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異なるフォントを混ぜ合わせたチョコレートファクトリー「Many Cacaos, Many Minds.」のロゴデザイン

大阪の東側、生駒山を挟んだ反対側にある街、生駒の駅前に誕生した新たなコンセプトの“BEAN to BAR(*)”のチョコレートファクトリーショップ「Many Cacaos, Many Minds.(メニーカカオス、メニーマインズ)」。

なぜ、このロゴには大文字と小文字が混ざっているのか。なぜ、セリフ体とサンセリフ体が混ざっているのか。この今回はそのお話を少しさせてください。

(*)BEAN to BARとは、BEAN(カカオ豆)からBAR(板チョコレート)の通り、カカオ豆から板チョコレートまでを自社内で一貫して行う製造スタイルのこと。


勝山浩二 Coji Katsuyama | monodachi

合同会社オフィスキャンプ デザイナー/アートディレクター。1986年生まれ、大阪市出身。グラフィックを軸にした広告デザインやWEB、プロダクト、ブランディングなどを手がける。地域プロジェクトや企業ブランディングなどを手がけるデザイン事務所を経て、現在は奈良県奥大和地域にフィールドを移しローカルデザイナーとして活動。木材産地で地域にねむる林業や木工産業、農業、地域に関わる起業家たちと共にプロジェクトを進行中。




Photo: Hiroki Kawata


すべての個性が報われる道を開く


「Many Cacaos, Many Minds.」を運営する株式会社ASUMOの代表である中岡さんから、はじめにブランディングの相談を受けた時は「奈良土産になるチョコレートブランド」でした。
もちろん、それはそれで無しではないのですが、中岡さんから想いや成り立ち、これから目指す未来の話を聞いているうちに、このブランドがやる必要性が見えなくなり、軌道修正をすることになりました。

ASUMOは障害福祉施設に通っている障がい者の就労を受け入れています。チョコレートショップの他にも飲食店や美容、ITに関する事業を持ち、全ての事業で障がい者が自身の特性に合った業務で活躍しています。

利用者さんは憧れている夢の職業がたくさんあるという話を聞きました。ホテルマン、パティシエ、イラストレーターなどなど。本来は、飛び抜けた集中力や、他には無いこだわり・独創性などがあるにもかかわらず、ほとんどが軽作業や事務作業などに割り当てられているのが今の社会の実態です。そういった社会を変えたくて、中岡さんは、福祉事業と非福祉分野の事業(働く場所)の双方を行っていたのです。

異なる産地から届いた数種類のカカオ豆を、焙煎して・丁寧に皮と豆を選別して・砕いて・溶かして混ぜて・整形して・梱包する。集中力がいる作業とクリエイティブな作業が混ざるこの“Bean to Bar”スタイルのチョコレートファクトリーは、まさにぴったりでした。

そして、「チョコレート」という製品でしか見ていないと、それらに個性を感じることはあまりないけど、これらの工程を目の前で見ると、なんとも不思議ですが、1枚ずつの板チョコがそれぞれ違ったモノに見えてくるのです。

モノをつくることから自己を表現する。お客様1人1人の嗜好を聞いて提案する。
チョコレートづくり・チョコレートショップを通じて「個性」を尊重するようなブランドという新たな方向性が見えてきました。
人も、カカオも同じ。バラバラで良い。個性を感じれた方が楽しいやん。


十人十色(Many Colors, Many Minds.)


カカオの産地はもちろん、カカオ&ミルクの配合率、焙煎度合いなどによって、さまざまな香りや味が楽しめるチョコレート。そんな豊かで色とりどりのチョコレートをみんなにも知ってほしいという想いから、十人十色を意味する英語、Many Colors, Many Minds. から、ブランド名をそのまま「Many Cacaos, Many Minds.」と名付けました(通称:メニーと呼んでいます)。

ブランドの世界観を構築するにあたり、まずは3つの”らしさ”を定義しました。

「クラフト」「個性」「余白」の3つです。
BEAN to BAR(チョコレートファクトリーショップ)のスタイルから、そのまま「クラフト」。これは、他のチョコレートショップやカフェ、スイーツショップとの差異にもなります。
「個性」は、一粒一粒が違うカカオ豆のことでもあり、一人一人が違う人間の個性のことでもあります。人とは、お客様であり、働くスタッフでもあります。社会の大量生産・大量消費に対してのアンチテーゼでもあります。
そして「余白」とは、誰でも関わることのできる“隙”のようなもの。お店とお客・作り手と買い手といった隔たりで分けられるのではなく、混じり合っていて、誰にでも開かれているようなイメージです。

「クラフト」「個性」「余白」のこの3つのらしさから、はじめにイメージとして生まれたのが、ロンドンにあるヴィニールレコードショップ「Love Vinyl」です。

Love Vinyl

若者もおじさんも、ストリートもオタクも、バラバラの属性の人たちがお店を訪れ、さまざまなジャンルの音楽を聴きながらレコードを吟味する空間。そして、その混ざり合ったコミュニティそのもの。まさにメニーで目指す方向性です。

ただただ「個性的なチョコレートショップ」というコンセプトにするのではなく、メニーだからこそ目指すコンセプトや世界観にしたい。
そこで、「クラフト・個性・余白」から、“Conflict コンフリクト”という概念が生まれました。


