【出版記念インタビュー】「日本語学習者のための”魔法使いの嫁”で学ぶマンガの読み解き」に込めた、日本語教師の想い。
デジタルハリウッド大学(DHU)に在籍する1000名超の学生のうち、3割弱を占めるのが外国人留学生です。DHU公式noteでは「外国人留学生にも丁寧なサポートを。日本語授業で行われる就活支援とは」で、異国の地でデジタルコンテンツを学ぶ留学生をサポートする日本語授業について紹介しました。
今回登場するのは、2022年2月に発売された書籍『マッグガーデン公認 日本語学習者のための“魔法使いの嫁”で学ぶマンガの読み解き』の著者であり、DHU日本語教材開発センター長を務める臼井直也先生です。
DHUの留学生に日本語を教えながら、アニメやマンガ、ゲームなどのデジタルコンテンツを日本語教育に応用する、という珍しい研究をされている臼井先生。研究者としてのルーツや書籍発売までのストーリーについて伺いました。
アニメ×日本語教育 のきっかけ
note班:本日はこのインタビューの前に、北海道教育大学付属函館中学校の生徒さんから修学旅行と探究学習の一環で「アニメーションと日本語教育」をテーマに取材を受けていただきました。いかがでしたか?
臼井:いやあ〜びっくりしました。事前のメールのやり取りも中学生とは思えないしっかりした文面で。「日本語教育とアニメの研究をすることで新しく得られたことは何ですか」「臼井先生が研究されたことは私達の身の回りでどのように活用されるとお考えですか」といった質問も、今まで自分では考えたことのないことばかり。こちらが緊張しました(笑)。
note班:日本語教師の道に進もうと決めたのはいつですか?
臼井:高3です。大学では英語を学ぼうと思っていたのですが、たまたまテレビで日本語教育について紹介している番組を見たんです。そこで「日本語を学びたい人は世界にたくさんいるけど、教える人が足りていない」という話があって。
「日本語を学びたい人がいる」ということを知って、日本人として素朴に嬉しかったんですよね。日本文化にも興味があったので、それなら日本語教師になってみようかな、と思ったのがきっかけです。
note班:それで東京外国語大学に進学されたんですね。
臼井:はい。1年次から日本語学ーー文法、音声、教育法などを学びました。東京外大には当時、5年間で修士号を取得できるコースができたばかりで、その1期生でした。
2006年、日本語教育学会が「映画・アニメ・マンガ―日本語教育の映像素材」というシンポジウムを東京外大で開催しました。そこで映画、アニメ、マンガの教材化など、現在のアニメーション研究の第一歩といえる発表が行われていて、私もたまたま参加していたんです。
でも、そのシンポジウムでは「アニメならではの特徴」のような内容はなく、学生という身分ではありましたがまだまだ課題が多くあるように感じました。私自身昔からアニメに関心があったので、そこから自分の研究テーマとして「アニメをはじめとするデジタルコンテンツと日本語教育」という軸ができました。
VTuberもFPSも教材になる
note班:日本語教師としてのキャリアについても教えてください。
臼井:最初は中国で2年間、現地の学校で指導経験を積みました。福建省の大学で、中国人講師が文法などの基本を教えてから、日本人のネイティブ講師が会話などを担当する形でした。その後、デジタルハリウッド大学で教える機会をいただいたのですが、自分の研究テーマとここまで合致する大学は他にないので、授業・研究ともに楽しく過ごすことができています。
DHUの日本語授業でもデジタルコンテンツを題材として扱うことがあります。最近だとVTuberの配信動画を聴解(リスニング)の授業で活用しました。
note班:VTuberを教材に、ですか!そのねらいはどこにあったのでしょう?
臼井:そもそも聴解、つまり耳だけで情報を得る機会って、現代の生活ではあまりないですよね。ラジオや駅のアナウンスなどは音声のみですが、私たちの情報のインプットの大部分は目からで、映画やアニメのように「映像」と「音」が組み合わさったものが中心です。
一方、VTuberというのは「アバター」と「音声」で成り立っている。アバターにも表情や身振り手振りがつくとはいえ、リアルな人間に比べれば動きは圧倒的に少なく、音を頼りにしなければいけません。
またアニメ・映画には台本がありますが、VTuberは「中の人」によるリアルな会話が中心で、視聴者もチャットなどでリアルタイムに参加することで成立する。そういった点も含めて、学習効果が高いコンテンツだと考えて取り入れてみました。
note班:もともとVTuberもお好きだったのですか?
