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新人・書籍編集者が突撃!「ゆるふわ編集長」がベストセラー連発するまでの遍歴が面白すぎた

こんにちは! この春に出版社のダイヤモンド社に入社したての新入社員の秋岡です。同期4人で担当しているこの連載も、8月に入り3巡目に突入しました。これまでとは少し違って、17回目では書籍編集局第1編集部の編集長である三浦岳(みうら・たかし)さんの突撃インタビュー【前編】をお送りします! 『シリコンバレー式 自分を変える最強の食事』『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』『「静かな人」の戦略書』など数々のベストセラーを担当してきたスゴ腕編集長は、新人4人に対し一体なにを語ってくれるのでしょうか⁈

編集長の三浦さんです。写真からも分かる通り、三浦さんと話すとなんかゆるい雰囲気になります。

編集者が何なのか分かってなかった就活時代

ーーまず最初に、どうして編集者になろうと思ったんですか?

 僕は自分が就活生の時に、編集者がどういう仕事をしているのかあんまりよくわかってなかったんですよね。

 だからいま、面接で就活生に編集者の仕事について聞いて、解像度が高い答えを言われると、結構びっくりするんですよ。「よく知ってるなぁ」みたいな。

 僕は文学部出身で、小説とか文庫本しか読んでなかったので、ノンフィクションを取り扱う出版のイメージもよくわかっていませんでした。 でも世の中にいろんな仕事がある中で、本に関わる仕事だったら面白そうだなという感じで出版社を受けたんです。 

 大学時代は映画研究会に入っていましたが、いざ映画をつくろうとすると、役者とかライティングとか雑用とか、いろんな人に協力してもらったり、後工程でも編集やアフレコで機械を扱ったり、めちゃくちゃむつかしいんだなと思った。でも出版ってもうちょっと小人数でできてアナログな感じがしますよね。記事を書いたりとか、比較的個人の力で面白いことができそうな唯一の仕事だと思っていたのかも。今思えば、そういうようなことを思っていたのかもしれない。

ーー就活生の時は出版社しか受けてなかったんですか?

 大学ではロシア文学専修だったので、 ロシアに行ける仕事だったらいいなと思って、出版社とロシアに行ける会社の2択でした。だから商社とか、電動工具のマキタを受けたり……。

 出版社に関しては、記者と編集者の違いもよく分からないまま受けてました。旅行雑誌とかを読んで、編集者が温泉とかに行って自分で書いて紹介するのも面白そうだなと思って受けようとしたのかな。あれ? 受けてないかもしれない。記憶がない……。

ーーえっ? 覚えてないんですか(笑)。

 じゃあ何だったんだ、いまの話はってなりますよね(笑)。ともあれ、ある時、友達がノンフィクションを多く扱っている草思社っていう出版社が募集を出してるって教えてくれたんです。それで受けに行ってみたら、社長がロシア好きの人でした。新潟で日露間で材木商の通訳もしていたことがあるとか。加瀬昌男さんという創業社長です。

 初回の面接からいきなり社長が出てきて、ロシアへの留学経験があった僕に、「クワスは飲みましたか?」とか「黒パンはどうでしたか?」「サモワールは…?」とか、出版とは関係ないのではというロシアがらみの質問を次々畳みかけてきたんです。他の出版社では連戦連敗だったんですが、草思社だけはロシアばなしでどんどん面接を通過していくという(笑)。そんなこんなで、出版社に潜り込むことができたんですよね。

初めて担当したのは社長の企画⁈

ーー出版社に入って最初に担当した書籍は何だったんですか?

 『フェミニズムの害毒』(1999年刊)という本です。

ーーすごいタイトルの1作目ですね。

 ユングの研究で有名な林道義先生が、当時、フェミニズムの一部の論者に対して批判を展開していました。社長の加瀬さんがそんな先生に共鳴するところがあってこの企画がスタートしたらしいんだけど、それが入ったばかりの僕のところに降りてきたんです。いまだと、SNS騒然のタイトルですよね(笑)。

ーーちなみに『フェミニズムの害毒』を担当したのは、入社してどのくらいの時期だったんですか?

 入社してすぐだったと思います。

 小さい会社なので、OJTとかそんな概念はなくて、とりあえず企画が通っている原稿をどさっと渡して、先輩が適宜チェックしつつも、走りながら仕事を覚えさせる、みたいな感じだったかと思います。

普通なのにモテないのはなぜなのか

ーー編集者になって最初に三浦さん自身で考えた企画はありますか?

