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ゲーム屋人生へのレクイエム 38話

絶体絶命のピンチだったブラジル子会社を売却してほっと胸をなでおろしたころのおはなし

「さ~て、今回はどんな話でしょうか」


「ブラジルの問題を解決して、ボーナスをもらう話でしょ」


「フフフ。それはどうかな。

ブラジルの件は子会社の社長に託して俺はアメリカに戻ったのよ。それで基板の修理をやりつつ、ブラジル担当になっちゃったから毎日子会社の社長とやりとりしてあれこれ商売のネタを探して、細かい商売だけど修理部品を売ったりしてたのよ。

アメリカに戻ってから出張する前と何か会社の空気が違うって感じてね。社長の態度が変でね。何でかわからないけど怒っているような機嫌が悪いようなそんな感じでね。まあ、仕事がうまく行ってないから仕方ないかと思って気にしないようにしてたんだよね。

それからひと月くらいして、アメリカの別のゲームの会社で働いてる友達から今晩呑まないかって誘われてね。それでその友達と会ったのよ。なんだかんだと話をしてさ、ブラジルどうだったって聞かれたので大変だったけど何とかなったって言ったら、その友達がとんでもないことを俺に教えたのよ」


「なんですか?とんでもないことって」


「それは社長がその友達と会って、転職してうちに来いって誘われたって言うのよ。えって思ってさ。今の会社にそんな余力はないし仕事もないはずなのに何でって。すると友達曰く、社長は俺をクビにするのでその代わりに友達を雇うって言ってるよって。こいつ何言ってるんだ、でたらめなこと言いやがってと思ったのよ。すると友達は続けてこう言ったのよ、俺がブラジルの事業を失敗させた張本人だって社長は言ってるって。そして俺と社長しか知らないはずの子会社の話を詳しく話し出してさ。ああ、これは本当だ。社長は俺にすべての責任を負わせようとしているってわかってさ。

頭が真っ白になってさ。でも次の瞬間に体中の血液が逆流するような激しい怒りがこみあげて来てさ、

「ブラジルの失敗は社長の認識の甘さが招いた結果だ!今会社が置かれている苦しい状況も周りに敵を作りまくった社長の自業自得だ!」

と怒りに任せて友達に言ったのよ。

これまで日本で、アメリカで、ブラジルで商売の為だと嘘をつき、人をだまし、どれだけ自分の存在を殺して我慢してきたのか。一体何の為だったのかって思ってさ。空しくなったのよ。ああ、もうこれまでだな。これ以上は無理。あの人にはついていけないって」


「どうしてそうなったんでしょうね」


「ブラジルで消えた10万ドルがよっぽど腹に立ったんだろうね。俺をクビにしたところで10万ドルは戻ってこないんだけど、自分以外の誰かの責任にしたかったんじゃないかな」


「それからどうなったんですか?」


「数日してからその友達から電話があってね。また社長と会ったって。それで俺が怒りに任せて言った社長への言葉をそのまま言ったって。こいつなんてことしやがるんだと思ったんだけど、もういいや、もうこのまま続けることはできないんだから、手間が省けたって思ってね。

それから数日後、社長に呼ばれてね。たぶんクビの宣告だろうと思ったらそのとおりだったよ。俺は何も弁明もしなかったよ。もう嘘はつかなくていいと思っただけで気が楽になったね。でもこのひとにはとても世話になったし、いいひとだったし、尊敬できるところもあったのに、こんな形で別れるのは悲しかったよ」


「クビですか!?まじっすか!?」


「まじクビ」


「ひゃあ。そのあとその会社と友達はどうなったんですか?」


「俺の後釜になるはずだった友達は事情があって日本に帰ってね。かつての俺の席は空席のままで一年くらいして会社は倒産、社長は行方知れずになったって噂を聞いたよ」


「あちゃ~」


「辞め方はさておき、あのまま会社に残らなくて正解だったよ。自分に嘘をつかない生き方ができるんだからね」


「クビになって、そのあとどうなったんですか?」


「家でゴロゴロしてた」


「ダメでしょ。何かしないと」


「ゴロゴロしてるといい事があるのよ」


続く
*この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。

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