フレーミング効果(ものはいいよう):行動経済学とデザイン29
マンションポエム、好きですか?
マンションのチラシに書いてある「杜に住まう」とか「邸宅を臨む」とかのキャッチコピーです。こんな言葉を見たことはありませんか?(チラシなかったので雑に描いてみた)
最終章(グランドフィナーレ)!
建物に章とかフィナーレとかのポエム感たまりませんが、これはフレーミング効果の1種です。昨年、大ヒットとなったFACTFULLNESSには、フレーミング効果に関係する内容も書かれています。
FACTFULLNESS
ハンス・ロスリング(著)ほか、上杉周作、関美和(訳)
日経BP社 2019.01
例えば右下の図では、キューバが「貧乏人のなかで一番健康な国」なのか「健康な人のなかで一番貧乏な国」なのか、線の引き方を変えるだけで感じ方がガラッと変わることを示しています。詳しくはこちら。
簡単にいうとフレーミング効果とは「ものはいいよう」ですが、もう少しちゃんと理解するために、行動経済学の本の内容を見ていきます。
行動経済学の使い方
大竹文雄
岩波新書 2019.09
言い方で意思決定が変わる
同じ内容でも数字の起点をどっちに持ってくるかによって、印象は大きく変わります。本書では次のような例が紹介されています。
医療者に下の質問をしたところ結果は次のようになりました。
a. 術後1ヶ月の成功率は90%です → 80%が手術すると回答
b. 術後1ヶ月の死亡率は10%です → 50%が手術すると回答
別の例では
a. テストの成績が前回より上がれば2000円渡す
b. 2000円渡すけど前回より成績が下がれば返してもらう
どちらも同じことですが、圧倒的にaのほうが反応はよくなるそうです。
このように、同じ内容であっても表現方法が異なるだけで、人々の意思決定が異なることをフレーミング効果と呼びます。
なので、冒頭に紹介したマンションの「最終章」も、残っている部屋を売るための謳い文句ですが、それをポジティブな言葉に置き換えることで、今が買い時(現に安いのだから間違いではない)と思わせる効果があります。
でも解釈のねじまげはダメ
一方、テレビや株主総会などで、印象操作でグラフの間違った使い方を意図的に表現している例が見られます。
視覚で誤認識を誘導させてしまうので、ビジュアルに関わるデザイナーにも大きな責任はあります。
たまにこういったことを無邪気に悪気なくやってしまう人に出会います。絵的によく見せるためだけに客観性をなくした表現をする人もいます。(なので専門分野の人が見ると「は?」となる)これらはデザイナーが悪事への加担につながるので注意したいところです。
では応用についてまとめてみます。
応用1. プロスペクト理論との併用
フレーミング効果は単体だけでなく、他のテクニックと組み合わせることで効果がさらに高まります。
例えば、利益よりも損失を回避するプロスペクト理論が関わることによって、リスク回避に意識を向けることができます。
マンション販売の例だと「最終章・残り5部屋」といったメッセージを出すと、このタイミングを逃すともう手に入らない、という「あと少し」のフレーミングが働きます。でも言い方を変えて、3/4は決まったとか、あと25%、だとまだ大丈夫かなと思ってしまいます。
応用2. アンカリング効果との併用
先に出た数字の影響を受けるアンカリング効果と組み合わせることで、フレーミングの効果を強調させることができます。
マンション販売の例でいえば、当初の販売価格から300万円値下げされていたら「お得」のフレーミングがはたらき購買意欲をそそられます。スーパーのチラシなどでもよく見られますが、値下げしている方がお得に感じます。
・4200万円 → 4200万円(もとからリーズナブルな価格)
・4500万円 → 4200万円(300万円値下げ)
もちろん使い方によっては悪徳商法になりかねないことを意識しましょう。このマンガ、とてもわかりやすいので見てみてください。
・・・・・
まとめ
フレーミング効果は、1つの事実を表現の仕方で受けての印象を変えることができるテクニックですが、グラフの印象操作や悪徳商法などの悪い活用例もたくさんあるので、倫理観が必要です。
僕が考えるフレーミング効果のよい使い方は、物事をポジティブに捉えることだと思います。これはよくあるたとえですが、
a. コップにもう半分しか水が残っていない
b. コップにまだ半分も水が残っている
ポジティブに捉えることで社会がよい方向にはたらく、それが最もいいカタチで表れている例の1つは、やっぱり冒頭に紹介した「マンションポエム」なのかなと思ったりします。
というわけで最後にマンションポエムの記事はっておきます。
デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。