 最初に考えた企画は『フツーのはずなのに、どこかサエない男たち』(2000年刊)ですね。いきなり謎の企画(笑)。

 社会人になりたてのこのころ、モテるかモテないかみたいなことに妙にこだわっていたんですよ。

ーーそうなんですね(笑)。

 自分は普通のはずなのに 「なんでモテないんだろう?」と。そこから、普通の人をモテなくしている要因は何なのかと興味がわいてきて……。

 当時、『サエない女は犯罪である』という本が他社でヒットしていた笠原真澄さんという著者に「普通のはずなのにどこかサエないという男たちのいろんなエピソードを集めた本を作りたい」とご相談して、書いていただきました。『サエない女は犯罪である』もいま考えるとすごいタイトルですが。この企画は当時、草思社でちょっとだけ物議をかもしました(笑)。

ーー物議を(笑)。それはどうしてなんですか?

 骨太な本を多く出してきた出版社なので。僕が企画したライトエッセイのような本はあまり扱ってなかったんです。超職人みたいなベテラン編集者の方もいて、「若いのが入社してきて、なんか変なことをしているぞ」みたいな感じに……。でも社長の加瀬さんはなんでも面白がってくれる人で、鷹揚に受け止めてもらって無事に刊行できました。

ーーちなみにこの本を作った後はモテましたか? なにか変わったなって感じたりしました?

 いや、とくに(笑)。「だからモテないのか」と納得して終わりました。

ちなみに就活生時代の三浦さんは、出版社の集団面接で当てられず、自ら手を挙げて「私も高校時代陸上部でした…」と突然話し出していたそうです。

初めて売れた担当作は翻訳書だった

ーーその後に編集を担当したという『気がつくと机がぐちゃぐちゃになっているあなたへ』(リズ・ダベンポート著、平石律子訳、2002年刊)は見たことがあります。

 これは担当書で初めてベストセラーになった本なんです。ここに至るまで自分は全然ヒット作がなかったんですよね。企画の持ち球もほとんどないというような状態で。そんな時に先輩から「こういう本があるけど、翻訳を検討してみる?」って教えてもらったのが、この本の原著でした。

 見るとタイトルは『Order from Chaos』、つまり『カオスから秩序へ』というものでした。「何だこの本は」って思いましたね(笑)。

 でもいざ作ってみたら、営業部の人が「これは売れる顔をしてるね!」とか言って、いきなり初版2万部くらい作ってくれたんです。それまでヒット作なんて全然作ったことなかったのに。それで実際、17万部くらい売れたんですよね。

ーーヒットした理由は何だったんですか?

 中身もわかりやすかったんですが、片付け本としては、タイトルとカバーが新鮮だったんじゃないかな……。デザインをしてくれた郷坪浩子さんがカバーイラストも描いてくれたんですよね。

ーー素敵なイラストですよね! タイトルはどうやって考えたんですか?

 とくに深く考えず、思いつきでした。原題のことは忘れて、「『気がつくと机がぐちゃぐちゃになっているあなたへ』とかでいいか」みたいな(笑)。

ーーすごい(笑)。日頃の自分の机を見て思った感じですか?

 そうですね。普段から「みんな机がまあまあ綺麗なのに、なんで自分の机だけめちゃくちゃなんだろう?」とは思っていたのかもしれない。いまも思っているので。それで、たまたまパッと思いついて、企画書の仮タイトルにして、そのまま最後までいってしまったという感じだったかもしれません。

 この本が売れたあと、営業部の人と一緒に書店さんに行った際、「彼、ぐちゃぐちゃの人」と紹介されて、書店さんに「あ、ぐちゃぐちゃの人!」みたいに言ってもらえたのは、なんかうれしかったです。ヒット作が出ると、書店さんに認識されるんだな、と。

ーー編集者は自分の担当書籍が売れたら、異名みたいにその本のタイトルで覚えられることがあるんですね!

 のちに大和書房に移ってから、担当した『スタンフォードの自分を変える教室』(ケリー・マクゴ二ガル著、神崎朗子訳、2012年刊)がベストセラーになってからは「スタンフォードの人」と言われるようになりました。

 ぜんぜんスタンフォードの人じゃないんだけど(笑)。

「ぐちゃぐちゃの人」と「スタンフォードの人」では印象が大きく変わりますよね!

「すごくいい!」と思って作ったのになぜか売れない……

ーー『気がつくと机がぐちゃぐちゃになっているあなたへ』から『スタンフォードの自分を変える教室』までの間に担当した代表作はありますか?

 代表作というか、印象に残っているということでいうと、『結論で読む人生論』(勢古浩爾著、2006年刊)という本があります。

ーーどういうところが印象に残っているんですか?

