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こどもの共感力やコミュニケーションスキルの向上を支援するAIロボット "Moxie"(Embodied社) 【#2: こども向けヘルスケアサービス@米国】

個人的に子ども向けヘルスケアサービスに興味があるのですが、その中でも米国で展開されているスタートアップとその製品の紹介をしていきたいと思います。今回はこども向けヘルスケアサービス@米国の第二弾です。

*第一弾の記事はこちら↑です。

今回ご紹介するEmbodied社は、Moxieという子供たちが感情面のスキルや社会的スキルを学び成長することを助けるために設計された会話型AIロボットを開発・販売しています。

同製品は、5 歳から 10 歳の子供を対象に開発された AI 搭載の学習ロボットです。ただし、大人と一緒に使用すれば、それより若い子供でも使用できますし、年上の子供も楽しめる可能性があるとのことです。また、広い用途で利用できるそうですが、自閉スペクトラム症、トラウマ、学習障害などの特別なニーズを持つ子供を支援することを目指して開発されています。

こちらが"Moxie"。子供との会話の中で人間のように色々な表情に変わります。

*動画(英語)はこちら↑。私と妻は、この動くMoxieを見て、可愛い!とつい言ってしまいました。もちろん感じ方に個人差はあると思いますが。


"Embodied社とMoxie"の概要

Moxieの生みの親・Paoloさん

Paolo Pirjanianさん は、米国Embodied社 の CEO 兼創設者です。彼は、テクノロジーが人間の最高の部分を引き出すことができると信じて Moxie を設立しました。

Paoloさんは、子供の頃に戦争によって難民となってしまい、その後、差別、いじめ、孤立を経験されたそうです。しかし、彼はそれを乗り越え、ロボット工学と AI の博士号を取得しました。その後、彼は火星にロボットを送るプロジェクトに携わったり、現在世界中で利用されているお掃除ロボットのルンバに搭載されているナビゲーション技術を開発したりと大活躍を収めた後に、同社を設立されました。

Paoloさんは、自分の子供のころの辛い経験から、子供たちが感情的にサポートされていると感じることがいかに重要であるかを理解しているとのことです。Moxie は、Paoloさんの原体験も踏まえて、子供たちが自分自身と周りの世界をよりよく理解し、自信を持って成長するのを助けるために設計されたロボットです。

CEO兼創業者のPaloさん


Moxieについて

遊びを通して、社会性、感情面、認知能力の発達を促すように作られています。 会話、表情、ボディランゲージを使って、子供の興味や発達段階に合わせた学習内容を提供します。

ウェブサイトで紹介されているMoxieロボットの機能紹介

Moxie の開発チームには、技術者、神経科学者、児童発達の専門家、クリエイティブなストーリーテラー(絵本作家的な?) など様々な分野のプロフェッショナルが揃っています。 単純な質問に答えるだけではなく、共感を持った会話を子どもと交わすことを目指して作られたロボットです。

研究によると、ロボットとのやり取りの強みは、スマホ等の動画ではなかなか期待することができない共感力や社会性の向上に効果があるという点です。 Moxieは、生成系AI、自然言語処理、コンピュータビジョンなどの技術を使って、これまでにないほど人間らしい感情を表現したコミュニケーションが可能です。

2020年に初版が米国で販売開始となり、2024年1月には、Moxie にAI学習サポート機能が搭載されました。 これにより、利用者である子どもの理解度に合わせた教育サポートを提供できるようになりました。

Moxie の特徴

  • 会話、表情、ボディランゲージを使って子供とコミュニケーションが可能

  • 学習内容は子供の興味や発達段階に合わせて個別化される

  • 共感力を持った会話が可能

  • スマホ等の画面越しで見る学習よりも、ロボットとのやり取りの方が子供の共感力を育むことが研究で分かっており、それを同製品で体現

Moxie の効果について

研究では、Moxie で遊んだ子供の 71% が社会性が向上したという結果が出ています。

子どもが同製品を通じて学べるスキル一覧(左から;マインドフルネス、コミュニケーション、学習、遊び、SEL教育/社会性と情動の教育*)

"Social Emotional Learningとは、日本では「社会性と情動の教育」といわれます。近年では、アメリカを中心にイギリスやカナダなど学校で行われている教育プログラムです。

