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ナッジ3.仕掛学(思わずやっちゃう):行動経済学とデザイン43

行動経済学は学問だからか、研究では前回紹介したデフォルト設定が政策などで使われる例が多いけど、デザイナーとしては工夫をして、ナッジを働きかけたいものです。

そのうえでは、この本が色々と参考になります。

仕掛学

仕掛学 人を動かすアイデアのつくり方
松村真宏
東洋経済新報社 2016.10

仕掛学とは

本書の中ではナッジと仕掛学の関係を、つぎのように整理しています。

・ナッジ:デフォルトの選択肢(考えずに選ばれるいつもの行動)
・仕掛学:オルタナティブな選択肢(つい選びたくなる行動)

ナッジは必ずしもデフォルトだけではないけど、仕掛学は、よりユーザーに選択肢があって、使わなくてもいいんだけど、ついやってしまう性質を持っています。

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代表例は男性用トイレのハエ(思わず狙いたくなる→結果的に周囲が汚れにくくなる)です。いまだナッジというと、この例が一番に出ることからも、アイデアによる可能性は無限大です。

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仕掛学の実例ではこんなものがあります。

・不法投棄を抑制する鳥居の設置(倫理観に訴える)
・ピアノに見立てた階段(音を鳴らすように踏みたくなる)
・順番通りにならべたくなる本の背表紙(マンガでよくある)
・三角のトイレットペーパー(ガタガタするので消費量が抑えられる)

仕掛けが機能するには細かい配慮が欠かせません。例えばSocial Distanceの立ち位置を手書きの紙で貼ると、人は踏むのは悪いし汚れると思って、上に立たないのだそうです。理論だけでなくちゃんとデザインで現場に落とし込むディテールが大事。これはデザイナーにとって腕の見せ所。

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二重の目的が鍵

仕掛けの定義では次の3つ『FAD要員』をあげています。

・Fareness(公平性)誰も不利益を被らない
・Attractiveness(誘引性)行動が誘われる
・Double of Purposes(目的の二重性)提供者と利用者の目的が異なる

特に最後の『目的の二重性』が面白いです。確かに、有名なトイレのハエにしても、提供者は衛生的に使ってもらいたくて、利用者は当てる楽しさがある、という、異なる二重の目的が成立しています。

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仕掛学の長所と短所

ナッジ全体にも言えることですが、仕掛学の長所はあまりお金をかけなくても大きな効果が得られる可能性があることです。トイレのハエはシール1枚で済むので、素材開発や掃除代よりも安上がりで綺麗になります。ここもアイデア次第です。

一方で短所は、いずれ飽きてしまうことです。どんな面白いものでも繰り返していれば魅力を感じなくなります。なので仕掛学は偶然の出会いや1回の体験により適しているといえます。

仕掛けの構成要素

仕掛学はまず、①目の前に物理的なトリガーがあり、②それによってユーザーが心理的なトリガーを引き起こし、③その結果が行動につながる、という流れで構成されています。それぞれについて見ていくと

①物理的トリガー

・フィードバック:聴覚、触覚、嗅覚、味覚、視覚
・フィードフォワード:アナロジー、アフォーダンス

②心理的トリガー

・個人的文脈:挑戦、不協和、ネガ/ポジの期待、報酬、自己承認
・社会的文脈:被視感、社会規範、社会的証明

③には、これまでの行動経済学に出てきた言葉がたくさんならびます。過去の記事を読んでみると、それぞれの活用方法がわかるはずです。(1年間勉強してきてよかったな〜)

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仕掛けをつくる発想方法

さて、どうやってこの仕掛学を実践するか。著者は大きく2つのことをお勧めしています。

・子どもやユーザーの行動を観察する
・事例や類似性を転用する

子どもに着目する、は納得です。大人よりも子どもは、面白いと感じるものには素直に飛びついて反応します。特に遊びに関わるものからは多く学べるような気がします。頭でっかちにならずに、イノセントな気持ちを大事にするために日々心がけたいものです。

また、それ以前に、単純に効果・効率やスペックの視点で解決しようとすると、「つい選びたくなる」という仕掛学の発想は生まれないので、柔軟なアイデアを考えるうえでは全てに共通する発想方法だといえます。

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まとめ

以上、仕掛学についてまとめてみました。

デザインに長く携わっている人は、もしかすると深澤直人さんのWITHOUT THOUGHTや、IDEOの考えなしの行動、ノーマンの誰のためのデザインを連想したかもしれません。

「思わず〜してしまう」をユーザーにはたらきかけるのは、簡単ではありません。だからこそデザイナーが活躍できる場面は多くあると思います。

不満や課題が見つかると、つい解消することに目を向けがちですが、マイナスをゼロにするだけではなく、創造的にユーザーの体験価値を高めるためには、仕掛学のようなユニークさが求められると思います。


デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。