ゆめをひらいて。
夏が暮れてゆくのを、なんとなく横目で見ている。今年はあんなに好きだった夏の心象を、ひとつも拾いにゆかなかった。
目を閉じれば波の音がする。素足に絡む乾いた白い砂。笑い声が響いていたあの海岸は、もう随分と昔の景色のような気がする。
元気にしているかなあ。多分もう、会うこともないのだろうけど。
大事にしていた物の形が少しずつ変わっていく。記憶の中に風が吹いている。同じでいられないのは当たり前のことだった。
夜の生き物だったのに、夜の過ごし方を忘れてしまう。心をどこかに置き忘れている。夜の海を思い出せない。私はもう、あの心象の中にはいないのかもしれない。
次のゆめを開いて、飽きもせずにまた夏の心象を描く。
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