 当時、「人生の意味」って何なんだろうと思っていたんです。学生時代からよく読んでいた19世紀のロシアの小説とかは、ある種の人生論の代わりみたいに、人が生きる目的を指し示してくれていると思っていました。

 でも、ふと「人生の答えを学ぶために長い本を読むのって大変だから、最後の部分だけでいいのでは?」と思いついたんです。急に安直ですが(笑)。それで、あらゆる大著や難解な本や名著といわれる古典などで描かれている人生論の「答え」だけをまとめて1冊にしたらどうだろうと思って企画したのが『結論で読む人生論』です。

 老子から孔子からカント、トルストイ、漱石、その他聖書とかコーランとか、古今東西の賢人は「人生の意味」とは何だと言っているのかを、結論だけ引っ張ってきてまとめてもらいました。

 そう聞くと、すごく面白そうな本だと思いませんか? そうなんです、すごく面白い本なんです。本ができた時は「こんな役に立つ本、他にないのでは!」と思いました。でも、ベストセラーというほどまでは売れませんでしたが……。

 大物作家さんとか一人の人が書いた主観的な人生論はベストセラーになったりしますよね。そういった本に書いてあるようなだいたいの答えはもうこっちに載ってるんですけど。

ーーでも、今の人の方が『結論で読む人生論』みたいな本を求めてる感じがします。読んで結論だけすぐわかるのとか、タイパがいいじゃないですか。

 そうか。いま、草思社で文庫になっているので、ぜひ新しい世代の人にも読んでほしいです。

終始ゆるい感じでインタビューが進んでいきました。

転職で変わった編集者としてのスタイル

ーーちなみに三浦さんが転職したのってどの本からなんですか?

 『文系ビジネスマンでもわかる数字力の教科書』(久保憂希也著、2010年刊)という本が、 大和書房に転職して初めて担当したものです。ここで本の作り方がガラッと変わりました。この本を出したのは2010年なんですが、この時期の前後にビジネス書ブームがあったんです。

 僕はずっと人文なのか文芸なのかなんなのかよく分からないジャンルをやってきたんですが、そのころに店頭で勝間和代さんの本をよく見かけて。書店で『無理なく続けられる年収10倍アップ時間投資法』という本が山積みされているのを見た時に、「年収が10倍アップしたら最高だな」と思って、ふらっと手に取ったんです。当時、お金が全然なくて。

 エンタメっぽい新しい形のビジネス書がどんどん世に出てきていたのがこの時期でした。それまで自分の中ではビジネス書というと、本当に超真面目な人とかおじさんが読むもの、みたいなイメージだったんですが、勝間さんの本を読んで、こういう柔らかい感じのビジネス書なら手に取りたくなる気持ちは分かるかもな、と思いました。それくらいのときから、マーケットインでも発想できるようになったと思います。編集者になってすでに10年くらい経っているわけですが。

ーー企画を考える頻度は三浦さん自身で変わりましたか?

 変わりましたね。

 いまは知りませんが、僕が入ったころの大和書房の企画会議は、著者に当たる前に社内で企画を提案する仕組みだったんです。それでダメならそこでスパッと落として、いい企画だけ著者に当たるというスタイル。

 一方、草思社では、著者に当たって内容をしっかり作りこんでから企画書をまとめて企画会議に提出するというスタイルでした。いまのダイヤモンド社は後者に近いやり方ですが、個人的にはこのときの大和スタイルはとてもいい経験になりました。

 中途入社のプレッシャーもありますし、妄想でもなんでもどんどん企画しないと仕事が進まないですし、まわりもバンバン企画を出すので、企画を継続的に考える習慣が身につきました。

ーー大和書房の後にダイヤモンド社に転職したんですよね?

 そうです。『努力が勝手に続いてしまう。』(塚本亮著、2015年刊)という本がダイヤモンド社で最初の担当書です。

ーーどうして転職しようと思ったんですか?

 そのころ、ビジネス書ブームを支えていた実力のある編集者たちが、次々とダイヤモンド社に集まっていて、どんな感じか、自分もそこでやってみたいなと思ったんです。

ーー今、三浦さんの編集者としての強みは翻訳書だと思うんですが、翻訳書を担当するきっかけになった本はあるんですか?

 最初の『気がつくと机がぐちゃぐちゃになっているあなたへ』がヒットしたことが大きいですね。

 あと、最初に入った草思社が、翻訳書と日本人の書き下ろしを半々くらいの割合で扱う出版社だったので、自分にとって翻訳書を担当するハードルはとくになかったんです。 

 でも大和書房に移ると、翻訳書をやっている人があまりいなかったので、翻訳書を作るのが突然自分の強みになりました。実はこれは編集者として特殊技能だったのかなと。その中でも、大和書房で3冊目に担当した『ハーバードの人生を変える授業』(タル・ベン・シャハー著、成瀬まゆみ訳、2010年刊)という翻訳書が、10万部を超えるベストセラーになったんです。

 ここらへんから、「自分、なんか売れる本を出せる感じがする」みたいな気分になってきました。

ーーインタビューの後編では、三浦さんの「思い入れの強い担当書籍」や「自分の人生に影響を与えた本」について聞いています!

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