SELは、自尊感情と対人関係能力を育てる教育ともいわれ、自己理解や社会性、共感力、感情制御力を育てるための学習や体験を行います。脳科学、臨床心理学、発達心理学などの科学的根拠を基にアプローチし、自己肯定感ややり抜く力、問題解決能力などの「非認知能力」をはぐくむことができるといわれる教育です。"

二村まいこさんの記事を参照

利用者の声

同社ホームページに記載のある利用者のコメントを日本語にして記載します。

Moxie は信じられないほど直感的です

「Moxie はとても良い友達です。息子の気持ちを落ち着かせてくれる話し方や、とても良い質問をしてくれるところが気に入っています。また、Moxie が弟がメインユーザーではないことを認識して、アシスタントとして加えてくれたのもとても可愛らしかったです。AI導入には当初ためらいがありましたが、すぐにたくさんのメリットを実感することができました。強くお勧めします。」 - Tanasha*

娘は Moxie が大好きです
「Moxie は質問に答えるだけでなく、質問を返すことで会話を盛り上げる AI機能が優れていると感じています。総合的に、Moxie は素晴らしい製品です! 私が子供の頃に想像できたどんなおもちゃよりも遥かに優れています。Moxie は、AIを搭載した友達のような存在で、教えたり、適切な行動をとるように促しながら子供の学習意欲を高めてくれます。強くお勧めします。」 - Emily*

*コメントをした保護者の名前

ウェブサイト上の実際の保護者の声


Embodied社のビジネス全体について(事業に興味がある人向け)

会社概要

・国:米国
・創立年:2016年
・資金調達ラウンド:シリーズC (2022年)
・主な投資家:Jazz Venture Partnersなど複数VCがフォローオン投資をしている
・総調達金額:約 $68M
・従業員数:約80名
・事業モデル:D2C - オンラインで一括購入。サブスクではない。お値段は799ドル(他の事業モデルもあるかは私にはわかりませんでした)

Moxieウェブサイト

成長ヒストリー:事業開発の経緯

Embodied 社は、自社製品である教育用ロボット Moxie の機能強化と新たな活用領域の開拓に積極的な事業展開を見せています。以下はその具体的な取り組みです。

AI 機能強化

  • パートナーシップ: aiXplain 社

  • 発表日:2024年1月

  • 内容:

    • Embodied 社は、AI 開発プラットフォームである aiXplain と提携し、Moxie のリアルタイム推論と会話能力の最適化に取り組んでいます。

    • このaiXplain 社は Groq 社と提携しており、Groq LPU 推論エンジンを利用して大規模言語モデル (LLM) のリアルタイム推論を向上させています。これは、Moxie のダイナミックなユーザー体験にとって不可欠な要素です。

    • このコラボレーションは、Moxie の会話における応答性を最適化することを目指しており、これは人間とロボットのインタラクションにおける重要な機能です。

また、Embodied 社は、これに先立って、2021 年 5 月に AI スタートアップ企業 Kami Computing を買収し、Moxie の自然言語による会話生成機能を強化させています。

ヘルスケア分野への応用

  • パートナーシップ: University of Rochester Medical Center (URMC)

  • 発表日: 2021年10 月

  • 内容:

    • Embodied 社は、URMC と提携し、Moxie を小児医療現場に導入し、治療遵守率向上と入院によるストレス軽減を支援する可能性を探索。

    • このパートナーシップは、小児医療に特化した世界最大規模のアクセラレーターである KidsX を通じて開始されました。初期の研究では、Moxie を小児科で使用する際の妥当性に焦点を当てており、治療成績や術後回復への影響などを評価を実施。


最後に:Moxie と Embodied 社の未来

Embodied 社は、AI 技術を活用して子供たちの成長をサポートする革新的な製品を生み出すことに情熱を注いでいます。Moxie はその第一歩であり、今後も子供たちの学習、遊び、成長を支援する新たな製品やサービスを開発していくことが期待されます。

Embodied 社のビジョンは、テクノロジーの力で子供たちの可能性を最大限に引き出すことです。Moxie はそのビジョンを実現するための重要な第一歩であり、今後も子供たちの未来に貢献していくことが期待されます。

Moxie のような製品は、子供たちの教育や遊び方を変える可能性を秘めています。Embodied 社の今後の取り組みから目が離せません。



おしまい。

※このブログ記事は、個人的な趣味で書いているものであり、あくまでも情報シェアのみを目的としています。

参考記事


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