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「自分は白人ラッパーだと思わない。」矛盾を強みにするJack Harlowの生態が知りたい

Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)=BLMがまだ記憶に新しい。
2020年5月25日にアメリカ・ミネアポリス近郊で、白人警官の不適切な拘束によって黒人男性ジョージ・フロイドが殺害された事件。
これを発端として、2020年にBLMは全米的なデモ・暴動へと発展しました。
COVID-19の大流行と同時期でもあり、歴史的な出来事となったのは間違いありません。

これに対してJack Harlow(ジャック・ハーロウ)(23歳)は絶望的な気分になる瞬間もあるけれど、変化を起こすためには必要なことだったと思えると語っています。
故郷のケンタッキー州ルイビルでも抗議活動のデモに参加したハーロウ

彼は、白人リスナーが持つ人種差別の意識に影響を与えたい白人ラッパーとして活躍しています。
そんなハーロウのHIPHOPに対する思いをこれまでのキャリアを振り返りながら深堀りしていきましょう。

影響を受けた音楽と挑戦

ハーロウがHIPHOPに夢中になったのは母親の影響。学校への送り迎えの車の中でEminem(エミネム)Public Enemy(パブリック・エナミー)を聞いていたそうです。

そんな中でも実際に彼が魅力を感じたのは、ゆるくて流動的なトラックでした。

The Black Eyed Peas(ブラック・アイド・ピーズ)が好き。その他だとOutKast(アウトキャスト)Drake(ドレイク)に実際、ハマった。
ドレイクが出てきたとき、ラッパーはストリート出身でなくてもいいんだと思えたんだ。僕は、彼の中に自分を投影していたと思う。彼のおかげで、いい意味でタフガイでなくてもラッパーになれるんだと思えたんだ。

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13歳のとき、ハーロウは母親のパソコンを使ってリリックを書き、インターネットで入手したビートに乗せて歌い始めました。

「自分が何をしているのかよく分かっていなかった部分もあるんだけど、とにかく自分が一番ラップが上手いと思っていたよ。実は10代の頃、Mr.Harlowを名乗っていたんだ。"Mr."を強く押し出していたんだけど、流行らなさそうでやめたんだ。もちろん挑戦していたら間違うこともあるけど、自信を持つことが必要だと思っている。自分が自分を信じないで誰が信じるの?」。
と笑いながら話しています。

地元では黒人の友人たち中で唯一の白人として音楽制作をしていたハーロウ。

僕の育った地域は、黒人よりも白人が多いのは確かだけど、割と多様性があったと思う。通っていた高校には、とても大きなLGBTQコミュニティがあったしね。僕は広い視野を持って育ってきた。狭い考え方に守られてはいなかったな。
幸いなことに僕の身近な白人の友人たちは、ほとんどの人が僕が信じていることを同じように信じてくれて、尊重してくれている。だけど、僕のしていることに納得がいかない仲間も一部いる。賛同してくれない友人もいるけど、そういう人とは距離を置いているんだ。

批判と成長

今年2021年のBETアワード(毎年6月に開催されるエンタメ界におけるアフリカ系アメリカ人やマイノリティの人々に対して贈られる文化賞)でDaBaby(ダベイビー)Tory Lanez(トリー・レーンズ)Lil Wayne(リル・ウェイン)をフューチャーした『Whats Poppin』(2020)が、最優秀男性ヒップホップアーティスト、最優秀新人賞、最優秀コラボレーションの3部門にノミネートされました。

しかし、黒人アーティストを差し置いてハーロウの作品がノミネートされたことに批判が集まりました。
また、デビューアルバム『That's What They All Say』(2020)のジャケットに黒人女性の脚が性的に描写されているということでも批判を受けたのです。

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ハーロウはこれまで、Big Sean(ビッグ・ショーン)Bryson Tiller(ブライソン・テイラー)など黒人アーティストといくつもの作品でコラボレーションしてきました。
その経験も手伝ってか、彼は容赦ないバッシングを振り払い、自身が白人であるということを理解し、受け入れてくれる人々がいたことに感謝しているとコメントしています。

