なぜ、いい大学を出ても社会で生き残れないのか?
『ニュータイプの時代』著者・山口周氏に聞く
成功者の思考・行動様式とよく似ていた
この記事を書いている私は、これまで3000人以上に取材をしてきた。著名な起業家、経営者、科学者や俳優、スポーツ選手など対象者は多岐にわたるが、『ニュータイプの時代』を読んでいて感じたのは、実は多くの成功者の思考・行動様式とよく似ていたことである。
本書では、「飽和するモノと枯渇する意味」「問題の希少化と正解のコモディティ化」「クソ仕事の蔓延」「社会のVUCA化」「スケールメリットの消失」「寿命の伸長と事業の短命化」という6つのメガトレンドを語った上で、24の「ニュータイプ」について解説が行われているが、冒頭で代表的なものが表になって記されている。
正解主義から、なかなか日本人は脱却できない
中でも、象徴的なオールドタイプだと山口氏が語るのが、「正解を探す」だ。しかも、この正解主義から、なかなか日本人は脱却できていない。
だが今、ビジネス社会で求められているのは、誰にもわかりやすい正解ではないことに多くの人が気がついているはずだ。そんなものは、あっという間に真似されてしまうからである。
求められているのは、正解を探す力ではなく、問題を探す力。希少な問題を見つける力だ。そこで生きてくるのが、アートや美意識だと山口氏は早くから説いてきた。
「ところが教育現場でも、今なお正解を早く出せる子が偉いという感覚でしょう。アートは正解がないですからね。また、正解はつまり人と同じがいいということ。個性は圧殺される」
正解を出すことが、社会において価値を持った時代があったことは間違いない。
「豊かになる過程では、普遍性の大きな問題から順番に解決されていきます。正解を出せば、経済価値が生まれましたから、正解を出す人が求められたのは必然的だったんです」
しかし、世の中は大きく変わった。モノが溢れ、市場が飽和していく中で、価値創出の源泉は、「問題を解決し、モノを作り出す能力」から、「問題を発見し、意味を創出する」能力へとシフトしていったのだ。
「高い偏差値のいい大学を出たのに、社会に出て難しい状況になってしまっている人はたくさんいます。つまり、市場のニーズと能力のアンマッチが起こってしまっているんです」
むしろ、状態は昔よりもひどくなっている
だが、変わるには怖さがつきまとう。だから今なお、大学の偏差値を見て人材採用のプライオリティを決めてしまう企業が多い。学校も、偏差値の高い大学に行ける子どもを育てることが一大産業になってしまっている。
「びっくりする話を聞いたんですが、ある小学校では進学塾に8割ほどの子どもが通っていて、その進学塾の成績順のクラスが、学校でもカーストのように使われていたというんです。成績のよくない子が成績のいい子に馬鹿にされ、学校に行けなくなってしまっていたりする、と。正解主義から、波及的に貧しい状態が生み出されてしまっているんです」
むしろ、状態は昔よりもひどくなっている、というのだ。
「世の中を生き抜いていくことが、より厳しい状況になってきていますから、親御さんもサバイブさせようと過熱してしまうのでしょう。いい大学に行かないと、生き残れないと思い込んでしまっている。しかし、正解を出すだけの人材は、もういらないんですよ。人工知能もあるわけですから。すでにゲームは変わってしまっていることに気づいていない」
そして日本がニュータイプへの転換を苦手にしているものが、もう一つあるという。
(次回に続く)