来ることがない曲で、次々に展開が変わっていきますが、雰囲気は最初から最後まで一貫しているように思います。全体的に「mazohyst of decadence」とかにも通ずるような気だるい雰囲気ですが、一度入ったら戻れない迷宮のような閉塞感があり、じっくり聴いていると深淵に誘われるような没入感が芽生えてきます。
サウンド面では、ギター2人が曲の展開をリードしているように思います。導入から7弦の開放弦で始まり、ヘヴィなディストーションで重たく迫ってきます。中盤では高音のハモリが妖しく響き、どことなくブルータルな雰囲気が漂います。リズム隊については、要所でベースのスラップが歪な躍動感を生み出し、スローなドラムが曲の重さをより強調します。
京さんのボーカルについては、グロウルは使用されていないものの、クリーンやファルセット、ホイッスル、呻き声など、多彩です。まるで二重人格のように、クリーンボイスとその他の声が交互に現れ、特に序盤のお経のようなファルセットや、後半の呻き声やホイッスルは狂気そのものです。
歌詩はタイトルと合わせて文字通りに読むと、蝿に憧れる主人公の話になりそうですが何かの比喩ですかね。自分の中のグロテスクで悪魔的な部分を、まさに羽を生やして自由に飛び回るかのように曝け出したいという願望がありつつも、結局は外に出せないまま葛藤が渦巻いているような感じもします。
ライブでは原曲とシンフォニック版が半々くらいの割合で演奏されていますが、近年はめっきり演奏されなくなりました。武道館公演「DUM SPIRO SPERO」では、当時の新曲だった「Sustain the untruth」を除いて唯一2日とも演奏された曲で、当時を象徴する楽曲でした。ライブだと7弦ギターの低音がずっしり身体に響き、虫まみれの映像とともに世界観に浸れます。

3 DIFFERENT SENSE

25thシングル。アルバム版では、少しだけ音のバランスが変わった他に、イントロにドラムとベースのパートが追加されています。武道館公演「DUM SPIRO SPERO」ではこの追加パートも演奏されましたが、基本的にはここは演奏されていませんね。個人的にはシングル版の方がスネアの音がハッキリ聴こえて好きです。
「THE BLOSSOMING BEELZEBUB」の迷宮をたどり着いた先にあった、秩序のない混沌とした世界。この曲にはそんなイメージがありますね。前曲からのタメがあるからか、アルバムで聴くとより速く感じますね。シングルなのでキャッチーさもありますが、本作らしい、複雑怪奇な曲だと思います。

4 AMON

先行発売されたブックレットの表題曲。特に変更点はありません。
前曲「DIFFERENT SENSE」はカオスながらもキャッチーさを兼ね備えていましたが、この曲はそういったキャッチーさを排した無機質な曲で、いよいよ「DUM SPIRO SPERO」が始まったという感じがします。
ところで、数あるアルバム曲の中で、なぜこの曲が先行曲として選出されたのでしょうか…? シンフォニック版が制作されていたのも理由の一つだと思いますが、アルバムのイメージとして当時のメンバーの中では象徴的な曲だったのかもしれませんね。

