任天堂_ゲーム機01

任天堂のUX研究・ゲーム機編:任天堂コンプリートガイド、他

任天堂の2回目はゲーム機に焦点をあててみます。ゲーム機はハードウェアですが、一時代を築いた三代目の山内社長は任天堂の会社が『ソフト体質』であることを非常に重視していました。いくつかの本を読んで、ハードウェアでもこの『ソフト体質』が任天堂の強さではと思います。

今回は、これまでの中でも人気となった4のゲーム機と、2017年に新しく出たSWITCHについて考察してみます。

任天堂コンプリードガイド コンピュータゲーム編
山崎功
主婦の友社 2019.03  ←出版社が意外!

ファミコン

1983年登場のファミコンがなぜ圧倒的に人気を得た家庭用ゲーム機であったのか、ここでは技術の視点から紹介します。

ファミコンは全体的な性能面では当時のPCに劣りますが、ゲームに特化した優れた点があります。それは"キャラクターや背景をスムーズに動かす処理技術に優れていた"ということです。

マリオやドラクエの様なキャラクタは『スプライト』という機能で表示されます。ファミコンはこれを負荷なく動かせるようなプログラムを組んだことで、素早い動きが必要なアクションゲームや、画面全体をグラフィックで表示しても負荷がかかりにくいRPGのようなゲームが生まれました。

また色や言葉も、限られた数の中で制約をかけることで、画面処理が遅くならず気持ちよく遊べる工夫をしています。色は決められたパターンを使うことで、統一性のあるビジュアルにもつながっています。言葉は使う文字を制限して、マリオでは英語表記で、ドラクエではカタカナは20文字までにしていました。ちなみにホイミやギラなどは20種の限られたカタカナの組み合わせから生まれた言葉(!)だそうです。制約はアイデアの宝庫。

もちろん十字キーのついたコントローラーや、ゲームソフトの品質管理、本体価格を安く設定したなど、成功要因を上げればキリはないですが、僕は遊ぶ人が気持ちよくプレイできるための仕様に特化した、という点が大きいのではないかと思います。

ファミコンについてはこの本が参考になりました。

ゲームボーイ

ファミコンから6年後の1989年にゲームボーイは誕生します。ハード機の開発を手がけたのはゲームの父・横井軍平。このポータブルのゲーム機には2つの独特の仕様があります。

まず1つめの特徴は"画面がモノクロ"です。当時でも小型でカラーの液晶はあったのに、任天堂はそれを選びません。理由は、カラーは電池の消費が激しく長時間遊べないこと、バックライトを使い表示させるので特に屋外では見えにくいことがあげられます。

ですがそれ以上に、横井軍平のゲーム哲学として「モノクロでもゲームの楽しさの本質は変わらない」という考え方があります。横井さんは当時このような発言をしています。

「私はいつも「試しに黒で雪だるまを描いてごらん」というんです。黒で描いても雪だるまは白く見えるんですね。りんごはちゃんとモノクロでも赤く見える。」

勇気を持ってこの考えを反映したのはすごいことです。

そしてもう1つの特徴が”超頑丈"であることです。ゲームボーイの筐体は子どもが全力で疾走した自転車から落としても平気になっています。実際に山内社長は実機をたたき落として確認したそうです。

当時、競合ではカラーのポータブル機も発売されていましたが、遊ぶ人のことを考え、ゲームの楽しさの本質を考えたゲームボーイが、結果としてみんなの心をつかんだ結果となりました。

横井さんの本に開発当時の状況が詳しく書かれています。

ニンテンドーDS

任天堂はスーパーファミコンの後、Play Stationとの対抗でスペック競争に陥り『ハード体質』になって失速してしまいました。DSはこの状況を打破して『ソフト体質』に戻った、という点で大事なゲーム機です。

DSの特徴は、これまでゲームと認識されていなかったことをゲームに取り入れたことです。代表例が『脳トレ』や『nintendogs』で、ゲームの得意不得意にかかわらず、誰でも楽しくプレイできるようになっています。

2画面で1つはタッチペンで入力できる方式を採用したことで、ゲームコントローラーに慣れていない人にも気軽に操作できますし、音声入力もできます。これはかつてゲームウォッチの2画面やファミコンのⅡコンのマイクにあった技術であり、横井さんの『枯れた技術の水平思考』が表れているといわれています。DSあたりから、性能を追求するのではなくゲームの捉え方を再定義した変化が伺えます。簡単にいうと、

