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【おすすめ本】「アートは自由だ」と言うために(村上隆/芸術闘争論)

今週もこんにちは。ウガンダに来ました🇺🇬〜こちらは朝夕涼しく、過ごしやすいです。

今日紹介する村上隆さん(1962-)は日本を代表する現代アートの作家。アート好きなら知っているよって方も多いでしょうし、作り手なら好き嫌いはあれ影響を受けている人だろうと思います。僕は本を読んだのは今回が初めて。

本書には、村上さんが一人のアーティストとして、アートという業界をどのように捉えているか、日本の人たちがそこに躍り出て生き残っていくためにはどうすればいいのかが書かれています。

▼▼今回の本▼▼

自分の商売道具を叩き売る、いわばアーティストの虎の巻(村上さんの言葉を借りれば「旨いラーメン屋のレシピ」)。そんな本書を村上さんが書いた問題意識は明確です。それは、日本という国があまりにもアートシーンにおいて存在感を失っていること。

 そもそも、アーティストと呼ばれる日本人の中で世界で活躍しているのは一〇人くらいしかいません。では、その一〇人に共通する法則はあるのか?
 つまり作家、もしくは作家志望が数万人いる中で、なぜその一握りしか成功していないのか。不思議ではありませんか。

村上隆. 芸術闘争論. 幻冬舎文庫. 2018. Kindle の位置No.92-95.

その原因は、日本のアートシーン、特に美術教育が「自由=芸術=正義という自由神話」に浸かりすぎていることにあると村上さんは言います。芸術が、芸術家ではなく、ルールを嫌うだけの「自由人」を生み出しているというのです。

彼ら(注:美大生)はぼくの授業を受けても、絶対に現代美術のアーティストにはなりません。その代わりに彼らのいうところの「自由人」になるのだと思います。そして、「なぜ私は、アーティストじゃないんですか、こんなすばらしい自由人なのに」と悩むわけです。でも、さきほどからずっと口をすっぱくしていっているように、現代美術は自由人を必要としてない。必要なのは歴史の重層化であり、コンテクストの串刺しなのです。

同上, 位置No.1112-1116. 

辛辣、というか「アートは自由じゃん」と思う人は多いはず。でも、村上さんはそれ自体を否定しているわけではない。ただ、「アートは自由だから」という理由で思考を放棄することを批判しているのです。考えなくていいこと=自由ではなく、考えることで自由に近づくのだと。

村上さんが言っているのは「アートは無法地帯ではなく、ルールがある」「そのルールはたえず変わっていく」ということ。ルールを学び、技を磨けば、好きなことをして食べていけるかもしれない。全力でやれ! と喝を入れる村上さんの声が聞こえてくるようです。

ひと口に、作品を売って「金を儲ける」といいますが、自分の手に持っている職で金を儲けるには種も仕掛けもない。自分の持つ正義への忠誠心に忠実に生き、こつこつとモノを創造し、社会に問い、そしてその問いかけに対しての評価が下る。良い時も悪い時も、自分の正義に忠実であってそれが社会から信用を勝ち得た瞬間しか儲けを手に入れることはできません。

同上, 位置No.1619-1623.

アートは自由だ、というためには努力が必要。その努力のひとつの方法を村上さんは本書で提示しています。ルールに従う闘いもあるし、従わない闘いもある。ただ業界(他人)のために何か言える人ってすごいなと僕は思います。もの作りに関心がある人ならぜひ読んでみて頂きたい一冊です。

(おわり)

▼▼前回の本▼▼


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