5 「欲巣にDREAMBOX」あるいは成熟の理念と冷たい雨

京さん原曲の、ギターの刻みと妖しげなメロディでねちっこく攻めてくる曲…と見せかけて途中でいきなり疾走したりするカオスな曲です笑 奇妙な構成ですが、意外と聴きやすい曲です。タイトルは現状、DIRの全ての曲の中で最も長いです笑
基本的にはギターの低音ブリッジミュートを主体として、ミドルテンポで妖艶なメロディを聴かせてきますが、中盤と終盤で、アルバム最速レベルのスピード感で疾走し、発狂したボーカルが猛威をふるいます。メロディについては、序盤は不協和音的な不安感がありますが、サビはキャッチーですね。
サウンド面では、ギター2人のユニゾンブリッジがザクザク聴こえて気持ち良いですが、ちらほら入ってくる怪しげなクリーントーンも雰囲気があって良いですね。ドラムは遅いパートでは、横ノリ的な踊れるリズムですが、早いパートではブラスト一歩手前の高速連打で、この振れ幅がたまりません。
京さんのボーカルは例に漏れず多彩ですが、ファルセットの使い方が秀逸で、特に「水遊びではしゃぐ〜」の部分はエフェクトのかけ方も含めて面白いです。使用音域も広く、リズムの揺れも相俟ってクリーンボイスが艷やかな一方、疾走パートではキレッキレのホイッスルボイスが清々しいです。
歌詩は、常識に閉じ込められる中で、幸せだと錯覚させられながら無残に死んでゆく人々の姿を想像してしまいます。「雨と化す」「歪な幸福」というのが「常識に押し込められていくこと」と捉えると、「雨上がりには明日の自分を殺してしまう」の意味がなんとなく通るような気がします。ちなみに「DREAMBOX」は、犬や猫の殺処分をする部屋のことを表すらしいですね。私の解釈ですが、この歌詩は文字通り動物が殺されているというよりは、それを比喩として、人間の自我をまとめて殺してしまうような社会の仕組みへの皮肉と悲しみを歌っているように思います。
この曲もライブでは3回ほど聴いたことがありますが、遅いパートの踊れる感じと、速いパートの頭振れる感じの両方を楽しむことができて良いですね。リリース直後は公式の推し曲だったように思いますが、近年はめっきり演奏頻度が減りました。本作のアルバム曲もっとライブで聴きたいんですけどね…

6 獣慾

凝った作りのスピードナンバー。アルバムの中では速い曲ではありますが、勢い重視というよりは、本作の曲らしく展開に富んでおり、聴き応えのある曲です。ちなみに私は、本作を初めて聴いたときに一番ハマったのがこの曲で、当時何度もリピートしたのを覚えています。
序盤は激しいタム回しの上で、歌と高音のギターがリズミカルに跳ね、そのまま疾走。中盤は、ギターのリフとともに縦に揺れたあと、デスコーラスのパートを挟んで疾走。終盤はギターソロからのデスコーラス、サビと続いて最後にまた疾走。多彩な展開の中にフックとなるフレーズが散りばめられています。
サウンド面では、ドラムの多彩なリズムパターンが面白く、特に序盤はタム回しとベースの絡みが気持ち良いです。ギターはヘヴィなリフが主体ではあるものの、所々に入ってくる機械的な高音のハモリが良いアクセントになっています。ギターソロとサビ裏で動き回っているDieさんのギターのフレーズが癖になる音をしていますね。
ボーカルについては多彩なシャウトを駆使していますが、特にホイッスルボイスの使用率が高いです。勢いで押している部分は基本ホイッスルです。クリーンボイスも意外と少なくなく、特にサビのメロディが妖艶で好きなんですよね。「End of Era」やその後の「アー」部分は東洋の民族っぽさを感じますね。
歌詩は、獣慾というタイトル通り、激しい性行為の描写をしているのかなと思います。主語が曖昧ですが、英訳版を読む限り、女性側が男性側に他の男との行為の様子を隣の部屋で聞かせ、男を錯乱させて悦に浸っている様子が思い浮かびます。悪阻も多分他の男との子を身籠ったときのものですかね。
この曲はおそらく5回ほどライブで聴いていますが、武道館公演「DUM SPIRO SPERO」で、炎が上がる演出の中、演奏されていたのが印象に残っています。盛り上がりどころがいくつかある曲なので、ライブ映えはするものの、展開が複雑なので、聴き込んでいないとなかなかノリにくいかもしれませんね。