Jack Harlow - Way Out feat. Big Sean (2020)

Jack Harlow -THRU THE NIGHT feat. Bryson Tiller (2019)

また、彼の野心には目を見張るものがあります。さらなる高みを目指すために、お気に入りの悪癖を控えているとのこと。自分を高めるために禁酒をしているそうです。

インスタグラムでもこのように投稿しています。

Haven’t had a single sip of alcohol in 2021. Going the rest of the year without it. Maybe I’ll never take another sip, who knows?
2021年は一口もお酒を飲んでない。今年の残りの日々もこのままいきます。もう二度と飲まないかも、誰にも分からないけど。

「最高のパフォーマンスを発揮するために自分ができる限りのことをする」という信念を貫いているハーロウ
白人の子供たちが黒人文化を理解する上でのお手本にもなっています。
ハーロウは白人の子供たちに黒人文化を理解するだけでなく、その中に入っていって一緒に何かを作り上げていってほしいと思っています。
そんな世界になることを願い、その責任を自ら負っていきたいという姿勢が垣間見えます。

Whats Poppin

『Whats Poppin』は、まさにハーロウのキャリアにおいて転機となりました。
先述したとおりRemixが今年のBETアワードにノミネートされましたが、2020年、第63回グラミー賞では最優秀ラップ・パフォーマンス賞にもノミネート。
Billboard Top100でトップ10に入り、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドでもヒットしました。
ハーロウ「僕の人生を変えた曲であることは間違いない」と認めています。

『Whats Poppin 』のリリックでは、ディスやスラングの合間に彼のラッパーとしての意気込みについて表現している部分があります。

Got a career and I'm very invested
Some people call it a scary obsession (Ooh, period, but)
I like to call it a passion, I can't be sitting relaxin' (Nah, I can't)
PG, we getting some traction,
I'm at the venue, it's packed in (Packed out)

キャリアを積んで たくさん投資もしている
一部の奴らは それをヤバい妄想だという
俺はそれを情熱って呼んでもらいたいね リラックスなんかしていられない
古臭い体質を変えていく
俺のいる会場は超満員だ

曲中で自分の考えを表現し、それを広く認知してもらえたことをとても誇りに思っているジャック・ハーロウ
『Whats Poppin 』が得た結果に対してリスナーたちは真実を評価するものだと思う、とコメントしています。

その例えとして、

「僕はKanye West(カニエ・ウェスト)のことをモーツァルトやベートーベンのようだと思っているんだ。カニエが考えているのは、今どう見えるかではなく、100年後にどう見えるかということだと思う。2009年にTaylor Swift(テイラー・スウィフト)のスピーチを妨害した件で、当時はかなり批判されたけど、今ではあれを評価するような風潮もあるよね。僕はいつも、カニエが次に何をするのかに興味を持っているんだ。今回のアルバム『Donda』(2021)も、何年も人々の記憶に残る作品にるだろう」。
と話しています。

この言葉からハーロウはリスナーに真に評価されるヒット曲を生み出すために、どれだけ努力しなければならないかを知っているし、実際、努力することを楽しんでいるように思います。

Industry Babyとハーロウの着眼点

『Whats Poppin 』のヒットからハーロウのいる世界は急展開しています。

2021年7月、憧れのカニエ・ウェストによるプロデュース『Industry Baby』- Lil Nas X & Jack Harlowが、Billboardでトップを獲得しました。

My first number one. I’d be lying if I said I didn’t see this coming while I was writing my verse. Thank you for having me @lilnasx. This song is something I am gonna be proud to be a part of for the rest of my life. As for what’s next…buckle up…
僕にとって初めてのナンバーワン。リリックを書いているときにこんな結果になるとは思わなかったと言えば嘘になるけどね。僕のことをを受け入れてくれてありがとう。この曲が、僕の人生の一部であることを誇りに思います。次は何をしようか...シートベルトを締めて...。

