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【メールでバレる】優秀でも「ないと出世できない」超重要スキルとは?

『入門 考える技術・書く技術』著者・山崎康司氏に聞く

情報が次から次へと溢れてくる時代。だからこそ、普遍的メッセージが紡がれた「定番書」の価値は増しているのではないだろうか。そこで、本連載「定番読書」では、刊行から年月が経っても今なお売れ続け、ロングセラーとして読み継がれている書籍について、著者へのインタビューとともにご紹介していきたい。
第5回は2011年に刊行、ビジネス文書が見違えるようになる教科書としてロングセラーを続けている山崎康司氏の『入門 考える技術・書く技術――日本人のロジカルシンキング実践法』。4話に分けてお届けする。(取材・文/上阪徹)

Photo: Adobe Stock

書けないのは「技術」を知らないから

 日本人がビジネス文書をうまく書けないのは、教わっていないから。実は『入門 考える技術・書く技術』の著者である山崎氏も、アメリカの経営コンサルティング会社に入社したとき、ビジネス文書がうまく書けなかったのだという。本書は、そんなエピソードから始まる。

 あなたは今まで、職場の上司や仲間、学校の先生や先輩から、「君の書いたもの、ちょっとわかりにくいのだけれど……」「もう少しわかりやすく書いてほしい」などと言われた経験はありませんか?
 私自身も経営コンサルティング会社に入社して間もない頃、米国人上司からそのように言われたことがあります。レポート・ライティングはコンサルタントの生命線ですから、心中、穏やかではありません。その2ヵ月後、ニューヨーク本社から教育部部長(ハーバード・ビジネス・スクールの元教授)が日本オフィスにやって来てライティング指導が行われました。その結果、わずか数日間で、その部長からMIP(Most Improved Player、最も上達した人)と言われるまでに変身しました。

 インタビューでも、山崎氏はこんなふうに語っていた。

「最初はひどかったですよ。でも、考え方を教えてもらったら、あっという間にできるようになったんです」

 ちゃんとしたトレーニングを受けたら、日本人でもできるようになる。大きな気づきだった。

自分の考えを言葉でどう表現するのか?

 実はこのとき、英語で書かれた1冊の本を渡されたという。それが、バーバラ・ミント著『考える技術・書く技術』だった。

山崎康司(やまさき・こうじ)
隗コンサルティングオフィス株式会社代表豊富な経営コンサルティング経験をもとに、様々な大企業にて『考える技術・書く技術』関連の教育・研修を実施している。著書に『入門 考える技術・書く技術』『オブジェクティブ&ゴール』『P&Gに見るECR革命』、訳書に『考える技術・書く技術』『不合理のマネジメント』『仕事ストレスで伸びる人の心理学』『正しいこと』など。ペンシルベニア大学ウォートン・スクール卒業(MBA)、東京大学建築学科卒業。福岡県出身。http://kai-consulting.jp/

「日本はもちろん、世界中の経営コンサルティング会社の教科書になっている本です。私もこのとき、英語版で勉強をしました。そして後に、私がバーバラ・ミントさんに直接手紙を書いて説得し日本語版が刊行されることになったんです」

 1995年に刊行された日本語版の『考える技術・書く技術』は、旧版・新版併せて累計33万部突破のベストセラーとなった。今も売れ続けている。だが、山崎氏には一つ気になっていたことがあった。

 考える組み立てについてしっかりと書かれた本だが、考えをどうやって言葉で表現するか、という点については、あまり詳しい解説がなかったことだ。

「頭の中のアイデアは、言葉で表現しないとコミュニケーションできないわけです。実はレポート・ライティングについてすでに学び、しかも慣れている欧米の言語の人たちには、あまり問題にならなかったんですが、日本ではそうはいかないと思いました」

 日本ではレポート・ライティングやビジネス文書を習う機会はなかなかない。日本人にとっては、考えをしっかり言葉で表現するための勉強ツールが別に必要なのではないか、ということに気づいたのである。

「実は1992年から研修で『考える』こと、『書く』ことについて教えていたんです。このときに改めて感じたのが、メッセージをしっかり組み立てることに加え、言葉で表現していくことの大事さでした。考えの組み立てについても、日本人向けにわかりやすいものが必要だろうと思ったんです」

 こうして本書『入門 考える技術・書く技術』が刊行されるに至った。2011年のことだ。

ライティングの下手な人は出世が困難

 実はアメリカでは、ライティングは極めて重要なケイパビリティになっているという。しかも、ライティングは細かく細分化されている。

「書店に行くと、いろんな種類のライティングの本が並んでいます。例えば、警察官の報告書ライティングとか、消防士の報告書ライティングとか。分野ごとに、ライティング本があるんです」

 本書にもこんな記述がある。

 米国のほとんどの大学では、何を専攻するかに関わらず、ライティングが必修科目となっています。留学していた私の娘も1年次に「ライティング基礎」を、3年次に「ライティング上級」を受講しました。どちらも必修でした。ビジネス専攻の学生であれば、ビジネス・ライティングやスライド表現といった講座も欠かせません。

 ところが日本では、ライティングの授業がある大学は20ほどしかないという。だから、いまだに小中学校で教わる「起承転結」が幅を利かせていたりするのだ。いつまでも結論が出てこないような文章が相変わらず出回り、しかも読み手も意識されない。

「だから、ぜんぜん違うんです。この違いというものを、しっかり理解した上で、日本人はライティングを学んでいかないといけない。今は、メール1本で相手を説得しないといけない時代なんです」

 もはやグローバル企業では、ライティングの下手な人は出世が困難になっているという。しっかりと書く力が問われている時代が来ているのだ。
(次回に続く)

(本記事は、『入門 考える技術・書く技術――日本人のロジカルシンキング実践法』の著者にインタビューしてまとめた書き下ろし記事です)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『マインド・リセット~不安・不満・不可能をプラスに変える思考習慣』(三笠書房)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。