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ゲーム屋人生へのレクイエム 55話

家庭用ゲームの商売が好調なのに本社の経営不振のあおりをうけて子会社がリストラされるころのおはなし

「リストラってよく聞くだろう。あれ、何の略か知ってるかい?」

「え?そう言われてみれば何のことか知らないです」

「英語のRestructure だ。再構築とか再建という意味だ。日本では単純に社員や契約社員の解雇という意味で使われる。

俺の勤めるRの本社もリストラを始めてね。希望退職を募って人員整理を始めたのよ。子会社も対象になるんじゃないかってみんな怯えながら仕事しててさ。そしたらある日、副社長に呼ばれたのよ。げえー俺クビになるんじゃないかってビビッてさ。すると副社長が絶対に誰にも言うなよって前置きしてからある人物がクビになることを教えてくれたのよ」

「いったい誰なんですか?」

「絶対誰にも言うなって言われてるから言えないよ」

「じゃあ言わなくていいです」

「そう言わないで、聞いてよ」

「はいはい。じゃあ、もう一度聞きますよ。一体誰なんですか?」

「社長だ」

「え?社長?社長ってクビにできるんですか?」

「できるんだよね。話はこうだ。社長はほかのゲーム会社の社長からヘッドハンティングされてこのR子会社の社長になった。経営手腕は良くも悪くもないという評価だがとにかく給料が高い。それを承知で雇ったものの、現在の会社の収支に占める社長の給料の比率があまりにも大き過ぎる。給与の調整を社長に求めたが拒否された。このままでは会社が潰れかねないから社長をクビにする。これは本社からの命令だ。というはなしだったのよ」

「すごいはなしですね」

「でもね、アメリカではよくある話なのよ。業績不振の責任を取らす形でトップをクビにするとか珍しくはないのよ。一番大きい経費を削減すれば効果もでかいしね。でもこの話はショックだったね。これは他人事じゃ済まないな。いつかは自分にもくるぞ。こないとしても会社自体が消滅して失業するかもしれないぞって」

「それで社長はクビになったんですか?」

「それがね、社長はクビになる前に自分で会社を辞めて別のゲーム会社に転職したのよ。給与の調整とかの話が出たときにこれから先、自分の身に何が起こるのか察知したんじゃないかな。副社長は手間が省けたって言って喜んでたけどね。でも社長不在の会社がこれからどうなるのかみんな不安になってリストラの恐怖が倍増したのよ」

「社長がいなくても大丈夫なんですか?」

「まあ、会社によるだろうね。現地決済方針の会社だと社長か、社長と同じ権限を持った人が必要だけど、本社がすべての決定権を持つ方針の会社だと子会社に社長は必ずしも必要ではないね。Rも本社が多くの決定権を持っていたから社長不在でも何とかなったよ」

「でも社長がクビになるってまだしっくりこないですよ」

「アメリカは、やろうと思えば大統領でもクビにできる国だからな。ふつうだよ」

「ふつうにクビになるのはいやですよね」

「そうだな。あんなものは一度で十分だよ」

「あ、クビになったんでしたね。忘れてました。38話」

「おお。タローもリンクを貼るようになったじゃないか。感心感心」

「しまった。リンク貼ってしまった」

「これからもお互い仲良くリンクを貼っていこうじゃないか。アイススケートと掛けて」

「何ですか突然」

「なぞかけだよ。アイススケートと掛けて、連続長編note小説と解く」

「つきあいたくありませんが、仕方ないから聞きますよ。そのこころは」

「どちらもリンクが重要です」

「ああ。やっぱりつきあうんじゃなかった」

続く
この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません

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