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「本を読まない編集者」がベストセラー連発?!それでも“売れる本”を世に出せるワケとは?

こんにちは! この春に出版社のダイヤモンド社に入社したての新入社員の森です。同期4人で担当しているこの連載も3巡目に突入しています。25回目では書籍編集局第3編集部の副編集長、畑下裕貴(はたした・ゆうき)さんの突撃インタビューを2回にわたってお届け! 『DIE WITH ZERO』『教養としてのワイン』『あやうく一生懸命生きるところだった』などのベストセラーを世に送り出してきたスゴ腕編集者は、新人4人に対し一体なにを語ってくれるのでしょうか⁈

今回お話を聞いた畑下さんです!

ミーハーが飛び込んだ出版の世界

ーー最初に、編集者になろうと思ったきっかけを教えてください。

 もともと僕は石川県の田舎のミーハーな高校生で、テレビ局で働きたいと思って関西の大学に進学しました。でも、心のどこかで「テレビ局はなんか違う」と違和感を感じていたんです。

 そんなときに知人に誘われて、雑誌に強い出版社の関西支社でアルバイトを始めました。私服を着た雑誌編集者がめちゃくちゃ自由に働いてて、会社らしくない感じに惹かれて(笑)。雑誌編集者の仕事が華やかに見えて、憧れでした。そのときから雑誌編集者を目指すようになりました。

ーー就職活動も出版社を受けたんですか?

 はい。けれど、雑誌編集者は狭き門で、就活は上手くいかなくて……。地元石川県の金沢にあるフリーペ-パーを発行している出版社に新卒で入社したんです。そこで雑誌広告の営業を4年ほど経験しました。夜7時に繁華街のビルの前に集合させられて、ビルの上階から下階までキャバクラに飛び込み営業して……。自分が就活のときに思い描いていた働き方とは、まったく真逆のことをやっていましたね。

ーー雑誌の編集者から書籍の編集者になったのはどうしてですか?

 雑誌編集者を目指して入った地元の出版社でしたが、広告営業でも記事を作る仕事がありました。そこで気づいたんです。雑誌はファッション誌ならファッション、フリーペーパーだったら生活情報みたいな一つのテーマを掘り下げるじゃないですか。自分は、あまり1つのことを掘り下げるのは性に合わないなって。

 でも、書籍ならいろんなジャンルで企画を立てられて面白そうだなと思ったので、「書籍編集者になるならそろそろ東京に出ないといけないな」と思ってた25歳ぐらいで、東京の出版社に転職して書籍編集者になりました。

ーーそうだったんですね。そこからダイヤモンド社に転職したのはなぜですか?

 前職でも5万~8万部の本は作れていたんですけど、あまり中身の濃い本というか、自信を持って出せる本が作れなくて、「深い本作り」ができないなって悩んでいたんですよね。そんなときにたまたまダイヤモンド社の求人を見て、ちょっと応募してみようかなと思ったのがきっかけですね。29歳でダイヤに転職しました。

編集者が考える「良い企画」とは⁈

ーー畑下さんは『DIE WITH ZERO』『教養としてのワイン』『あやうく一生懸命生きるところだった』などベストセラーを世に出しています。特にビジネス書や自己啓発書に興味を持ったきっかけはありますか?

 ビジネス書や自己啓発書にだけ興味を持っているわけではなくて、オールジャンルにアンテナを張っています。新卒で営業をしてたからか、売れることが正義だと思っていて。

 要するに、内容が良い本を作っても、売れなかったら出版社も利益は出ないし、著者も何も変わらないし、読者も世の中も変わらないので、「良い企画=売れる企画」だと思っています。なので、作る本のジャンルはあまり意識したことがないですね。「売れなきゃダメでしょ」ってずっと思っています。

ヒットに繋がった「コンプレックスマーケット」

ーー畑下さんが担当した中で、印象に残る「売れた企画」はありますか?

 『教養としてのワイン』ですかね。『西洋美術史』という教養本を作ったときに、コンプレックスマーケットというものがあるなと感じたんです。

 知ってる人はとことん詳しいけれど、自分は知らなくて会話についていけないときってありますよね。そんなコンプレックス市場で「美術」よりも広いパイが「ワイン」だと思ったんです

 『教養としてのワイン』を出した後、日本酒など他の教養本も他社からも出てましたが、僕はワインの市場が1番広いと思ったので、このシリーズはこれ以上やりませんでした。

ーーワインというパイの広い市場を嗅ぎ分ける畑下さんの嗅覚がベストセラーに直結している気がして興味深いです。

 その嗅覚が欲しいものですが(笑)。でも少しずつ、ふわっとはしていますが、ベストセラーになる本の感覚は以前よりもつかめてきたように感じています。

 実は、『あやうく一生懸命生きるところだった』『サイコロジー・オブ・マネー』は校了間際になった段階で、「これは売れるな」という感覚が強くありました。この二冊は表紙が完成した瞬間に「これは書店にあったら手に取らざるを得ないな」と感じました。感覚で売れるかどうか分かる……とまでは言えないですが、自分で「これはいけるな」と思った本が売れる傾向にある気がします。

ちなみに、読者は「売れていること」自体に興味があるのではないかと仮説を立てた畑下さん。『サイコロジー・オブ・マネー』のカバーでは内容に一切触れず、全世界でベストセラーになっていることだけをアピールすると、初速の売上が良かったそうです。

本を読まない編集者

ーー仕事以外では本をあまり読まないとお聞きしました。仕事で読んで「すごい」と思った本はありますか?

