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ゲーム屋人生へのレクイエム 33話


前回までのあらすじ。知人の子供にゲームクリエーターになるにはどうすればいいのか尋ねられた元ゲームクリエーターが自分の過去を語る。社長からブラジルに子会社を作って社員が5人いて倉庫付きの事務所を借りたと聞いて気絶しそうになった時のはなし


「ただいま~」


「どこに出かけてたんですか?」


「日本だよ。一か月でビザを取る予定が結局半年近くかかってしまったけど、ようやくアメリカへ戻ってきたのよ。俺が不在の間は基板修理の仕事を断っていたんだけど受付を再開してまた忙しくなってね。俺の仕事は順調だったけどブローカーの仕事はかなり厳しくなってたよ。

あるとき社長が突然今日は居留守を使うから俺に電話に出るようにと言われてね。何のことかわからないけど社長は不在だという事にしてね。すると電話がかかってさ、相手は怒っている口調で社長の居所を聞いてくるのよ。知らないって答えてさ、電話を切ったんだけど1時間おきに何度も電話がかかってきてね、そのうち電話をしている事情を俺に説明しはじめたのよ」


「どんな事情だったのですか?」


「金を払ったのになぜ商品を発送しないのだと言って怒っていたのよ。ゲーム基板の代金数千万円を社長に払ったのにちっとも商品発送の連絡がこない。約束の期日は過ぎている。社長を出せってね。電話を切った後に社長に聞いたのよ。何があったんですかって。でもね、言わないのよ。お前は知らなくていいってさ。それで、ゲームメーカーから基板を発送したっていう証明書類を用意して相手にFAXしろと言ってね」


「え?じゃあ商品は発送されたんですか?」


「されてないよ」


「じゃあそんな書類ないじゃないですか」


「ないものは作るんだよ」


「それって偽造?」


「そう。偽造。私文書偽造で犯罪だよ。でもやれと言うから仕方なく過去に別の取引で受け取った本物の発送証明の中身を書き換えてコピーして送ったよ。それで社長は、次に電話がかかってきたら商品を運送していたトラックが川に落ちたと伝えろと言うのよ。それで、ああ、これは代金を先にもらったけど商品が手に入らなかったんだって分かってね」


「電話はかかってきたんですか?」


「かかってきた。それで言われたとおりに伝えた」


「相手の反応はどうでしたか?」


「嘘だって見抜いてた感じだった。トラックが川に落ちたとしても商品全部がダメになった訳じゃないだろう。いくらかでも壊れていない商品を探してすぐに送ってくれって言ってね。それで社長に聞いたのよ。どう返事しますかって。すると社長は、保険会社が商品を管理しているので中を見ることもできないから今回の発送はキャンセルしたいって伝えろと言ってね。また電話かかってきてさ、そのとおりに伝えた」


「でどうなったんですか?」


「ダメージを受けた商品の写真と保険屋からの報告書のコピーを今すぐに送れと言ってね。それでまた社長にどうしますかって聞いたら、これ以上の事は知らないと言えって」


「あ~あ、嘘つきですね」


「大嘘つきだよ。まさしく嘘を嘘で塗り固めてしまったのよ。それから後は社長も居留守を使うのをやめて電話に出て話をしてた。詳しくは教えてくれないままだったけど、どうやら受け取った代金を全額返金して話をつけたみたい」


「まずいですね」


「まずいね。いよいよ商品が手に入らなくなってしまった。メーカーを敵に回してしまったんだってわかってね。それだけじゃない。客の信用も無くしたのよ。ブローカーとしての商売はこれから先続けられないんじゃないかって思ってね」


「そのあとどうなったんですか」


「終わりの始まりだよ」


続く


*この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。

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