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顔の消失――****症の夜(タイトル改変)

詩誌「潮流詩派」掲載作品

夜 子どもが部屋にいる その部屋の窓に 見知らぬ顔が現れる 

見知らぬ顔? いや それはいつか別の日の 子どもの顔だ 知らぬ間に その傍らを通り過ぎてしまった 別の日の顔 

ちょうど独り部屋にいて ふと気づくと ついさっきまでそこにあったはずの何か 例えば机の上の 一枚のスナップ写真が どうしても見つからなくなってしまったような 

そしていつしかそこには 見知らぬ顔を映し出した 別の写真が置かれている 

それから二年目の秋 ある夜の街角を 子どもは歩いていた 青い雨の中 辺りの光景が笑いながら散乱した そこには誰もいない 

誰もいない? いや そこには誰かがいた はずだ 風景を消し 笑いながら消え失せた誰かが 

(子どもは 主治医のもとに移送された) 
主治医は しばらく考え込んでいたようだが ふと大切なことに気づいたといった感じで かつて子どもが描いた絵を探し出してきた 

子ども部屋の窓際に 爆撃されたかのような 焼け跡の残骸のような 鉄のベッドがある そこに横たわる一人の子ども 

だが その絵に描かれた 部屋の窓には 
かつて確かに描かれていたはずの 
あの顔が なかった


以上の作品のオリジナルは90年代半ば頃に書かれた散文草稿『ゼロ-アルファ』のごく一断片である。本作品はその草稿を詩作品に変換したものである。

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