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ゲーム屋人生へのレクイエム 102

契約書が存在しない契約をなんとかしないといけないころのおはなし

「本当に契約書は存在しなかったんですか?」

「専務はそう言ってた。しかし本当のところはわからなかったんだ。それで契約先の会社に問い合わせたんだ。そうしたら契約書はあるって言うんだよ」

「言ってることが真逆ですね。どっちが本当なんですか?」

「どっちが本当がわからなかった。それで直接出向いてその契約書を見せてもらうことにしたんだ」

「あったんですか?」

「会議室にあったプロジェクターからデカデカと映し出されたのはホテルにある備え付けのメモ用紙だった。そこには手書きで委託契約を結ぶこと、月々支払う金額、そしてそれぞれの会社の社長の直筆サインがあった」

「あちゃー。でもこれって正式な契約書じゃないから無効じゃないんですか?」

「いや、契約内容とそれぞれの署名があれば契約書としては有効だ」

「どうするか困ったでしょう?」

「いや。そうでもなかった。ふとある考えが浮かんだんだよ」

「どんな考えなんです?」

「メモ書きの契約書から正式な契約書をつくることを考えた」

「でもそんなことをしたら契約がもっと確実なものになっちゃうんじゃないですか?」

「確実だからいいんだよ。正式な契約書には契約に関するありとあらゆる細かい取り決めが記載される。委託業務内容や責任の範囲、負担経費、そして契約解除についてもね」

「あ!わかった!正式な契約書で契約してそのあと契約解除するんですね?」

「そう。そのとおり。契約を解除する際の取り決めを作ってしまえばいいということだ」

「でも先方が承知したんですか?すぐにバレたんじゃないですか?契約解除するつもりだって」

「バレてただろうね。けど正式な契約書を作ることに反対する理由はない。先方だって正式な契約書が欲しいのが本音だったはずだからね。

それで本社の了解を取ってから正式な契約書を作ることを先方に申し込んで契約内容の交渉が始まったんだ」

「なんか不思議ですよね。お互いに契約を解除することを承知で契約書を作るって」

「そうだね。遠回りだけどこれが一番すんなりと揉めることなく契約を終わらせる方法だと考えたんだ。

双方の弁護士の確認をもらいながら契約の内容を粘り強く交渉してね。3か月くらいしてようやく本契約を締結したんだ」

「それですぐ契約解除したんですか?」

「いや2か月待った。先方にも時間の余裕をあげようと思ったからね。そして契約解除の通知をしたんだ」

「先方の反応はどうでした?」

「とてもビジネスライクで冷静な対応だったよ。お互いに想定内の行動って事だったんだろうな」

「契約解除の為の契約ってアメリカらしいですね」

「そうだな。アメリカは何事にも契約社会だ。雇用も契約、結婚も契約。すると離婚は契約解除ってことになるな。離婚弁護士がいっぱいいるのもうなずける。弁護士の世話にならないことを祈るばかりだよ」

「弁護士の世話になるやましいことがあるんですか?」

「ない。ない。ない。絶対にない。天地神明に誓ってない」

続く

フィクションです。

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