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【おすすめ本】伝染する怒りのはてに(吉田修一/怒り)
今週もこんにちは。冷たい空気と曇り空。年の瀬ですね〜。
今回は吉田修一さんの「怒り」を紹介。中公文庫から上下巻で出ています。渡辺謙や広瀬すず、森山未來などの豪華キャストで映画化もされている作品です。
▼▼今回の本▼▼
ある夫婦が惨殺されるという事件が起きた一年後。接点のない3組の登場人物の前に身元不詳の男が1人ずつ現れる。その3人の謎の男のなかに殺人犯がいるのか、という点をフックに物語は進んでいきます。
吉田さんの文章はすごく独特です。一見クセがなく読みやすいのに、中身がぎゅっと詰まっているというか。読み飛ばそうとすれば読み飛ばせる。でもしっかり読むと体力を使います。
愛子の足は自然と前へ出た。近寄ってきてもいいよ、と言われたような気がしたのだ。
上の文章にしても、「自然と」で相手と近づきたい素直な気持ち、「近寄ってきてもいいよ、と言われたような」の部分で愛子の不器用な(まるで許可をもらえないと誰かに近寄ってはいけないと思っているような)性格が分かります。
さらっとも、じっくりとも読める。読み方の選択を読者に委ねるような書き方ができるからこそ、幅広い読者に受け入れられるのだと思います。じっくり読むと、一文一文のむこうから、物語がじわじわと浸透してくるようです。
結局、大切な人ができるというのは、これまで大切だったものが大切ではなくなることなのかもしれない。大切なものは増えるのではなく、減っていくのだ。
以下は、兄の結婚相手であり、自身の飲み友達でもある友香に優馬が悩みを打ち明けるシーン。深刻な悩みをさらりと受け止める友香の関係性が素敵です。
優馬が事情を話した時、友香は最初笑っていた。優馬がわざと冗談っぽく話したせいもあるが、「そうかー。恋人と一晩連絡が取れなくなっただけで、そんなに心配しちゃうような男に、優馬もなったんだねー」などと茶化された。
この作品のすごくいいのは、結局、殺人犯の正体や動機、どういう人間かは作品の肝ではないというところ。では何が肝かと言われると難しいんだけど、やはり「怒り」ということになるのだと思います。
印象的なラストで、怒りは殺人犯から別の人物に伝染し、受け継がれたようにも見えます。殺人犯もまた、この制御できない怒りをかつてだれかから受け継いだのかもしれません。物語の果てには何が待っているのかを考えてしまう一篇です。
(おわり)
▼▼前回の本▼▼
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