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ゲーム屋人生へのレクイエム 28話

前回までのあらすじ。知人の子供にゲームクリエーターになるにはどうすればいいのか尋ねられた元ゲームクリエーターが自分の過去を語る。会社を辞めアメリカに渡る。そこで以前居た会社が閉鎖になることを知り、会社が放棄しようとしていた基板修理サービスを引き継ぐことに。順調なスタートの中、ビザを取得するために日本に一時帰国することになったときのおはなし。

「ビザ申請却下です」


「いきなりっすか!」


「おう。帰国して、すぐに大使館に書類提出してさ、書類審査でオッケーなら面接になるんだけど、この書類審査で却下されてさ。書類は弁護士に作ってもらったんだけど、事業計画とか業務内容とか説明が足らないって事で却下されてさ。

結局のところ、就労ビザってさ、こいつがアメリカに来て仕事をするとしてアメリカ人の雇用の邪魔をしないでアメリカ人の雇用を増やすことができるのか?ってことが大事なのよ。アメリカ人でもできることはアメリカ人がやればいいじゃんということなのよ。アメリカ人ではできない何か特技がないとダメなのよ」


「日本語と英語のバイリンガルじゃだめなんですか」


「バイリンガルかどうかは関係ないのよ。アメリカ人でも日本語しゃべる人いるじゃんって言われるのよ。申請する人に特技があって、それをどう使ってビジネスして、アメリカに貢献するかってことを説明しなきゃならんのよ。この場合の貢献というのはアメリカ人の雇用を増やすことや商売が儲かって税金を納めるとか、そういうことなのよ」


「厳しいんですね」


「まあ、どこの国でもそうだろうけど自分の国の利益が優先なのよ。大企業からの出向でビザ申請するのはその会社の実績が既にあるからそんなに難しくはないんだけど、できたばっかの会社で零細企業だと実績何もないでしょ。だから厳しく審査されるのよ」


「詳しいんですね」


「このビザという悪魔にはこの後もずっと苦しめられたからなあ。それで却下されたビザを再申請することになって書類作り直してまた申請してって大変だったよ。一か月帰国してビザを持ってアメリカに戻るつもりだったからさ、予定が狂っちゃってさ。結局半年くらい日本に居たよ」


「その半年間何をされてたんですか?」


「社長のお父さんの会社に席を作ってもらってさ、アメリカや中南米に売れそうな筐体や基板を買い付ける仕事をしてたよ。毎日毎日ぐるぐるあちこちメーカーを回って何か売ってくれませんかって。でもこれがなかなかないんだよね。大きい会社は現地法人があるからブローカーに売る必要ないし。と言って小さい会社はそもそも海外向けの商品って無いから」


「それで売れそうなものは何か見つかったんですか?」


「見つからなかった。どこの会社も商品そのものの数が少なかった。今思えばどこの会社も不景気を感じ取って製品を絞ってたのかもしれないなあ」


「それでどうされたんですか?」


「ないものはないからどうしようもない。そのうち訪問する先が無くなっちゃってさ。会社に居ることが多くなったよ。会社に居る時は社長、アメリカの社長のお父さん社長、うーん面倒だ、ここでは社長と言っておこう。社長にしょっちゅう来客があって、お茶やお菓子を出したりしてた。そうそう、この来客っていうのがこれまたすごい面々でさ。業界の重鎮、ゲーム業界のそうそうたる経営者ばっかりでさ。ゲームメーカー、ゲーセンの経営会社、部品納入業者とありとあらゆる業種の経営トップがあれこれ相談にやってくるんだよ。あそこの会社と取引したいから口をきいてほしい、メーカー同士で険悪な関係になったから仲裁してほしいとかさ」


「険悪な関係になったメーカーって今もあるメーカーですか?」


「あるよ」


「どこか教えてくださいよ」


「おしえなーい」

続く


*この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。

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