7 滴る朦朧

Toshiyaさん原曲の、変拍子が特徴的なミドル曲。サビらしいサビがなく、リズムが複雑なので、耳が慣れないうちは掴みどころがないですが、V系的な艷やかさを少なからず感じる曲ですね。淡々として機械的な印象もありますが、終盤で一気に狂い出します。
変拍子のドラムから始まり、終盤までは一定のリズムを保ち、怪しいフレーズのギターとボーカルが、艷やかに駆け巡ります。終盤では、跳ねるようなリズムに変わり、グルーヴィなシャウトのパートが始まりますが、最後はゆっくりと、野性味溢れるタム回しと不気味なSEに幕を下ろします。
サウンドは何と言っても複雑なドラムが癖になりますね。ただ複雑なだけでなく、手数も多いので、ドラムを聴いているだけでも飽きないです。ヘヴィなリフの裏で聴こえる高音の艶やかなフレーズのギターも良いです。終盤の発狂パートでは、ベースのスラップとドラムの絡みも心地が良いですね。
ボーカルについては、サビがない分、一つ一つのメロディに妖しげな美しさがあります。またリズムが複雑なので、どこか掴みどころのなさがあり、それが不安を煽ってきますね。間に入ってくるグロウルが曲に抑揚を生み出しています。終盤の発狂パートでは、ファルセットの入れ方が独特で面白いです。
歌詩はどことなくカニバリズムを連想させるようなワードが散りばめられています。詩にも出てくる「蟷螂」のメスは交尾中にオスを食べることがあるそうで、これに見立てて、男を殺して死姦した後に食している女の心理が描写されているように思います。曲の不気味さと合わさって非常に怖い歌詩ですね…
この曲は本作を引っ下げたツアーが終わった後も度々セトリに入ってきている印象です。独特の空気感のある曲なので、フェイズを変えるのにはうってつけなんだと思います。ライブでは京さんが踊りながら歌うのが特徴的で、武道館公演「DUM SPIRO SPERO」では最後の発狂パートでマイクを振り回しながら歌っています。

8 LOTUS

24thシングル。ミックスが変わっており、シングル版ではやや籠り気味の音で低音強め、ボーカルがやや引っ込み気味ですが、アルバム版ではボーカルが強調されるとともに音の細部が聴こえやすくなり、特にベースのバキバキ感が際立っていますね。肌感覚ではアルバム版の方が好評な印象ですが、私はどちらも好きです。
ここまで取っつきにくい曲が続きましたが、この曲はかなり聴きやすいので、少し安心感がありますね。アルバムの流れを変えるのにちょうど良い位置だと思います。

9 DIABOLOS

美しくもダークな長尺曲。「THE BLOSSOMING BEELZEBUB」と並んで本作のキーとなる楽曲です。目まぐるしく景色が変わる前作の長尺曲「VINUSHKA」とは異なり、同じ景色を保ったまま緩やかに展開が変わるイメージです。個人的には、アルバムに込められたメッセージを象徴するような曲ではないかと思います。
曲の構造としては前後対称的なイメージで、メロディ→シャウト→メロディ+セリフ→シャウト→メロディのパートという感じです。テンポは変われど、どのパートも一貫して、重く暗く、でもどこか神秘的な雰囲気があります。まさに歌詩にも出てくる「死の海」の波を音で表現しているようなイメージです。
サウンド面では、全体的にツインギターの表現が美しいですね。ヘヴィなリフと湿ったクリーンの使い分けも秀逸ですし、ギターソロは、リズム隊のグルーヴ感と相俟って非常に聴き応えがあります。三連符のグロウルパートのアレンジも、他の曲にはないような躍動感があり、どこか癖になりますね。重いシンセの音も、曲の世界観と合っていると思います。
ボーカルは、全体的に落ち着いた感じではありますが、パートによって声質を使い分けています。個人的には三連符のグロウルの部分と、「ほら野原の風〜」の儚げなメロディ、「神々しい貴方は」のハモリ、ラストの「ただ少し愛したい〜」の高音クリーンあたりが気に入っています。セリフ直前のホイッスルのロングトーンはかなり器用ですね…
歌詩は様々な痛み(常識に嵌められたり、建前の裏側で傷つけ合ったり等)の中で、何度明日に向かおうとしても闇に引きずり込まれる無限ループのような苦しみを表現しているように思います。セリフに出てくる「人間を辞める」というのは、世界と断絶して、「自分」を生きる決意を示しているのかもしれませんね。でも最後には「昨日の手首が放せない」と書かれており、結局闇に引きずり込まれているのがリアルです。
ライブでは当時切り札として、発売から1年以上封印されていました。ライブだと音源以上に展開の起伏を感じられ、特に疾走パートは非常に勢いがあります。「さあ人間をやめろ」がライブでは叫び声になり、高揚感が湧きます。武道館公演「DUM SPIRO SPERO」では、2日目の本編ラストに演奏され、同公演では、「DUM SPIRO SPERO」収録曲ではトリを飾っています。その意味でも、このアルバムの本質が詰め込まれた曲なのかもしれません。

