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やがて回帰する少年Aの傍らで

詩誌「潮流詩派」190号 [状況詩篇] 掲載
やがて回帰する少年Aの傍らで  

彼が一体誰なのか 私は何も知らない
ただ私は 彼に関わる言葉の断片から
彼の喉の奥底に刺さった 微かな時間を思う
母親は 「この子を生んで…」
楽しかっただろうか
この子といるだけで幸せだと
感じるときがあったのだろうか
母親は彼に聞いた
「これ本当にあったことなん?」
彼は答えた
「いいや。違うけど、こないして書いたほうがおもしろいやろ」
彼がそんなことを 「平気な顔で答えるので」母親は驚き 「あんた、作文いうたら本当のこと書かなあかんで」 と言い聞かせた
「本当のこと書かなあかんで」という
否定の言葉だけが 
母の喉の奥底から
這い上がってくるのを見たとき 
彼の心の最も秘められた場所で
確かに 何かが壊れた 
五年後 彼は 
彼がどうしても掴み取りたかったその何か  
つまり 他者(が表現する世界のすべて)を
壊した




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