顧客起点マーケティング02

デザイナーがマーケティングを勉強した方がいい理由(ペルソナを題材に):実践顧客起点マーケティング

前にペルソナの考察を書いたとき、デザインで扱うペルソナとマーケティングで扱うペルソナには違いがあるらしい、ということを知りました。でもデザインで扱うペルソナの論理だけでは、ビジネスで実践するためには市場や売上との関係の説明に限界があるので、マーケティング観点との融合ができないものかと考えていました。

そうしていたら、マーケティング側にいい本がありました。

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たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング
西口 一希
翔泳社 2019.04

著者の西口さんは、P&G、ロート製薬、ロクシタン、SmartNewsで、ブランドマネージャーやマーケティングディレクターでの実績があります。異なる市場で数々のヒットをつくった一番の要因は、本書のタイトルにある「たった1人の分析から事業は成長する」という考え方です。

N1分析はペルソナではない

N=1というと「ああ、ペルソナのことか」と思いがちですが、著者の主張は違います。実在する1人に目を向けるということです。

ペルソナの悪い面は、要素を継ぎ合わせて仮想の人物をつくると、平均的になってしまったり、表面的で腹の底が見えにくい、といったことがあげられます。特に責任者があいまいなグループワークだと、上っ面なペルソナになりがちです。実体験がある人も多いかと思います。

N1分析はそうならないための考え方です。そしてこの考えの一番大事なところは『その人が潜在的に何をほしいか?』を見つけることです。年齢や住まいや趣味は実のところ枝葉の話で、18歳でも80歳でも根源で求めているものが一緒だったら、極論どちらでもいいのかもしれません。(ただし開発メンバーで共通認識をもつためには、なるべく一般的にイメージしやすい層にした方がいいとは思いますが)

顧客起点マーケティング04

ペルソナに関わったことのある人なら、何となく納得できると思います。

ただしN1分析は、どこにそのN=1がいるかを探すのが難しいことが課題です。自分の身の回りにピッタリの人がいればいいですが、それだけだと自分の世界の中だけでしか商品企画はできません。アーティストは割とこういったアプローチで創作をしている印象があるけれど、デザイナーは自分の関心以外の領域も扱わなければいけません。

僕が考えるデザインのアプローチは、上に書いたようなことを意識していれば、まずはじめにペルソナをつくることは手がかりを見つけるうえで有効だと思います。

だけどそれで終わりではなく、実際に該当する人に会って、話を聞いたり行動を観察する、ということをしないと実在するN1にはなれません。そのような点からも、前回書いたユーザーインタビューや、

文脈を見つける行動観察はデザインリサーチには欠かせません。

これを実践すれば、デザイン側のペルソナ・アプローチでも、マーケティングのN1分析はできるといえます。

N1分析を事業戦略につなげる

そして、僕のなかではここが本題なのですが、『N1からどのようなビジネスの効果をつくるか?』を説明できることが、この本から学べます。

下の図は本書で表現されていた内容を一つにつなげてみたものです。(なので、いつものように図は僕のオリジナルではありません、あしからず)

顧客起点マーケティング03

消費財をイメージするとわかりやすいですが、左の図は上下でよく買うお客さんから商品を知らない人への階層を表しています。ビールに例えると、特定の商品を毎回買う人と、種類を気にしない人と、ビールを飲まない・商品を知らない人などの違い。

真ん中の図は、よく買うお客さんが全体の層の中での売上の80%を占めており費用対効果が最もよく、商品を買う人はイノベーター理論でいうところのアーリーアダプターに相当することを表しています。真ん中に位置する離反顧客とは、興味は持つけど定着しない可能性もある、いわゆるキャズムの境目に相当する人です。

右図には、そういった人たちに対して心と行動を動かす働きかけの施策が書かれています。上下の動きだけでなく消極的と積極的の区分を入れることで定着性の概念が加わります。

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こうまとめていると、まず左でN1をどの層に設定するかを決めて、その人がどういう位置付けであるかを把握して、何を働きかければ効果的か、がよくわかります。

デザインの取組みでは、その商品が好きそうなターゲット層に向けた提案をすることが多いと思います。でもそれで終わらせるのではなく、この図の関係を理解できていると、他の層との関係性で説明をしたり、どこから効果を出していくべきか、といった戦略的な施策が伝えられるようになります。

よく水と油のように対比されがちな、デザインとマーケティングの関係ですが、デザイナーがこのようなマーケティングの理解を持っておくと、デザインの提案がより具体的にビジネスでの説得性を持って伝えられる、そう考えると勉強しない手はない、そう思いませんか?

顧客起点マーケティング02

終わりに

本書ではさらにここから、数値に落としていって顧客獲得数の分析や予測を立てていって、事業戦略に落としていくことを紹介しています。今回の読書ではまだそこまでは学びきれなかったので(あと、そこまで書くとさすがにネタバレ的にもなるし)ここは仕事で実践の機会を見つけて身につけてみたいなと思っています。

今年はマーケティングからデザインを学ぶことが多い一年でした。

デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。