“Conflict コンフリクト”という概念


異なる要素やスタイルが衝突することで、新たな対比と融合を生み出す。その考え方を“Conflict(意味:不一致)”という概念に込めました。

通常であれば、ロゴタイプ(文字で組まれたロゴ)というものは、そのブランドの世界観やトンマナを統一させるために、同じフォントや似たトーンの書体を用いて作られます。セリフ体(文字にヒゲのある明朝体)や、サンセリフ体(ヒゲのないゴシック体)、Garamond ギャラモンド、Helvetica ヘルベチカ みたいに。
メニーでは、そういった統一のフォントを使用せずに、あえて、太くて角ばった書体や、細くて丸みのある書体、ヒゲがある書体を、バラバラに組み合わせて作りました。

これの目的は、コンセプトである「十人十色」をそれとなく伝えること。
もうひとつは、視覚的な対比や矛盾から生み出されたブランドアイデンティティによってブランドの個性と創造性を象徴するためです。

そして、もちろん、視覚的な要素だけではなく、この“Conflict(意味:不一致)”という考え方は、新たな可能性や調和の発見へと導くきっかけでもあります。
人も、カカオも、ひとつとして同じものはありません。お店での買い物体験や、チョコレートを食べることによって得られる気づきから、「個性」というものを改めて考えて、新たな発見をしてもらうための仕掛けでもあるのです。


カタマリ感と、バラバラ感


しかし、ただバラバラのフォントを使うだけでは、文字の大きさも太さもバラバラのままでは読みづらく視認性が悪く、ロゴタイプとしては破綻してしまいます。
そこで、いくつかの微調整をしています。
まずは、線の太さを2段階に定めて、その太さになるように文字のサイズと、全体のバランスを見つつ調整します。

次に、文字の下面(ベースライン)を揃えて、フォントごとにバラバラである「A、N、Y、M」などのアルファベットにある斜めのラインの角度を揃えます。この2つを行うことで、おおよそのバランスが取れてきます。

最後に、文字間を整えます。
文字間で受ける印象がガラリと変わります。広い字間は、ゆったりとおおらかでナチュラルで女性的な印象をもたせ、狭い字間は、スマートでしゅっとした印象になります。もちろん、やりすぎは良くないので、ブランドに似合う幅にする必要があります。
ロゴとして、ひとまとまりにも見えるし、ひと文字づつにも見える。塊(カタマリ)感と個別(バラバラ)感のちょうど良い塩梅を狙っています。

近すぎると黒い団子のカタマリに見えるし、放しすぎるとバラバラの粒に見えてしまう。文字ではなく記号にしてみて、文字の面積を確認したりしました。


描いたアートがパッケージになる


メニーの特徴でもある、パッケージのイラスト(と、店舗の内装にも使われているアート)は、絵を描くことが得意なスタッフ・好きなスタッフの作品です。味の異なる数種類のチョコレートを試食して感じた心象風景を、それぞれの人の感じ方で描いてもらいました。
具体的なカカオの絵を描いてしまいがちですが、個性には正解がないため、写実的ではなく抽象的でなければなりません。そこはあえて、心象風景を描いてもらいます。天気や気候、気分、日によって心は変わるので、数日間にわたり、何度も描いてもらいました。

Photo: Hiroki Kawata
Photo: Hiroki Kawata

お持ち帰り用の手提げ袋(ショッパー)や、ギフトボックスは、スタッフが1点ずつ手でシルク印刷をしています。物によってはインクの滲みや擦れが出てきてしまっているものもあります。もちろん、1点1点表情が異なります。
そのようにして、チョコレートを届けるまでに必要な工程、ほぼすべてにスタッフの手が携わります。すべてがメニーのブランドの顔になっていくのです。

Photo: Hiroki Kawata


スタッフとお客様が一体となり、混ざり合う空間


店舗の内装は、作り手から買い手、買い手から作り手の存在を認識できるよう、厨房とショップ、カフェをカウンターで仕切るだけの一体的な空間。“Bean to Bar”らしく、カカオ豆の保存から選定、焙煎、チョコレートバーのラッピングまで全ての工程を可視化し、カカオの匂いと製造機械の音、パッケージ、提供するスタッフと購入者が溶けて一体となり、混ざり合うようです。

このショップの作法は「まず、試し食べる」こと。普通のチョコレートを選ぶ基準「カカオ〇〇%」や「〇〇産カカオ使用」「〇〇のようなフレーバー」といった固定されたイメージの押し付けはありません。
そういったバイアスを除いた素の状態で一度食べていただいて、自分の好み・贈る人の好みの想像しながらフレーバーを探してみてください。

Photo: Hiroki Kawata
Photo: Hiroki Kawata
Photo: Hiroki Kawata
Photo: Hiroki Kawata


働くスタッフの人たちだけではなく、この街で生活している人たちみんなも、子供たちも、個性を押し殺されてしまう生きづらい社会です。
作る人も、買う人も、贈る人も、貰う人も、みんながそれぞれの「個性」を考えるきっかけになってほしいと願っています。

それでは、今回はこのあたりで。ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。また機会があれば他の記事も読んでください。




Client: ASUMO Co., Ltd.
Art director, Designer: Coji Katsuyama
Creative Agency: Office Camp llc.
Architect: Yoshiaki Nagasaka -hitotomori- / Shimpei Oda
Builder: Furuo Reform
Photographer: Hiroki Kawata


https://www.instagram.com/manycacaosmanyminds/

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