親の仇
『お前、キャンメイクに親でも殺されたのか』
という名言(迷言)を何年か前にTwitterで見かけた。少し調べてみたところ、この発言はプチプラコスメブランドの一つである『キャンメイク』の製品を「安っぽい」「大人が使う物ではない」等々と酷評していたアカウントに向けて誰かが投げ掛けたものであった。
キャンメイク。恐らくは市井の女性(とメイクを嗜む男性・どちらの性にも囚われない方々)の多くが一度は手にしたことがあるコスメブランドであろう。所謂「プチプライス」の代表的ブランドであるが品質もしっかりしており、尚且つ多くの薬局や雑貨屋に置いてある為、我々一般市民のメイクの大いなる味方と言っても過言ではない。
しかし、先述したTwitter上での一件のように、世の中にはキャンメイクの製品を「大人が使う物ではない」と主張する人々が存在するのもまた事実である。実際私自身も大学生の時分に同級の知人が「キャンメイクのコスメを持っていて良いのは大学生までだよね〜」と話しているのを聞いたことがある。当時の私は内心「えっ、そういうものなの?社会人になったら許されないの?」と思ったが、その時は空気を読んで「ははは、そうだね〜」と適当に相槌を打っておいた。
まあ、確かにキャンメイクの製品は見た目がややガーリーかつファンシーであるし、企業側としても主なターゲット層は高校生〜大学生くらいの「メイクを覚えたての若い子」としているのであろう。そして恐らくその知人も「キャンメイクはティーンエイジャーのメイクの登竜門的な存在であるが、ある程度の年齢になったらもう少し高年齢層向けの製品を買い揃えるべき」と思っているのであろう。
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少し話が変わるが、最近加齢が原因と思しき乾燥小ジワが目元に増えてきたように思う。
メイクをするにあたって鏡を覗いては「数年前まではこんなシワ無かったよな……?」と甚だ疑問に思うのだが、実際もうアラサーと呼ばれる年齢の域に達した訳だし、細かなシワの一つや二つは致し方ないのかも知れない。そして私は「私の顔に小ジワができたということは、きっと今頃高校や大学時代の友人各位の顔にもちょいちょいできている頃合いに違いない」と考え、友人達を心の中で道連れにしては納得するようにしている。実に非道な考え方かも知れないが……実際みんな目元に小ジワが増えたでしょ?ねぇ?「そんなもん無いわ!貴様と一緒にするな!」と思ったならアンチエイジングの秘訣を教えてくれよ。
という具合に根本的な肌の老化には抗えぬ部分もあるのだが、幸いなことに今のところはまだベースメイクを施せば小ジワもギリ隠せるので、日々顔面にコスメを塗りたくっては何とか凌いでいる。そしてそんなアラサー女の加齢小ジワを見事に消してくれる神アイテムがあるのだが……それこそが我等が市民の味方・キャンメイクのマシュマロフィニッシュパウダーである。
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さて、結論から述べるが、要するに私が言いたいのは「すっぴんより綺麗 or マシな顔面になれるのであれば、安かろうが何だろうがどんなアイテムを使っても良いじゃねえか」ということである。
先述のキャンメイクのマシュマロフィニッシュパウダーは質感がマットである故、大学生の時分には塗りすぎるとのっぺりとした顔になりがちであったのだが、アラサーになった現在使用すると見事に粒子が密着して小ジワを隠してくれるようになった。大学時代の知人は「キャンメイク製品が許されるのは大学生まで」と述べていたが、寧ろ私的には社会人として脂が乗りつつある(が、肌からは脂分が失われつつある)今現在の方がキャンメイクのパウダーの質感が肌に合っている。手頃な製品かつ肌馴染みが良くて隠したいものを隠せるのであればそれに越したことはない。
というかそもそも普段使用しているコスメを他者に此れ見よがしとひけらかすような機会なんぞメイク系YouTuberの類でもない限りそうそう無いと思う。多くの人々の化粧道具一式は普通ポーチの中に仕舞われているだろうし、外出先で取り出すとしてもそれこそ化粧室の一角にある鏡の前でささっとメイク直しに使う程度であろう。それなら尚更何を持っていようが別に構わないように思う。あくまでも普段他者に見せるのはポーチの中身ではなく、それを使って作り上げた顔面なのだから。なお万が一他者の化粧ポーチを覗いて「あっ!いい歳してキャンメイクだ!」等々とのたまうキャンメイク警察がいるとしたらそれは相当な野暮である。
ということで私はいつもポーチの中にマシュマロフィニッシュパウダーを忍ばせているし、それ以外のコスメも全てその辺の薬局で買える一点あたりの値段が2000円を切るプチプラのものばかりだ。今のところはそれで成り立っているのだから他者からとやかく言われる筋合いはないと思っている。ちなみに過去に一回だけ奮発してデパコスブランドであるアディクションでリップを買ったことがあるのだが、生憎そちらは私の唇には質感があまり合わなかった。どうやらコスメに関しては高い金を出せば良いという訳でもないらしい。
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なお、これは余談かつ若干自慢めいた話になるのだが、多少加齢による小ジワが増えたとはいえ私は他者から「お肌が綺麗だね」と言われることが多い。「どうやってスキンケアしているの?」と問われることも多いのだが……これまた厭味ったらしく聞こえるかも知れないが、実に恐ろしい程に何もしていない。化粧水は出勤前にメイクを施す際にしか使わないし、何なら仕事終わりはしょっちゅうメイクも落とさずワイシャツとベストとネクタイという仕事着のまま寝落ちている(怠惰の極み)。まあ恐らくは「かえって必要以上に梃入れしない」というのが良いのかも知れない。
なおこの間、行きつけのカフェバーで偶然隣に座った女性と化粧下地の話をした。その方が言うには「一万円近くするデパコスのパウダーを買おうか悩んでいる」とのことであった。そしてその女性は「でもパウダーだけで一万円かぁ、って……他にもリキッドファンデとかを買い揃えるとなるとお金が無いんです!お姉さんはお肌が綺麗で羨ましい〜」と私に言った。
……言えなかった。私がベースメイクに使っているのはちふれのBBクリームとキャンメイクのマシュマロフィニッシュパウダーのみであり、メーカー希望小売価格の合計が二点で(2024.07.21現在で)1914円であるなんて。そんなこと怖くて言えないよ……
思えば私の母も、母方の祖母も同年代の女性と比べると比較的肌が若く見える。私の肌が褒められるのはその血を受け継いでいるからだろうと思われる。おかげで私も現在プチプラコスメで生きられているので非常に有り難い家系である。
今のところは母も祖母も元気なので、これからも美しく長生きしてほしい。そして今後もし私が冒頭のアンチキャンメイカーの如くキャンメイクに反旗を翻すことがあるとすれば、それは肉親を殺されたときに違いない。
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