どうすれば日本から「シェリル・サンドバーグ」を輩出できるか?
『世界一やさしい問題解決の授業』著者・渡辺健介氏に聞く
日本から「シェリル・サンドバーグ」を輩出するには?
『世界一やさしい問題解決の授業』の画期性は、なんといっても中学生に向けて書かれたということにあるだろう。
中学生向けに書いた理由について渡辺氏はこう語る。
「ターゲットを中学生にしたのは、自我が確立してくる時期だから。そして抽象的な思考能力がついてくる時期だからです。そして、シェリル・サンドバーグのような世界の一流の人材に『追いつき、追い越す』ためには若いうちから鍛え上げていく必要があると思ったんです」
シェリル・サンドバーグとは、29歳でサマーズ財務長官に呼ばれて財務省で補佐官になり、その後は30代でグーグルのグローバル・オンライン・セールス&オペレーションズの副社長に、40代でフェイスブックの役員になった人物だ。
渡辺氏は、彼女と接したときに彼女の切れ味の鋭さと踏んできた場数による自信に衝撃を受けたという。ただ、勤勉な日本人なら、若いときから鍛え始めれば、そんなシェリルにでさえ「追いつき、追い越せる」と思ったと語る。
これは本にも出てくるが、「成長の複利カーブ」を考えれば、問題解決力の教育を始めるのは早ければ早いほどいいのだ。
「中学校1年生から年率10%で成長するとしたら、そうでない子と比べて、30歳の時点では複利効果で約5倍の差がついていることになります。この差はとてつもなく大きいです」
中学生バンドは、どうすれば観客を呼べるのか
書籍は読者ターゲットを中学生に据えているため、問題解決に必要な考え方が「世界一やさしく」、さらに最低限必要なものに絞って、シンプルに紹介されている。
実際、本の構成は3つの授業の仕立てになっており、極めてシンプルだ。
例えば2限目の中学生バンドは「観客がなかなか来てくれない」という問題に直面する。それをどうやって解決し、観客がたくさん来てくれるようにするのか。
原因の仮説を立て、どんな分析をするか考えて情報を集め、打ち手のアイディアを幅広く洗い出し、最適な打ち手を選択肢し、実行プランを作成する。ロジカルシンキングの考え方を、中学生バンドを例に学べるという仕掛けだ。
しかもカラフルな図版が満載で、極めてロジカルでわかりやすい。そしてさりげなく、「分解の木」「はい、いいえの木」「課題分析シート」「仮説の木」など、渡辺氏がマッキンゼーで実際に使っていたようなツールが紹介されていく。
NHK Eテレならどう教えるだろう?
しかし、問題解決やロジカルシンキングのような、大人でさえ興味を持ちづらい無味乾燥なテーマを中学生に興味を持たせるのは難しい。どのように工夫したのか。
「井上ひさしさんの言葉である『むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく』をどうすればカタチにできるかを考えました。そこで、NHK Eテレが問題解決力をアニメを使って教えるならどうするだろうかと、イメージしながら書いたんです。実際に放映もしてくれないかなと妄想していたんですけどね(笑)」
ちょっとかわいらしく、ちょっと面白く、時にちょっぴり感動するようなアニメ。実際、本にはさまざまなキャラクターが登場し、カラフルな図版と相まって、たしかにアニメっぽい。しかも、バンドにしても、パソコン購入にしても、ストーリーに乗って進んでいく。
専門用語を使わない。横文字もなるべく使わない
「もう一つ気をつけたのが、できるだけ専門用語と横文字を排除すること。誰にとっても本質的なスキルなのに、欧米的な考えだと思われて排除されてしまうとすごくもったいないと思ったからです」
たしかに専門用語はほとんど使われていない。ロジカルシンキングの本ではお馴染みの「MECE」もなければ、「ロジックツリー」「プロコン」という言葉も出てこない。
出版当時、問題解決やロジカルシンキングをテーマにした本は、それまでにも、もちろんあった。だが、それらの多くは経営陣や経営企画部など限られたビジネスパーソンをターゲットにしたもので、しかも難解なものが少なくなかった。
『世界一やさしい問題解決の授業』は中学生にでも伝わる本質に徹底的に絞りこみ、誰でも興味がもてるようなエンターテインメント性を組み込んだからこそ、多くのビジネスパーソンにも刺さる大ベストセラーとなったのだ。
(次回に続く)