【おすすめ本】ひとの数だけ歴史はあるの?(バスケス/コスタグアナ秘史)
今週もこんにちは。早くに目が覚めてしまいました🥱ウガンダは朝の5時・・・
「歴史は勝者が作る」と言われます。歴史は中立ではなく、起きたことを書き残せるのは勝者だけだということ。理屈は分かるけど、「どういうこと?」と聞かれたら答えに詰まってしまいそうです。
コロンビアの作家ファン・ガブリエル・バスケス(1973-)は現代南米文学の旗手として知られます。彼の「コスタグアナ秘史」はそんな歴史のゆがみを「作家に名作のネタを提供した一般人」を主人公に描いた長編小説です。
▼▼今回の本▼▼
とにかく文体がカッコよくて僕はすごく好きな作品。このキレ抜群のスタイルで長篇を描き切ったのがすごい。憧れます。例えば、冒頭はこんな感じ。
舞台は19世紀。主人公ホセ・アルタミラーノはコロンビアに生まれ、生き別れた父をおってパナマ(当時はパナマ独立前のためコロンビア)の都市コロンに移り住みます。
彼はそこで伴侶を得て、ささやかに幸せな生活を営む。ただ、一家に迫る魔の手がありました。自由党と保守党の内戦です。コロンビアは多くの内戦を経験した国ですが、これは1899-1902年の通称「千日戦争」。
アメリカの支援を受けて、パナマがコロンビアから分離独立する前夜。その独立にむけて揺れるコロンで、一家は内戦という闇の奥に飲み込まれていきます。それは痛ましい物語。ホセはこの歴史の残酷さを「歴史の天使」と呼んでいます。
彼はどのように「歴史の天使」と戦ったかというと、自分の経験をひとりの作家に物語ることでした。彼は自分の歴史を、歴史を描くことができる作家に書き残してほしかったのだと思います。でも、その結果は・・・
人の数だけ歴史はあるのに、残されて未来に届くのはごくわずか。そんな難しさを考えさせられる作品です。
本作は主人公ホセの一人称で描かれています。強引に時を巻き戻したり飛び越えたりするホセの書き方は、歴史の言いなりになってたまるかと、必死の抵抗を試みているようです。
(おわり)
▼▼前回の本▼▼
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