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真夜中のラブレターの罠(感情にまかせると後悔する):行動経済学とデザイン:36

一晩寝たあとに読み返してみたら恥ずかしくなってしまう、真夜中に自分が書いたラブレター。思春期の思い出だけでなく、仕事上のメールでも似た経験をしている人は多いはずです。

これを行動経済学の文脈でとらえると、感情と行動の不一致による機会損失であることが言及されています。前回に引き続きこちらの本の、第10章「短期的な感情がおよぼす長期的な影響」で述べられています。

不合理だからすべてがうまくいく

非合理だからすべてがうまくいく  行動経済学で人を動かす
ダン・アリエリー
早川書房 2011.10

悪感情は後悔のもと

感情と行動の不一致で代表的なのは、キレてしまったときの悪感情で発した言葉をあとで後悔してしまう状況です。仕事や恋人同士のケンカ、サービスに対するクレームなど、誰しも経験があると思います。

・じゃあ、もう辞めます → もう一度やりたいけど撤回できない
・絶対に許さない → そろそろ許してあげたい(この関係がつらい)
・宣戦布告する → 冷静に考えたらするべきじゃなかった

というように、一時的な感情で長期的な意思決定をしてしまうことで、望ましくない行動をしなくてはいけない影響を与えてしまいます。

最後通牒ゲーム

心理学などの実験でよく用いられる「最後通牒ゲーム」とは、お金を持っている送り手がお金をもっていない受け手にいくら渡すか、というルールで観察する実験です。

本書ではこの実験の応用として、お金を渡す前に感情を刺激したら結果がどう変わるかを調べた結果を紹介しています。全部で10ドルあるうち、あなたがもらえるのは2.5ドルで相手は7.5ドルもらえるとき、

・不愉快な映画を見た場合:提案を拒否する(だったらいらない)
・愉快な映画を見た場合:提案を受け入れる(ありがとう)

興味深いのは、まったく関係のない出来事でも行動を左右してしまうということです。つまり、ユーザーがいい気持ちのときでないと、どんなにいい商品やサービスであっても受け入れてもらえないということです。

デザイナーはよくジャーニーマップを用いてユーザーの行動を考えますが、ユーザーがいい気持ちになっている一番良いタイミングを見極め、一足飛びに解決しようとせず段階的にネガティブ→ポジティブの仕掛けを考える必要があります。

真夜中のラブレター03

自己ハーディング

ハーディング効果(群れたがる)については以前紹介しましたが、ネガティブな感情を引きずるという現象は、自分自身に対するハーディング=過去の自分の行動や思考に依存して決定を下すとも関係します。

例えば「そういや前に不快な思いをされてムカついたから、仕返ししてやれ」というような意思決定です。これはかなり時間が経っても続く(過去にとらわれやすい)ということです。

ちなみに特に男性に強いようです。男の方が嫉妬深いといわれるのはこういったことが原因なのかもしれません。

ハーディング効果についてはこちら

では、ここから応用例について考えてみます。

応用1. 決定を保留させる

単純な話ですが、相手がキレているときは意思決定させない仕掛けを入れることです。真夜中のラブレターやメールであれば夜に送れないよう、1日の間を空けたり、あとで読み返す仕組みを入れるなどです。

で、その間にいい体験を提供することです。

例えば何かのクレームがあったとしたら、そこで判断させるのではなく、代わりのサービスを提供して、何はともあれまずは楽しんでもらう。すると悪感情は薄まって、じきに提案を受け入れてもらえるはずです。

応用2. 感情軸と違う条件を出す

坂本龍馬は優れた商人(ビジネスパーソン)だったと言われています。薩長同盟を仲介したときにその有名なエピソードがあります。

もともと敵対関係にあった長州の桂小五郎は、薩摩との同盟は心情的に許せませんでした。そこで坂本龍馬は別軸で実利的な好条件を提示しました。同盟をすれば長州は薩摩から武器が手に入る、代わりに薩摩は長州から米をもらえる、それを亀山社中が仲介するという取引です。(※)

感情的なときに実利的条件を提示するのは、2つの良い点があります。

・冷静になれることができる
・自分に言い訳ができる

特に2つめの言い訳ができることの効果は大きいと思います。頑固な人の心を正面切って動かすことは難しいけど、もし心の奥では受け入れてもいいと思っていそうだったら別口のアプローチが効果的です。

真夜中のラブレター02

まとめとおまけ(歴史は面白い)

真夜中のラブレター(というより真夜中のクレーム)に対する対応策についてまとめてみました。

最後に(※)の内容について補足です。 史実はより複雑(時系列での立場関係やグラバー商会などの存在)で坂本龍馬に対する人物評は多説あることを理解しつつ、あえて分かりやすく書いてみました。薩長同盟のエピソードは以下を参照にしています。

こちらのPodcastはとても分かりやすく坂本龍馬のビジネスパーソンとしての一面を知ることができます。

こちらは、幕末の動きはお金が起因していた、というまさに行動経済学ともつながりの深い1冊です。

もちろん坂本龍馬についても、小説やドラマではなく、なるべく史実からわかることを参考にしました。

歴史は、人間同士の感情がぶつかりあって大きな出来事が起こること、その裏には経済的な事情や取引も大きく関わっていることから、行動経済学の観点からも多くの学びがあります。

デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。