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ゲーム屋人生へのレクイエム 26話

前回までのあらすじ。知人の子供にゲームクリエーターになるにはどうすればいいのか尋ねられた元ゲームクリエーターが自分の過去を語る。やっと技術屋らしい部署に転属となったその日にセールス支援部署に転属される。理不尽と思いつつも街頭に立つ日々。部署が解散となり生産技術にもどってからのおはなし。

「会社辞めます」

「はあ?」

「3か月のカラオケセールスの支援が終わって生産技術に戻った日に上司に伝えたんだ。会社辞めますって」

「ええーっ!?せっかく生産技術に戻ったのに。どうしてですか?」


「カラオケセールスの支援をしている間ずっと考えててね。今回は期間限定でセールスの支援をやったけど、きっとこれからもまた同じようなことが続くんじゃないかって。このままだと、いつか本当にゲームの仕事を続けられなくなる日が来るんじゃないかって思ってさ。俺のいた会社はゲーム業界の老舗で大きい会社だったけどさ、アメリカやヨーロッパのビジネスを縮小してさ、なりふりかまわず家庭用カラオケ事業に手を出したけど失敗したし。明るい未来は見えなかったのよ。俺の居場所はここじゃない。アメリカでゲームの仕事をしたいって強く思ってね。それで、アメリカ時代の元上司のところへ行こうって決めたんだよ」

「会社辞めて独立した元副社長ですよね」

「そう。誘われてたでしょ。一緒にやろうって。それで電話してお世話になりますって。そしたら喜んでくれてね。それで会社辞めることにした」


「まわりに止められませんでしたか?」

「みんなびっくりしてた。何で辞めるのって。それでさ、アメリカ出向から帰任した時に俺、何も仕事なかったじゃない。俺の引き受け先もなかったしさ。それなのに辞めるって言ったとたんに君が必要なんだとか、将来の工場を背負ってもらうつもりでいるんだとか。辞めるって決心する前にそう言って欲しかったね。まあ、言ってくれたとしても気持ちはかわらなかっただろうけど。本当にそう思ってくれたのかどうかはわからないけどさ引き留めてくれたのは嬉しかったよ。けど、もう決めたことですからって言ってさ」


「それからどうしたんですか?」


「有給休暇がたんまり残ってたから1か月休んだ」


「全然出社しなかったんですか?」


「最後の日にみんなに辞める挨拶に行っただけだよ」


「生産技術の仕事は?」


「してない。1ミリもやってない」


「1か月の間何をしてたんですか?」


「引っ越しの準備。それと毎日先輩後輩同僚が家を訪ねて来て話をしてた」


「なんの話をしたんですか?」


「どうして辞めるのか?って話が多かったかな。カラオケセールスをやらされたことの腹いせか?って言われたけど、この会社ではできないことがあるからアメリカへ行くって言うとみんな納得してたよ。毎晩呑んではその話だったよ。」


「毎晩は呑み過ぎじゃないっすか?」


「そこなの?」


続く
*この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。

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