おもしろい → これもゲームになる

といった視点がDSのキモだといえます。例えば脳内年齢を知ったり若返るのは、面白い→ゲームになれるのでは?という視点。始めは若者が興味を持って、そこから親に「お母さんの脳内年齢は?」と話しかけて中高年にも興味を持ってもらい、ゲーム層が広がりました。

DSはゲーム機も脳トレも、四代目の岩田社長が自ら関わっており、これを期に任天堂は新しい時代をつくっていきます。

wii

DSが普及したものの、当時の据え置き型のゲーム機はまだPlay Stationが優勢で、加えてX boxも参入している状況でした。そのため、機器がハイスペックになってゲームの内容も複雑化したことで、マニア向けのものが増えて、一般の人たちとの間に深い溝ができていました。

wiiはこの状況に対して2つのことを打破したゲーム機です。

1つはユーザー視点での"お母さん至上主義"といわれる考え方で、リビングに置いてもお母さんに嫌われないゲーム機を目指したことです。メカメカしい感じはなくしてDVDと並んで置いておけるような製品デザイン、慣れている人しか使えないコントローラーではなく、テレビのリモコンのようにして誰にでも直感的で使えるものにしました。

形だけではなく、家族みんなで集まって遊びたくなるゲームソフトや毎日の習慣につながるようなwiiチャンネルやwii Fitなども、リビングに置きたくなることにつながっています。

そしてもう1つはDSにもあった点ですが、開発者視点での"ソフト開発費の負担減"です。それまでのハイスペックなゲーム機は、開発の難易度が高く期間がかかるため本数が少なく高額化するため、ハードは売れてもソフトが売れない状況に陥っていたそうです。

岩田社長はこのように言っていました。

「我々は声が大きくてゲームをいっぱい買ってくれる人の姿をつい見てしまう。そこに合わせたモノづくりをどんどんした結果、ゲームをする人が減っているのではないか。」

開発しやすい環境で多くのゲームソフトが生まれて、それを多くの人が面白がって買ってくれる方がゲームの魅力が伝わるし、結果として市場としての成長にもつながります。

マニア受けではなく、ゲームを怖がらずに多くの人に楽しんでもらいたい、そのためには必ずしも高画質で複雑な動きは重要ではないことを証明したのがwiiです。

SWITCH

これまで過去のゲーム機をおさらいしてきましたが、新機種のSWITCHは、まだ市場の評価が定まっていないし、僕も正直よくわかっていません。

新しさとしてはこのような点があります。

・用途に応じて家でも外でも遊べる(据え置きとポータブルの両立)
・1人ででも画面を切り離して遊べる(こもらない)
・おすそ分けプレイ(複数人で気軽に遊べるポータブル機器)
・画面なしでも遊べるゲームがある
・ジョイコンの振動やカメラ機能の活用とnintendo Labo.の展開

おそらくswitchの競合はスマホでしょう。子どもが1人でスマホの画面を見続けずにリビングに移して遊べたり、外で友達と遊べるような仕様であることは、スマホとの違を意識したのではないかと思います。

特にジョイコンに多くの可能性があると考えます。『1・2・スイッチ』や『nintendo Labo.』のような、これまでのゲーム機ではできなかった遊びが生まれたのはSWITCHの優れた点です。でも振動の細かさやカメラを活かしたゲームは、まだ十分ではないように思えます。マリオランの様なスマホゲームはタップだけという究極なシンプル操作で、住み分けの鍵となるのが、このジョイコンにあるように思います。(9/25にマリオカートも出ますが、操作方法が気になります)

最近は娘とswitchで遊んでいるので(ゲーム機を持ったのは20年ぶり)、もう少し色々試して分析してみようと思います。

まとめ

任天堂は遊ぶ人が感じる面白さを起点に、高性能を追わないゲーム機を開発してきましたが、必ずしもシンプルでローテクなわけではく、新しい遊びにつながるような技術は積極的に取り入れています。

それは性能を追求するハード視点ではなく、何が新しい遊びにつながるかという『ソフト視点』を持つ会社であり、面白ければ新しい技術も枯れた技術も活用する姿勢だからこそ、長年に渡って新しいゲーム機を提供し続けられているのだと思います。

ネットで見られるSWITCHへの評価は、テクノロジーやマーケティングの視点で書かれたものが多く、それらは両方ともここであげたような任天堂の強さを見ていないと思います。大事なのは、遊ぶ人の体験価値と何が面白いのか、ということに気づくことだと考えます。

次回はゲームソフト編ですが、今回紹介したゲーム機とソフトは密接な関係があるので、それを踏まえたうえでまたご紹介したいと思います。

デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。