10 暁

Toshiyaさん原曲の、和風ミクスチャーロック。ベースのスラップが曲をリードする躍動感のある曲ですが、本作のアルバム曲では珍しくメロディが存在感を放っており、比較的聴きやすい曲です。そこはかとなく漂う和風な香りと、耳に残るサビが癖になります。
全体的に躍動感のあるリズムの上で、バンドサウンドが飛び跳ねているのとは対照的に、歌メロは粘り気がありますね。曲の前半は演歌調のメロが中心ですが、中盤でサビに入ったあたりから曲の激しさも増し、ラップも登場。エフェクトがかかったDieさんのギターソロを挟んでラスサビという構成です。
サウンド面では、ベースのスラップと和太鼓風の躍動感溢れるドラムプレイが主軸になっていて、非常にグルーヴィです。曲の前半では薫さんのディストーションとDieさんのクリーンの分離が懐かしい感じですね。1サビ前のワウや、間奏のギターソロなど、Dieさんの機械感のあるアレンジも面白いです。
ボーカルはクリーンボイスとファルセットの割合が高く、低〜中音域でねっとりと歌い込まれていますね。なんと言ってもサビの「No More No」の歌い方が非常に癖になります。ラップパートは意外と短いですが、地味に韻が踏まれています。サビ裏で流れているグロウルが良い味を出しています笑
歌詩は非常に難解ですが、「手に入らない愛」について歌われているように思います。「愛し合えない双生児」や「ダッチワイフ」など、誰かと交われないことへの葛藤や、他人が見せる「甘味」にナイフを突き刺してしまう苦しみを表現しているのかもしれません。サビでは「明日」への拒絶を感じますね。
ライブでは近年でも時々アンコールで演奏されている印象です。私はまだ2回くらいしか聴いたことがないのですが、本作の中では比較的ノリやすい曲ですよね。「TOUR16 FINEM LAUDA」の名古屋公演で、京さんがこの曲をやり忘れたことにより、最終的にこの曲がアンコラストになったそうですね。なんだかほっこりするエピソードです笑

11 DECAYED CROW

アルバム屈指のファストなナンバー。ブルータルなフレーズのリフと、京さんの阿鼻叫喚のホイッスルシャウトが猛威を振るっていますが、本作の曲らしく、しっかり計算されていて、展開の凝った曲です。意外と暴れるよりも、聴いて楽しめる曲かもしれません。
最初から最後まで激しい曲ですが、リズムパターンが複数あり、速く駆け抜けるパートと、鈍くのしかかるパートが混在しています。いずれのパートも京さんのホイッスルやグロウルが炸裂していますが、代わりにギターが歌っているようにも聴こえます。最初と最後が同じフレーズで、そういう意味でも構成美も感じますね。
サウンド面では、ブルータルなメロディアスさを感じるギターが耳に残りますね。「血が吹き流れようが〜」あたりのデジタルなエフェクトも、曲のスピード感が強調されて格好良いですね。終盤のギターソロは良い感じにクサいです。ドラムは緩急がありますが、特に終盤の「盲目共」の後の疾走が好きです。
京さんのボーカルはクリーンボイス0でほぼホイッスルシャウトとグロウルで、その狂いっぷりは「来るところまで来た」感が凄いですね…笑 「Success? And Corruption」はギターと上手く絡んでメロディっぽくなっています。この曲での京さんの声はギターよりも楽器してると思います笑
歌詩は「血」やら物騒な言葉が並べられていますが、「狂気の解放」を表現しているように思います。腐り切った自分を曝け出すこと。案外この曲、ファンに向けた歌詩だったりしないですかね…「自らかっ切れ」とか「ド頭に風穴」とか、近年京さんがよく言っている「首を落とせ」のニュアンスに近いような気もします。
この曲は2016年の「FROM DEPRESSION TO ________ [mode of DUM SPIRO SPERO]」以来、全く演奏されていません。私は3回くらいライブで聴きましたが、速い曲の割に、作り込まれすぎているからか、意外と盛り上がりにくい印象がありますね。京さんの喉への負担も大きそうですし、メンバーからも敬遠されているのかもしれません。曲としての完成度は高いんですけどね…
ちなみに2016年の「FROM DEPRESSION TO ________ [mode of DUM SPIRO SPERO]」ではまさかの音源化されていないシンフォニック版が演奏されていました。でも、ライブだと、音が激しすぎてストリングスの音がほとんど聴こえなかったんですよね笑 武道館公演「DUM SPIRO SPERO」DVDのボーナスCD、リミックスよりはシンフォニック版を入れて欲しかったのが本音です。

