コロナは「何を」加速させたのか? これからの新しい当たり前
『ニュータイプの時代』著者・山口周氏に聞く
「読んでいて辛かったが読み切った」という声
「新時代を生き抜く24の思考・行動様式」というサブタイトルのついた『ニュータイプの時代』。こう変わる必要がある、というキーワードが明快に言語化されていくわけだが、当然のことながら「オールドタイプ」を信じてきた人にとっては、耳が痛い話が続くことになる。山口氏はいう。
「中にはオールドタイプとニュータイプの分断を煽る本だ、という指摘もあったりもしました。ちょっとびっくりしたのは、典型的に偏差値の高い大学を出て、外資系のコンサルティング会社から事業会社に入って役員を務めている若い人から、読んでいて辛かった、と言われたことです」
ただ、辛いと思いながらも読み切ったと言われたのだという。
「それこそ、我が意を得たり、というところでしたね」
古い価値観に疑問を持っていた人は少なくなかったのだろう。周りに古い価値観のオールドタイプがいる人にとって、理解し合えないジレンマには辛さを感じる。だが、多くは「とても面白かった」「バイブルみたいにして読んでいる」といった好意的な反響だったという。
刊行されたのは、2019年と新型コロナウイルスの感染拡大が始まる前だが、コロナ禍を経て、より重要性が増したと感じた項目もあった。12番目に挙げられているモビリティ「複数の組織と横断的に関わる」もそうだ。
リスクのタイプが異なる複数の仕事を持つ
オールドタイプの思考・行動様式「一つの組織に所属し、留まる」に対し、ニュータイプは「組織間を越境して起動する」と説く。
「なぜ企業はなくならないのか、をテーマにしたロナルド・コースの問いについて紹介していますが、それは市場で活動する際の費用が最小化できるからです」
山口氏は本書で、「企業は社会主義が唯一残る場所」と書いている。社会主義国家のような統制と管理によって取引が行われている存在だからだ。そして、こう続く。
そのキーワードこそが、情報だった。そしてデジタル技術の進展がこの問題を大きく変えている。本来のあるべき姿に向かっているということだ。それは何かといえば、「越境」して仕事をしていくことである。
コロナによってリモートワークが当たり前となり、必然的に越境して仕事をすることがやりやすくなった。今後は、「複数の組織と横断的に関わる」ニュータイプが、ますます当たり前になるかもしれない。
各界著名人の名言をなぜ入れたのか
24の思考・行動様式が紹介されているが、特徴的なのは、各項の冒頭が極めて丁寧に作られていることだ。例えば8番目「『直感』が意思決定の質を上げる」は、このようなショルダーがつけられている。だから、極めてわかりやすいし、本文に入っていきやすい。
山口氏はその理由をこう語る。
「これからどういう趣旨の話をしますよ、というイントロダクションをしっかり行うことは、コンサルタント時代に鍛えられました。いきなり話をされてしまうと、みんなロストしてしまうんです。一つのテクニックですね」
そして、強く印象に残るのが、この冒頭に著名な人たちの名言が加えられていること。8番目「『直感』が意思決定の質を上げる」なら、スティーブ・ジョブズ。
ピカソ、モンテーニュ、吉田兼好、トーマス・マンなど各界の著名人の名言は、24の各項の冒頭だけでなく、あちこちに散りばめられている。
「名言って、深みのあるエッセンスを言い切れているので、喚起力があるというか、イメージが膨らむと思うんです。その先に伝えることのエッセンスがつかみやすくなります。名言は、いいですよね」
山口氏の選りすぐりの名言だけに、なんとも興味をそそる。また、歴史的なエピソードがたくさん盛り込まれ、ロジックを後押ししているのも、大きな特徴だ。知的刺激をもらいながら、どんどん読み進められる。そんな一冊になっている。