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ゲーム屋人生へのレクイエム 24話

前回までのあらすじ。知人の子供にゲームクリエーターになるにはどうすればいいのか尋ねられた元ゲームクリエーターが自分の過去を語る。南米出張中にフジモリ大統領に会いそびれてひとりアメリカに戻った時のおはなし。

「会社を辞めてうちへ来い」


「アメリカ出張が終わりに近づいたときにさ、昔お世話になった元副社長から一緒に飯を食おうって誘ってくれてね。会社辞めて独立した元上司だよ。それで会ったのよ。そしたらさ、あれこれ商売のネタはあるけど技術屋がいないと難しいって言ってさ。この人はゲームのブローカーを始めててさ、いろんなメーカーの機械をあっちこっちから仕入れてあっちこっちに売っててさ。でもいつも技術的な話になると担当がいなくって困ってるって。それで俺なら日本、アメリカ、南米の事情もわかるから一緒に商売しようって誘ってくれたのよ。しかもパートナーとして迎えるって言ってくれてさ。嬉しかったよ」


「で会社辞めたんですか?」


「いやいや、そう簡単にはいかないよ。しばらく考えさせてくださいって返事したよ。日本でのあの退屈な仕事とはとても言えない仕事をするのは嫌だった。でも会社は好きだったし、先輩、同僚、後輩との付き合いも楽しかったからすぐに会社を辞めるのも違うような気がしてさ。

それでとにかく日本に戻ったんだよ。

そしたらやっぱり退屈な何もしない毎日でさ。自分の時間を浪費することが本当に嫌になってさ。それで何度も何度も上司に転属させて欲しいって頼んでさ。少なくとも技術に関係する部署に転属をお願いしたんだよ。そしたら二か月くらいして上司に呼ばれて、生産技術に転属って言われたんだよ」


「生産技術って何ですか?」


「ゲームの機械は開発で設計して試作ができる。これでロケテストって言ってゲーセンに置いてどのくらいお金が入るのかとか安全性の確認とかいろいろ改善点を見つけるテストをやるのよ。

それで量産決定となったら開発が設計した図面を書き直すんだよ。開発の図面は量産を考えてないこともあるので、それを量産向けに修正するんだよ。組み立てやすい機構にしたり頑丈にしたり、安く作れる設計に変更したりね。他にも組み立て時間の計算とか、組み立て用の説明図とか、機械に付属する取扱説明書を作ったり。まだまだ他にもあるけどこれらが主な仕事だよ」


「それでどの仕事を担当することになったんですか?」


「それがね、何も担当しなかったんだよ」


「え?どう言うこと?」


続く


*この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。

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