NationalGeographic_メモ

雑誌から学ぶジャーナリスティックなリサーチ:NATIONAL GEOGRAPHIC 超監視時代(2018年4月号)

雑誌を読む割合はあまり多くはない方ですが、書籍だといまタイムリーに起きていることと時間差があるので、時流をつかむためにライフスタイル・テクノロジー・経済誌などには、なるべく目を通すようにしています。雑誌の中でNATIONAL GEOGRAPHICは個人的に大好きなので、ビジネスとの関わりも深い特集号のテーマをご紹介します。(この特集が一年以上前なのでぜんぜんタイムリーではないのですが...)

NATIONAL GEOGRAPHIC 2018年4月号 超監視時代
日経ナショナルジオグラフィック社

National Geographicというと、プロのカメラマンが撮った自然の写真を思い浮かべる人も多いかと思いますが、実は雑誌の特集テーマは実に多種多様です。ここで取り上げたような『監視社会』のような現代の都市に焦点を当てたものもあれば、人種・エネルギー・医療・環境問題など、流行の事象から普遍的な事象まで、幅広い社会テーマに対して写真を用いて構成されています。こういったスタンスで特集を取り上げる雑誌は他ではあまり見られないかと思います。

そして、今回紹介する号の特集の1つが『超監視時代』です。このテーマ、技術要素もあれば企業のビジネスにもつながる経済とも関わりがあるし、生活者の視点で考えればライフスタイルと強く関係性があるので、例えば経済誌のような特定のジャンルの雑誌では全体を包括することが難しい内容といえます。なのでジャンルの垣根を超越したNATIONAL GEOGRAPHICにふさわしいテーマともいえます。

監視社会の特集の構成は、都市・犯罪・貨物・顔認識など12の観点から、それぞれ象徴的な出来事とそれを表す写真、それを裏付けるデータや関係者の証言などを組み合わせて、事実を伝えています。最後の考察を除いてこの内容自体に執筆者であるジャーナリストの主観や思想は入っていませんが、読者が深く考えさせるような問題提起が各所に強く示されています。

例えば、ロンドンは世界有数の監視都市であることを取り上げ、テロ対策として街中の至る所に監視カメラのほか、銃撃の音声を聞き分けるセンサーなども設置されています。こういった監視は市民の安全につながるための取組みではありますが、個人情報や社会信用などとも強い関わりがあります。政府や大きな企業が情報を支配するような世界は、ジョージ・オーウェルの小説の1984年のような世界が到来することも想起させます。このように良い点と悪い点を同じテーブルの上に並べて読者に提示し、結論は読者にゆだねています。

この特集を読んで僕は、こんなリサーチができるようになりたい、ということを思いました。僕にとっての学びは4つあります。

1. 定性と定量の使い方

記事の中の主な内容は定性情報です。定性を軸にストーリーを組み立てて、定量は裏付の情報として構成しています。これによって受け手は共感をもって内容に興味を持ち、データでも示されているので説得力があります。調査報告書や論文との違いがここにあって、雑誌から学べるというのはうれしい発見でした。

2. 領域を横断する視点

1つのテーマに対して、化学・芸術・経済・政治・社会などを織り交ぜて考察する視点をNational Geographicから学ぶことができます。みんな何かしらどこかに偏った視点を持つ傾向があるので、定期購読することで、自分の偏りを自覚できそうです。

3. 客観的な事実での問いかけ

National Geographicの特集記事では、著者の思想や意見が強く出てくる印象はありません。あくまで客観的な事象を述べたうえで、見解は読者にゆだねるというスタイルです。ですが、問いかけている問題提起には強いメッセージがあり、印象に残ります。

4. 写真が発するメッセージ

強いメッセージ性を感じる理由の1つは、間違いなく写真です。これこそがNational Geographicの強みであり、伝え方の表現として学ぶべきことだと思いました。改めて写真が持つパワーに気づかされました。

これがジャーナリズムのアプローチなんだなと感心しました。どうしても企業の中でリサーチを行うときは、そのプロジェクトやテーマの性質によって、ポジティブ情報とネガティブ情報のバランスが偏ってしまうことがあります。例えば、課題解決の姿勢で取り組むとネガティブ情報に目が行きがちになります。でも本当に社会を深く捉えるためには、フラットな視点で見ていく必要があるのだと思います。

スタイルは人それぞれでしょうが、NATIONAL GEOGRAPHICの特集で執筆しているジャーナリストたちの記事は、どれも見習うべき内容だと思います。もちろん特集テーマ自体もとても興味深いものですが、リサーチという観点から雑誌を読み込んでみると、新しい気づきが得られるかもなので、気になる人はどんな特集があるのか調べるだけでも、おススメです。

デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。