12 激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇

23rdシングル。アルバム版では、7弦ギターで録り直され、よりヘヴィになるとともに音の分離も良くなりました。ただ、この曲はシングル版の疾走感のあるミックスの方が合っているように思いますね…シングル版は音が混ざっているので、各楽器がどんなフレーズを弾いているのかを聴きたいならアルバム版がオススメです。
この曲、正直、あんまり本作の雰囲気に合っていないように思うんですよね…本作の曲にしては、あまりにも勢いがありすぎるし、あまりにも取っ付きやすすぎる感じがするんですよね。かといって、次の「VANITAS」のような、意図的に本作で浮くような雰囲気にしているような感じもないというか。では前作『UROBOROS』の雰囲気なのかと言われるとそうでもない。この曲にしかない独特の空気感があるように思います。だからこそ、どのツアーで演奏してもハマるのかもしれませんが笑

13 VANITAS

Dieさん原曲の、安らかで儚げな鎮魂曲。複雑で難解な曲の多い本作の中では、ストレートにキャッチーな曲で、むしろこのアルバムに収録されているからこそ輝きを放っている曲だと思います。「死別」と向き合った歌詩が悲しくも心に沁みる一曲です。
神秘的なアコースティックギターと歌から始まり、シンプルな曲展開かつキャッチーなメロディで、他のアルバム曲とは真逆の作りになっています。Aメロはクリーンギターを主体として静かですが、Bメロから歪んだ音も入ってきて力強くなります。全体的に浮遊感がありますが、強い情感も感じるドラマチックな曲ですね。
サウンド面では、間奏のギターソロが非常に美しいですね。少しX JAPANのバラードを想起するような泣きのフレーズで、ツインギターのハモリが切ないです。薫さんの野太いギターの音もこの曲だと生命力のようなパワーを感じます。リズム隊はゆったりしたテンポで、いい感じに浮遊感を出していますね。
京さんはほぼクリーンボイスですが、落ち着いた美しい歌声を披露しています。ラスサビの後半は1オク上がって、最高音G#5と、DIRの曲の中でも最も高いキーを出していますが、その部分のメロディが切なくて泣けますね…終わりがけにも振り絞るような高音を出しており、悲痛ながらも美しいです。
歌詩もストレートで、死別の悲しみと、その悲しみを振り払って生きる決意が描かれています。蜉蝣の大佑さんとの死別、その後の3.11など、当時の京さんにとって「死」は苦しくも大切なテーマだったと思います。「足を止めず向かう先で逢えるから」も良いんですが、その後のフレーズが何とも切ないです。
この曲、リリース当時も本当に短期間しか演奏されていなかったし、武道館公演「DUM SPIRO SPERO」以降は2016年の「FROM DEPRESSION TO ________ [mode of DUM SPIRO SPERO]」以外では演奏されていません。ライブだと星空の映像演出が綺麗で、曲の美しさと相俟って非常に感動的なんですが、メンバーとしてもあまり安売りしたくない曲なのかもしれませんね。