ハーロウリル・ナズ・エックスについて、「彼は大胆に最新のHIPHOPを先導していくポジションに立っている」とコメントしています。

実は、『Industry Baby』のミュージックビデオで自身がゲイだとカミングアウトしているリル・ナズ・エックスが裸の男性たちとダンスを踊っている描写に対し、「性的に無責任」、「これのせいで多くの若い男性たちがエイズで死ぬ」、「リルはゲイの権利のために闘っていない。」などと中傷されました。

この批判についてハーロウは、

あのビデオが衝撃的なものとして捉えられているのは、その通りだと思う。どんな作品だって子供の教育によくないと感じる人は常にいる。僕の周りにもあの曲を勧めない人や、あのビデオを見たくない人がいるよ。でも僕は、人それぞれの価値観や考え方の根本的な違いに気づいた。
本当は、LGBTQの人たちを傷つけたい訳ではないし、同性愛者を憎んでいるわけでもないのに、宗教上の理由であったり、諸事情によりそれ自体を理解できない、納得できない人が沢山いるんだ。

と語っています。

ハーロウは誰よりも時代の流れを感じ取ることができるアーティストなのでしょうか。

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また彼の視点によると、

イギリスでは、メインの考え方に対抗するようなカウンターカルチャーがアメリカに比べて目立っている気がする。異人種間の交流がさんなように思えるんだ。白人の子供が黒人の子供と付き合っているのをよく見かけるんだよね。だから、HIPHOPに夢中になっている人たちは、当たり前の存在になっている。珍しがられないんだ。アメリカでもヒップホップは主流になってきているけど、まだまだメインからは隔離されているような気がするんだよね。

表向きは「自由の国アメリカ」ですが、人種問題には深い闇を感じます。

白人だけど白人ではない

世界で活躍するイギリスの現代アーティストで女装家でもあるGrayson Perry (グレイソン・ペリー)も各地で人種の壁を感じることがあるようです。

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最近、アートの世界で働く白人アーティストは、プライベートジェットが当たり前で、そういう中でキャリアを積んでいるようなもの。空港の税関では怪しい目で見られることもなく、荷物や体を厳しくチェックされることもありません。
一方、多くの黒人アーティストは、それとは違います。

グレイソン・ペリーが言うようにハーロウは自分が白人だということで、多くの黒人アーティストよりも優遇された立場にいることを理解しています。
しかし、そういうギャップや環境を乗り越えれば乗り越えるほど、自分がいるべき場所にいるような気がしてくると彼は言っています。

自分に自信が持てない瞬間と、自分が好きな自分でいられている、と感じる瞬間の両方がある。その中でも、僕がうまくいったと思っているのは、僕の音楽が自分が白人であることをテーマにしていないことだね。僕は、「自分は白人だ」ということにフォーカスしていない。それを目新しさにしないようにしているんだ。僕は、ブラックカルチャーの白人バージョンをやろうとするのではなく、一人の人間として心からのラップをするだけだから。

かつてラッパーたちは、強さを前面に押し出した自信家が多かったのですが、新しい時代のヒップホップスターたちは、イギリスのSkepta(スケプタ)も、アメリカのドレイクも、みんな確固たる弱さを持っていてそれを表現しています。

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多くのリスナーの憧れであるアイドルを演じるのではなく、これからは等身大の自分自身をマイクに乗せていくことが求められているような気がします。

それこそがカルチャーやアートによって社会問題を解決していくヒントになるのかもしれませんね。

ハーロウは、現在活躍しているどのヒップホップ・アーティストよりも、このことをよく理解していると言えるでしょう。

最新情報では年末にアトランタとニューヨークでのライブを控えているハーロウ。
根深い社会問題に取り組む彼の活躍とそれに賛同するリスナーの動きに注目です。

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