シアーシャ・ローナン vs マーゴット・ロビー 『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』の演技の話
シアーシャ・ローナン、26歳、アイルランド人
・・・彼女はまちがいなく、今を代表する女優の一人でしょう。
最新式のコミュニケーションの演技法を自由自在に使いこなし、その魅力あふれる演技のディテールは、彼女が演じる架空の人物がまるで実際に我々の目の前に存在しているかのように感じさせます。
そんなシアーシャ主演の2018年の映画『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』をアマプラで遅ればせながら見ました。
この映画はシアーシャと、『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』などで衝撃的な演技を見せたマーゴット・ロビーが2人の女王を演じて、ほとんどW主演状態でガチの演技対決をしているのですが・・・ふたりの演技法も各々のキャラに合わせて真逆!という凄いキャスティング。 演技を見る喜びにあふれた映画でした。
マーゴット・ロビー演じる、イングランドの女王エリザベスの演技で一番印象的なのは、不安そうにキョロキョロする大きな瞳です。
女王エリザベスは常に裏切りと謀略に囲まれていて、自分自身が周囲からどのように見られているのか不安なのです。なので常に「正統な女王らしく」行動すべく考えに考え抜いて振舞っています。
そんなエリザベスをマーゴットは自分が何者であるかを意識して「見せる」演技・・・つまり「OUTPUT型の演技法」で演じています。
「女王として振る舞う」演技、そして「女王として振る舞おうとするひとりの孤独な女」の演技が素晴らしいのです。
対するシアーシャ・ローナン演じるスコットランドの女王メアリーの演技で一番印象的なのは、世界を、人間たちを見ている喜びに満ちた澄んだ瞳です。
メアリーはどんなにヘビーな謀略のど真ん中にいても、常に澄んだ瞳で世界を観察していて、そこで感じたINPUTに瑞々しく反応して行動しています。
彼女は生まれながらの女王なので(なんと0歳で即位!)女王を演じる必要がないんですね。血統も一番正統だし。シアーシャは女王として生まれた女性メアリーの日々の心の揺れ動きをイキイキと瑞々しく演じているのです。
よくこういう若い女王や王女の日常生活を演じる時、あえて今風の若者みたいに演じる映画があるのですが、シアーシャはそれとは別次元の役作りをしています。
なので侍女たちとキャッキャしていても、田舎で自然と戯れていても、超可愛らしいんですが庶民にはまったく見えない。女王として政治の謀略の中で戦っている時でも、20代の女性のとして自然体で行動しています。
シアーシャはメアリーとして世界を「見て反応する」演技・・・つまり「INPUT型の演技法」で演じています。その姿の瑞々しさたるや、最高なのです。
つまりマーゴットは「女王を演じるOUTPUT型の演技法」で女王を演じ、シアーシャは「女王として感じ行動するINPUT型の演技法」で女王を生きている・・・この真逆の演技法で、エリザベスとメアリーは演じられているのです。
演技として最新型なのはシアーシャの「INPUT型の演技法」の方です。
すごいのはシアーシャがシアーシャ本人として反応しているのではなく、完全にメアリーとして反応していることです。
じつはこれ、演技としてすごく難しいのです。俳優って芝居の中で反応しようとするとついつい俳優自身として反応してしまうのですよね。俳優の訓練で有名なレピテーションが撮影の現場でなかなか効力を発揮しないのは、これが理由です。役の人として自然に反応するって大変なのです。
それをシアーシャは軽々と、自由自在にやりこなしています。
なので若い女の子でもあり同時に女王でもあるシアーシャのメアリーの姿は、女王を描いた数々の映画の中でも破格に生き生きと魅力的で、しかも史実に忠実に見える説得力を持っているのです。
ああ、これが女王というものか!と実感できる映画でした。
この映画のクライマックスは、そんな2人の女王、メアリーとエリザベスが初めて会う密会シーンです。
イングランド女王として覚悟を決めてきたエリザベスに対して、生まれながらの女王メアリーはそのカリスマ性で全力でエリザベスを魅了しようとします。 動揺させられながらも魅了されてゆくエリザベス・・・女王として、女性として、ライバルとして、姉妹として、様々に関係性を変化させながら2人の会話が激しく展開してゆく・・・うわあ。超エキサイティング。
これがディテールたっぷりっていうか「ディテールしかない!」みたいな演技で、アップの長回しのショットで撮影されています。
これを演技バトルとして解説すると。
エリザベスはOUTPUTでメアリーを圧倒しようとするが、メアリーは圧倒されるどころかそれを迷わずINPUTしてゆき、イキイキとしたリアクションをエリザベスにどんどん返してゆく。逆にエリザベスはそのリアクションに圧倒され、さらに強めのOUTPUTで押し返そうとするけれど、そのエリザベスのOUTPUTをどんどん吸い込んでは瑞々しく反応するメアリーの変幻自在の攻撃に押されて、エリザベスはどんどん硬くなってゆく・・・みたいな戦いが演技上では起きていました(笑)
さてこの対決はどちらが勝利を収めるのか?・・・それはネタバレになるので書きませんが(笑)、二人の演技勝負はボクはシアーシャの勝ちだと思いました。シアーシャのメアリー、あまりにも女王であり、同時に一人のリアルな女性として魅力的でした。
マーゴットの演技は覚悟が出来すぎていたため、やはり「感じる」のINPUTが足りていなかったというか、その場で起きていることに対する反応が少なかったと感じました。なので魅力が発揮しにくかった!
・・・でもそれはエリザベスの状態としてはある意味の正解の演技ではあるので、判断が難しいのですが(笑)
余談ですが、このクライマックスの密会のシーンを吹き替え版でも観てみたんですよ。声優さんたちがどう演じてるのかなーと思って。そしたら・・・なんだか舞台風でした。
大きな声で、情感を込めて、いかにも感動のシーン!って感じの演技・・・なるほど。音楽の入り方とかも相まって、野田MAPのクライマックスシーン的な雰囲気が(笑)・・・いやボクも野田MAPは大好きなのでそれはそれで楽しめましたが・・・でもこれは元の映画が表現しようとしていたものとは全くの別物。
ああ、この映画の吹き替えのディレクションやりたかったなあ。あのシアーシャとマーゴットが全力でやっていた戦いの豊かなディテールを、日本語で再現したかった。ああ。
・・・というわけで『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』、すごくオススメの映画です。特に女優さん必見!な映画なので、ぜひ。
小林でび <でびノート☆彡>
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