 読むといってもカバーを見るのがほとんどなのですが、『BIG THINGS』のデザインが新しいなと思いました。

 書店に行っても「なんでこの本売れてるんだろう」と仕事目線でしか見れないんです。自分が読者の目線で歩き回って気になった本を手に取るんですよ。手に取った理由をとことん追求して考える。 中身がどんな本かはあまり気にしないです。

ーー仕事でも読んでないじゃないですか(笑)。

 内容は深くは読み込みません(笑)。仕事の参考として概要は知るようにしています。昔から本はあまり読まないんです。

 ただ、自分が考えたアイデアを形にして、世の中の人に出した時に受け入れられるというのが好きなだけで、それが別に本じゃなくても僕はいいと思っていて。起業でもいいし、別の商品でもいいんですけど、たまたま今の自分にとってそれが本だっただけで。

 だから、本はほとんど読まないです(笑)。読まないからこそ、編集の方針として、本を読まない自分でも少なくとも書店で手に取れる本を作るように心がけています。同じ編集部の隣の副編集長は毎月何十冊も読書して常に知識を入れてるし、すごいなと思います。

編集者たるもの、ミーハーであれ

ーー本以外で最近面白かったコンテンツはありますか?

 月並みですけど『地面師』は面白かったですよ。Netflixのドラマです。こういうときに気の利いたコンテンツを挙げられるようになりたいなあ。

ーー『地面師』は流行ってますね!

 やっぱり編集者はミーハーのほうがいいと思います。TikTokは見ない、YouTubeを見ない、Netflixを契約しないという人よりも、みんなが見てる環境と同じステージにいた方が感覚が合うじゃないですか。

 『地面師』とか、ちょっと前だったら『イカゲーム』とか。他のみんなが盛り上がってるコンテンツを観ると生きてても楽しいなって最近思うんです。

ーーというと?

 もともと音楽がめっちゃ好きなんですけど、大学生の時は「他の人のようにJ-popなんて聴きたくない」と思っていたんです。当時はTSUTAYAで働くくらい音楽にはこだわりを持っていて、「分かる人だけで分かり合えたらいい」と考えていました。

  でも、今は流行りの音楽をすごく聴きます。 斜に構えて尖っていても「それめっちゃ面白かったね!」とまわりと盛り上がれないじゃないですか。「そうなんだ、すごいね……」みたいに会話が終わるんです。

 ミーハーだとみんなが観ているコンテンツを追えば会話は盛り上がるし、 何より、世の中の感覚に自分の感覚を合わせられる。そっちの方がいいのではないかと30代になって思い始めました。みんなが観ているものを自分も楽しんで観たほうが人生楽しいな、と。

生涯の趣味を作った唯一無二の作品

ーー本を読まないと伺った後でこんなことを聞くのもなんですが、人生を変えた一冊はありますか?

 人生を変えた一冊かあ……。あ、思い出した。僕、ゴルフが好きなんですよ。中学校の頃から今もずっと趣味でゴルフを続けています。この趣味は、『ライジングインパクト』というゴルフ漫画に影響を受けて始めました。『七つの大罪』の著者が描いた作品で、今はNetflixでアニメが放送されています。

 『ライジングインパクト』を読んでゴルフを始めました、かあ……。「『渋谷で働く社長の告白』を読んで起業しました」みたいな洒落た話がしたかったなあ(笑)。

ゴルフを始めたことも素敵ですよ。

編集者っぽくない編集者が勧める一冊

 他の編集者のインタビューだと人生が変わった一冊に太宰治の『富嶽百景』を挙げたりして、知的じゃないですか(※)。編集者っぽいし……。本を読まないとか、『ライジングインパクト』を読んでゴルフ始めましたとか、僕のインタビューは大丈夫ですか?

※詳細は『新人・書籍編集者が突撃!スゴ腕の編集長が「これ以上のビジネス書はない」と語った担当本とは?』参照

ーー大丈夫です! 最後に、畑下さんが手がけた本の中で一番おすすめの本を教えてください。

 『DIE WITH ZERO』ですね。この本を読むと行動が変わります。僕もこの本を最初に読んだ段階で、車を買いました。自信を持って勧められる本ですね。

ーー詳細が気になります! インタビュー後編では、反響続々の大ヒット『DIE WITH ZERO』をはじめ、畑下さんが担当した話題書の誕生秘話に迫りたいと思います! ぜひご一読ください!