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ゲーム屋人生へのレクイエム 17話

前回までのあらすじ。知人の子供にゲームクリエーターになるにはどうすればいいのか尋ねられた元ゲームクリエーターが自分の過去を語る。アメリカ出張のゲーム企画担当の市場調査を手伝って感心したころのおはなし

「開発の仕事って面白いなあ。もっといろいろ知りたいなあ」

「ぼくも知りたいです」

「開発の仕事を手伝ううちに、どんどん興味が湧いてきてさ。それまでは修理とか生産とか、開発の仕事が終わった次の段階だったから、開発と仕事で絡むことなんぞ全く無くってさ。遠いどこか別の世界の話だったのよ。それが自分の目の前でゲームが生まれる瞬間見ちゃったからさ。企画について俺の意見とか求められたり、開発の人たちと居酒屋で一杯呑みながら世間話で盛り上がってるうちにいつの間にか新しいゲームの企画の話ができちゃったり。何もないところからゲームがクリエイトされていくのってすごく面白くって。こんな仕事やってみてえなあ、とか考えはじめたんだよ。現実はそんなに甘くないんだけどね。千本企画書いてゲームになるのって3本あるかないかとか聞いたよ。千三つとか言うらしい。今はさんみつが流行ってるけど。企画がゲームになったといって売れるかどうかはこれまた厳しい世界だもんね」


「へえ。そうやって開発の仕事をはじめたんですか」


「いやいや。これは開発のお手伝い。この時点では俺はまだ何も開発もクリエイトもしていないよ。クリエイトすることってどういう事か、っていうのを垣間見たって感じかな。これまではこんな感じで業務用、ゲーセンの機械のことね、開発の手伝いしてたんだけど、俺が出向したアメリカの子会社ではファミコンソフトの販売もやっててさ、その開発の手伝いも徐々にやるようになってさ。ファミコンの場合は、アメリカ向けに何かゼロから作るとかは当時は無くって、業界全体もそうだったけど、日本で売れたものを移植、ローカライズっていうんだけど、これをやってたんだよ。なんてったって、売り上げの世界シェアの半分以上が日本で、世に出るゲームも圧倒的に日本製のゲームだったから、日本で売れたものを英語やらフランス語やら現地化して売るっていうのが当たり前だったんだよ」


「今と全然違いますね。今は売れているのは欧米開発のゲームがほとんどですよね。どうしてこうなったんですかね?」


「そうね。諸説あるだろうけど、俺が思うには開発にあまりにもお金がかかるようになって、投資家のお金を集めやすい国、例えばアメリカのはなし。投資、投機と言ったほうがいいかな、ゲーム会社の株を買って儲けようとする人たちの莫大なお金が集まる会社がどんどん伸びていったって俺は思うよ。家庭用のゲームの商売ってさ、とにかくお金がかかるのよ。開発だけじゃなくってマーケティングとかプロモーションとか半端ない額のお金が必要なんだよ。下手したら開発費以上にマーケティングにお金がかかるときもあるんじゃないかな」


「へえー。開発費ってどのくらいかかるんですかね?」


「トリプルA、評価の高いソフトだと100億円くらいはかかるんじゃないかな。開発に3~4年かけるソフトもあるっていうし」


「ひゃー。すごい金額ですね。そんなにお金がかかるとは知りませんでした」


「世の中すべて金よ。面白いゲームを作ってみんなに楽しんでもらいたいって純粋に考える人たちの裏には投機でぼろ儲けを企む人たちがいるのよ。良いか悪いかは別としてそのお金があるからゲーム開発できるんだよ」

続く


*この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。

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