14 流転の塔

本作のラストを飾る曲。静けさも激しさも全て詰め込んだ曲展開と、耳に残りやすいサビのメロディが秀逸で、聴きやすくも深遠な余韻を残してアルバムを締め括ります。全てが崩壊した後に残った虚無感と、無から始まる何かを感じさせる不思議な曲ですね。
序盤、中盤、終盤と三度訪れる深遠なサビの間に、重たく低いメロのパート、神々しいファルセットのパート、オペラのようなパート、グロウルで疾走するパートなど、様々な展開が用意されています。個人的には、一曲の中に本作の様々な景色を走馬灯のように凝縮した曲のように思います。
サウンド面では、イントロのクリーンギターのフレーズが印象的で、これだけで十分に「終わり」を表現できていると思います。重たく降りかかるドラムとギター、スラップで曲を生々しく躍動させるベースのアンサンブルが魅力的で、効果音的にいろんな音を混ぜ込んでくるDieさんのギターも良いですね。
京さんは、重厚なクリーンボイスを主軸に、多彩な声で様々なアプローチをしています。低音で繰り返す「mind」から、「胸骨泣き開く」ではオペラのようにコーラスを重ねています。曲の終わりにはシャウトや歌を何重にも重ね、まさに混沌としています。でもサビは聴きやすく、綺麗な高音を力強く響かせています。
歌詩は、過去への執着と、逃れられない未来について描かれているように思います。疾走パートの部分は、同調圧力への抵抗心とそんな自分への傲慢さを皮肉っているんですかね。「終わり亡き日差しは眩い程残酷で」が実に京さんらしい表現ですよね。これでもかと生きづらさを感じる詩です。
この曲もあんまりライブで演奏されませんね…リリース当時から演奏率は低いと思います。ただ、私が観に行った武道館公演「DUM SPIRO SPERO」2日目では、「MACABRE」の後にこの曲が演奏されたのですが、今でもハッキリ覚えているくらい衝撃的でした。神々しく壮大な世界観に圧倒され、鳥肌が止まらなかったのを覚えています。


Disc 2 (完全生産限定版)

1 羅刹国

『MACABRE』収録曲「羅刹国」のリメイク曲。原曲のスピード感はそのままに、キーを3音半下げ、ボーカルはほぼグロウルとなり、本格的なデスメタルに生まれ変わりました。言わずと知れたライブ定番の暴れ曲です。
曲の構成は基本的に原曲を踏襲していますが、イントロが追加された他、「此乃世は修羅乃国」の後に東洋的な儀式のようなパートが挿入されています。音の変化により、原曲からかなり印象が変わりましたが、勢いはそのままに、当時表現しきれていなかった世界観が強化された良アレンジと言えるでしょう。
サウンド面では、7弦ギターと5弦ベースの低音が迫力満点ですね。チョーキングを活かしたリフ、随所に混ぜ込まれたスラップなど、小技がふんだんに詰め込まれているのが原曲との違いです。ドラムは単調だった原曲から一転、要所で溜めを入れたり、テンポを変えたりと、抑揚のあるアレンジとなりました。
ボーカルについてはほぼグロウルとなり、よりブルータルな雰囲気になりました。「首生掴み民は言う〜」の部分は高音のファルセットが気持ち良いです。儀式パートでは怪しい歌声で伸びやかに歌い上げており、宗教感がありますね。メロディがほぼなくなったことについては賛否両論ありそうな気がします。
歌詩はほぼ原曲のままですが、セリフだったフレーズの一部がサビの後半に流用されました。元々、歌詩は雰囲気モノのイメージがありましたが、秩序が乱れて暴力が暴力を呼ぶ地獄のような世の中を描いているように見えますね。本作を一通り聴いた後だと、現実世界の話をしているようにも見えてきます笑
この曲はいついかなるライブであっても聴きたい曲ですね笑 ここまでシンプルに暴れに特化した曲は他にないと思います。アルバム本編には勢い重視の曲ってほとんどないので、この曲がそれを補完するような形になったのではないでしょうか。

2 AMON (Symphonic Ver.)

「DUM SPIRO SPERO」のシンフォニック曲の第一号。ライブではこちらの方が演奏されている回数が多く、ある意味、これこそが「AMON」の完成形と言えるかもしれません。元々どこか神秘性のある曲ですが、ストリングスが曲の荘厳さを際立てています。特に大サビとの相性が抜群で、非常に盛り上がりますね。2016年の「FROM DEPRESSION TO ________ [mode of DUM SPIRO SPERO]」でシンフォニック版を聴いたときは、曲展開の美しさと、京さんの神々しさにちょっと感動しましたね。

3 流転の塔 (Unplugged Ver.)