臼井:いえ、最初はむしろ「中の人」が生でしゃべっている感じが苦手なくらいで。でもVTuberのゲーム配信を見るようになって慣れていきました。授業で学生に聞いたところ「英語を話すVTuberの配信を見ながら英語を勉強している」という声も多かったので、新しいコンテンツへの適応力の高さを改めて実感しました。
note班:先生の意識の中で、「コンテンツへの興味」が先なのか、「教育への応用」が先なのか、どちらでしょうか?
臼井:どちらもあると思います。昨年書いた研究紀要の題材は、今ハマっているApex Legendsでした。30代になって初めてFPS(シューティングゲーム)に挑戦するっていう(笑)。アニメの場合は研究してきた期間も長いので、教育にどう活かすか?という意識が強くなりますが、基本的には趣味も研究も好きなことを好きなようにやっている感覚です。
ただアニメーションに限らず、デジタルコンテンツを活用した日本語教育という研究テーマ自体はまだまだ発展途上なので、現時点では実践と研究の両面から広く浅く扱うようにしています。
マンガの「読み方」
note班:この度上梓された『日本語学習者のための”魔法使いの嫁”で学ぶ マンガの読み解き』についても伺います。
臼井:ある程度予想はしていたのですが、制作過程は大変でした。デジタルコンテンツと日本語教育というテーマで教材を作ろうという話自体は数年前からあったのですが、著作権などの問題でなかなか進まず、ようやく話が具体的にまとまったのが『魔法使いの嫁』(原作・ヤマザキコレ)でした。
note班:具体的にどんな大変さがありましたか?
臼井:すでに多くの読者やファンのいる人気マンガ作品を教材として扱うことのハードルです。教材を使うのは先生であり学生なので、「解答」が必要です。他方、作品の「解釈」は読者によって多様であるべきで、ひとつに絞ることはできない。
これについてはマッグガーデンの担当編集の方と何度もやりとりをさせていただき、作品中のセリフを答えにしたり、解答ではなく「考え方の例」を巻末に掲載したり。ナビゲート役のキャラクター2名を新たに用意して、その2人がヒントを出しながらページが進んでいく形を取るなど、さまざまな調整をしていきました。
note班:出版社公認という、おそらく前例のない日本語教科書が誕生した背景には、いろいろな苦労があったんですね。本書をどのような人に手に取ってもらいたいですか?
臼井:日本語でマンガを読める人が増えるといいなと思っています。『魔法使いの嫁』に限らず、人気作品なら翻訳版などがあるかもしれませんが、それ以外、つまり日本語版しか発売されていないタイトルの中にもみなさんの心に響くものがたくさんあるはずです。
マンガはメディアミックス(注:ある作品をマンガ、アニメ、ゲームなど複数のメディアを使って展開すること)の出発点になることも多い。自分でいい作品を探せるようになれば、ビジネスとして母国にアニメ化の話を売り込んだりすることもできる。そういう留学生のための教材になれたら嬉しいです。
近年では、日本の国語教育でもマンガを活用しようとする動きがあります。小中高生のみなさんにも読んでいただきたいですし、学習者に限らず普段マンガを読む習慣がない人にもぴったりの教科書だと思います。
note班:最後に、noteを最後まで読んでいただいたみなさんにメッセージをどうぞ!
デジタルコンテンツ×日本語教育は、まだまだ研究者の少ない分野です。私も映画化されるような話題のアニメ作品は必ず劇場で観て、今の流行りを把握するようにしていますが、学生との年齢は徐々に離れていきます。今日取材に来ていただいた中学生のように、留学生=日本語学習者との年齢が近い、若い世代のみなさんにも研究したいと思ってもらえるよう頑張ります。
note班:ありがとうございました!
DHUではデジタルコンテンツ(3DCG/VFX、映像、ゲーム・プログラミング、アニメ、Web、メディアアート等)と企画コンテンツ(ビジネスプラン、広告PR等)に加えて、英語をはじめとする外国語の集中的な学習ができるだけでなく、デジタルと自身の専門領域を組み合わせて教育研究活動を行っている学生・教員がたくさん在籍しています。
臼井先生も寄稿している研究紀要「DHU JOURNAL」をご覧になりたい方は、メディアサイエンス研究所のWebサイトへどうぞ!
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