デジタルでなくても大企業でD2Cを実践:カルビーお客様相談室
ファンベースの事例によく紹介される会社にカルビーがあります。近年のカルビーは "かっぱえびせん" や "ポテトチップス" だけでなく、フルグラなど新しい商品に新しいファンがつき、企業イメージが刷新されています。
お店で売られているものだけをみるとわかりにくいですが、カルビーの人気を支える1つの強みに、お客様相談室があげられます。本書はその仕組みが書かれており、多くのことが学べます。
カルビーお客様相談室 クレーム客をファンに変える仕組み
カルビーお客様相談室(著)
日本実業出版社 2017. 10
一見、ファンづくりとは対極にあるような部門のお客様相談室ですが、仕組みがあればそれができるというころを3点ほどに要約します。
1. 『お客様第一』を徹底している
再購入率が高く愛されているカルビーは『お客様第一』を掲げていますが、顧客第一はどの企業でもスローガンにしています。
ただしカルビーが他の企業と違うのは、概念だけでなく具体的な取り組みに落とし込んで、それを徹底していることです。
例えば、企業理念には重要視する関係者を優先順位で並べていたり、お客様との対応では、どんな内容であってもまずはしっかりお詫びして真摯に指摘内容に最後まで取り組む、といったことが定められています。お客様対応は社内で研修が組まれており、上役であっても必ず体験するようです。
この取組みを一部門にせず経営方針として掲げていることで、部門間の押し付けにならず会社全体で対応する姿勢に変わります。方針と責任はトップダウンで行うことの大切さが分かります。
2. 言葉を定義して仕事の視点を変えている
言葉1つで捉え方は大きく変わることにカルビーは着目して、お客様第一の考えを体現するように言葉を選んでいます。例えば、
・クレーム処理 → ご指摘対応(不満の解消ではなく満足感を提供)
・オペレーター → コミュニケーター(対処ではなく真意を聞く仕事)
というように、ネガティブをポジティブに、受動を能動に、コスト部門を価値創出部門に切り替えています。相談室の仕事を経営資源に活用するという姿勢は、中で働く人の気持ちも切り替わるものと思われます。
3. シンプルなルールを徹底している
上の2点は概念的なことでしたが、これを実行するには仕組みが欠かせません。本書の一番の読みどころはここだと思っていますが、お客様のご指摘にカルビーは次のように対応しています
1. お客様 → 相談室:詳しく状況を伺う
2. 相談室 → 地域相談室:ご指摘のカルテを共有する(15分以内)
3. 地域相談室 → 工場品質保証室:お客様を訪問する(2時間以内)
4. 工場品質保証室 → お客様:検証内容を細かく報告する(2週間以内)
すごいのは、時間を設定しているところ、それも素早くて例外はありません。この仕組みの分かりやすさには衝撃を受けました。
そして、この仕組みをよく見ると、常にお客様本位であることが分かります。時間もお客様に忘れられているように思われないための対応であり、その内容もとても誠実で人と人のコミュニケーションを重視しています。
D2C
前にD2C(Direct to Customer)のことについて紹介しましたが、一般的にはD2Cとは、デジタルの活用によって、より多くのお客様と接しながらも、お客様との距離を近づけるスタートアップのサービスに多く見られます。
でもカルビーは大企業であり、お客様との接点では特にデジタルを使ってません。(ただし、SNSを使って交流をつくったり、ファンのお客様が他の人に商品特性を説明してくれる、といったようなファンベースにおいて、デジタルはかなり積極的に活用されています)
カルビーは食品を扱っている大企業なので、窓口をデジタルだけにはできない幅広いお客様がいるし、経年劣化しやすい商品という性質がありますが、地域の相談所が物理的にお客様を訪問して商品を受け取りお話しを聞き、工場は丁寧な検査とレポートを行ってお客様に説明することで、お客様とのダイレクトな関係性ができてます。そしてさらにそこでの気づきから品質を高めたり新商品を開発することで、ファンが増えていくという循環ができています。
ここに大企業ならではのD2Cの特徴があると考えます。必ずしもデジタルでなくてもお客様を第一に考えればその企業なりの方法はある、ということを教えてくれる会社の取組みです。
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僕はコールセンターや商品の裏側の仕組みにはあまり関わってこなかったので、正直これまで興味はあまりなかったのですが、この本を読んで、どんな分野にもUXの視点で価値を高められることを学びました。
この分野は、ビジュアルをメインに扱ってきたデザイナーにとっては接点が少ない領域なので、だからこそビジネスの分野をよく知り、商品やサービスを使うユーザーを起点とした経営戦略につなげるためのデザインに可能性を感じています。
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デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。