原曲のボーカルトラックをピアノの演奏に乗せたアレンジで、序盤〜中盤は悲壮感がありますが、終盤では一気に優しい雰囲気になり、カタルシスを感じますね。原曲でもありましたが、赤い靴のフレーズが一瞬出てきます。ボーカルが主旋律のみなので、京さんの素の歌声が聴けます。ハモリなしでも高音が太くて圧倒されます。

4 DIABOLOS (Demo2010, Short Ver.)

「DIABOLOS」の原型。完成形のような疾走パートやセリフのパートはなく、元はほぼクリーンボイスのみのバラード曲だったようで、完成形以上に淡々と進んでいきます。これが完成形だったとしたら、かなり掴みにくい曲だったのではないでしょうか。2018年のツアー「真世界」ではこっちが演奏されたようですね…聴きたかったです。

5 暁 (Demo2010)

「暁」の原型。曲の構成はあまり変わっていませんが、メロディアスな完成版とは異なり、京さんのボーカルがかなり激しく、シャウトしまくっています。まさに歌詩にも出てくる「ナイフ」のように切れ味のあるボーカリゼーションです。私は完成形のどこか歪な感じのメロディアスさが好きなんですが、デモ版の方が迫力があって好きという人もいそうですね。


蜜と唾 (2011.8.22)

期間限定配信及びライブ会場限定シングル。シングル『DIFFERENT SENSE』のc/w曲「罪と規制」の原型となる、「蜜と唾」が収録されています。2011年8月22日にitunesで配信が開始されましたが、現在は停止。その後、「TOUR2011 AGE QUOD AGIS Ratio ducat, non fortuna -Zombie-」(2011年9月13日、CLUB CITTA')、「TOUR2011 AGE QUOD AGIS Ratio ducat, non fortuna」(2011年11月11日、TOKYO DOME CITY HALL)および「UROBOROS -that's where the truth is-」(1月22日、大阪城ホール)において会場限定販売されました。

1 蜜と唾

1stアルバム『GAUZE』収録曲「蜜と唾」のリメイク。「罪と規制」では規制により隠されていた歌詩、及びその部分のボーカルパートを聴くことができ、これこそ「蜜と唾」リメイクの真の姿とも言えるでしょう。
隠されていた歌詩は、幼児に性的暴行を行った実在の人物名だったり、「死姦」「ペドフィリア」などの異常性癖とされるようなワードが入っていたりなど、規制もやむなしといった内容です笑 歌詩の全貌が明らかになり、幼児への凄惨な性的暴行の生々しい情景が思い浮かびます。原曲も、少女への性的暴行をテーマとした曲でしたが、本作はさらに生々しくなっています。
歌詩が追加された分、ボーカルパートも増えており、「罪と規制」で目立っていた隙間がなくなり、聴きどころも増えました。特に、「パトリック レノン」からのホイッスルボイスと「死姦」のホイッスルボイスが凄まじいですね。終盤までほぼ休みなくグロウルが続き、深い闇の底に引きずり込んできます。
「Wacken Open Air 2011」以来、ライブではこちらが演奏されており、「罪と規制」は演奏されたことがありません。ライブだとスクリーンに映し出された歌詩が一単語ずつ迫ってくる演出があり、それが格好良いんですよね。2013年のツアー「TABULA RASA」では、顔面ドアップの京さんが歌っている姿が映し出されており、迫力満点でした。
2014年の「PSYCHONNECT -mode of ”GAUZE”?-」では、原曲と併せてこちらのバージョンも演奏されていましたが、「mazohyst of decadence」との組み合わせがとても良かったです。2016年の「FROM DEPRESSION TO ________ [mode of DUM SPIRO SPERO]」では音源化されていないシンフォニック版で演奏されていました。この曲ライブだとめちゃくちゃ格好良いので、聴けると思っていなかったこのツアーで聴けて本当に嬉しかったですね。
この曲、「DUM SPIRO SPERO」には収録されていなかったものの、当時、「THE BLOSSOMING BEELZEBUB」と並んでライブの雰囲気を作り出す上で重要な曲として扱われていたように思います。ある意味、「DUM SPIRO SPERO」のどの曲よりもコアな曲で、当時を象徴する曲と言っても過言ではなかったと思います。


UROBOROS [Remastered & Expanded](2012.1.11)

7thアルバム『UROBOROS』のリマスター盤。
個別記事を作成しました。


最後に

過去最高レベルで濃厚な作品を作り上げたDIR EN GREY。しかし、その分ライブでの負担に苦しんだり、メンバー自身がバンドの方向性に対して疑問を抱き始める時期に差し掛かってきます。

そんな中、京さんの喉の不調をきっかけに、一時的にバンド活動が停止します。次回は活動再開後にリリースされた『輪郭』『THE UNRAVELING』の感想を書きたいと思います。


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