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デザイン3.0に向けて

人工知能や3Dプリンターに代表される新しい技術が発展しデザインが民主化されている。複雑な状況をデザイナーやエンジニアなどの作り手だけでは対処することがむずかしくなりユーザーとの共創が必要になっている。個人個人のパーソナルな価値に対応することが求められる時代になってきている。

このような背景より、これからデザインについての検討がされている。「デザイン3.0」とは、これからの時代のデザインの定義であり、これからのデザインを考えるヒントになる。デザイン3.0の代表的な定義は、リ・クンピョ(Kun Pyo Lee, 2015)によるデザイン3.0の定義[1]と山岡俊樹(山岡俊樹,2018)の定義がある[2]。どちらの定義もデザイン2.0がこれまでのHCDやUXデザインに近いの定義であり、デザイン3.0がこれからのデザインの定義の参考になる。

リ・クンピョの定義


リ・クンピョは、「デザイン1.0」は人間の身体性を考慮した伝統的なデザインとしている。「デザイン2.0」は人間の認知を重視した、インタラクションデザイン、ユーザーエクスペリエンスや人間中心のデザインである。「デザイン3.0」は、デザイン2.0から3.0へのシフトは、クラウドソーシングとオープン化を契機にもたらされた。モノ作り、アイデア作り、インタラクション(相互作用)デザインなどが、技術革新により「民主化」したのである。3Dプリントの恩恵で誰でも簡単にモノ作りができ、オープンソースでアイデアを分かち合える。もはやデザインは専門家だけのものではない[1]。

「デザイン3.0」では社会的関係、感性、文化の調和を重視する。アウトプットは「製品」ではなく「エコシステム」や「プラットフォーム」である。そのプラットフォームを活用して、ユーザーは自分が欲しいオリジナルの製品を仕上げる。ここでのデザイナーの役割は製品を完成させることではなく、ユーザーがクリエイティビティを発揮できるよう手助けすることである。

デザイン3.0を考えるためにOPEN、BIG、DEEPの三つをキーワードとしている。OPENは世間一般の人々を交えてデザインするオープンデザインの手法のことを指している。例えば、ユーザーが使いやすいようにオープンな製品情報を使って製品をモディファイすることである。BIGはビッグデータの活用である。過去のデザインはユーザーの行動観察を重視したが、今やユーザーはSNSを通じて自分の生活を詳らかにしている。その膨大なデータをデザインに活用することである。DEEPは、デザイン課題を解決するために、人間のニーズや欲求の奥深くを読みとり、充足させることである。

山岡俊樹の定義


山岡は、「デザイン1.0」を機能中心のデザインと定義し、合理化や効率化のためのデザインとしている[2]。「デザイン2.0」は 人間中心のデザインと定義し、こちらも合理化や効率化のためのデザインとしている。そして、「デザイン3.0」は 価値中心のデザインと定義し、心の和みのある、あたたかいデザインとしている。

また、「デザイン1.0」や「デザイン2.0」は合理的で効率化のための冷たいデザインと定義して、「デザイン3.0を温かいデザインとして、「サービスデザインやソーシャルデザインなどは、形状・イメージ構築のみウエイトを置くのではなく、人々と社会との温かいコミュニケーション、それによる感動、心の和み、というベクトルに力点を置いているデザイン」としている。また、両者を識別する方法として「冷たいデザインは心理的距離が遠く、温かいデザインの場合は近いと識別することができる。」としている。

デザイン3.0の定義に向けて


ここでは、リ・クンピョの定義と山岡の定義を参考にしながら、デザイン3.0とこれからのデザインについて整理する。山﨑は「デザイン1.0」は モノ中心の身体的なデザイン、「デザイン2.0 」は人間中心の認知的なデザイン、「デザイン3.0 」は三方よしの社会中心とする共創のデザインと定義する。この中で大事なのは「デザイン3.0 」をどのようにとらえるかであるかである。

「デザイン1.0」は モノ中心の身体的なデザインである。そのデザイン対象は、家具、建築、自動車、家電、文房具、ファッションなどがある。技術視点では、ハードウェアの技術、機械技術、電気電子技術、生産技術などの活用がある。デザインのアプローチとしては、プロダクトデザイン、グラフィックデザイン、インテリアデザインなどがある。

「デザイン2.0 」は人間中心の認知的なデザインである。そのデザイン対象は、ソフトウェア、アプリケーション、情報機器など情報技術を活用した製品やサービスがある。技術視点では、コンピューター、ネットワーク、ITなどの技術の活用がある。デザインのアプローチとしては、HCDを中心としながら、ヒューマンインタフェースデザイン、インタラクションデザインなどがある。

「デザイン3.0 」は人と人の関係や、人と人間以外の物を中心とする共創のデザインである。デザイン対象は、プラットフォーム、コミュニティ、地域や都市、社会課題、地球環境、組織、ビジョンなどである。技術視点では、人工知能、3Dプリンター、ネットワークなどの最新技術を活用がある。デザインアプローチとしては、まだ定まったアプローチはないが、共創デザイン、ソーシャルデザイン、サーキュラーデザイン、ビジョンデザイン、スペキュラティヴデザイン、近接のデザインなどの活用が考えられる。これからのHCDはこのデザイン3.0を考慮しながら、HCDの拡張や発展が望まれる。

デザイン3.0の定義(山﨑,2024)

デザイン3.0時代の学び

「デザイン1.0」の教育は、これまでのデザイン教育の学科名に象徴されるようにデザイン対象とする「モノ」を対象として、多様なモノを理解するためにそれぞれの「モノ」を対象としている。例えば、大学の学科名やコース名は、グラフィックデザイン/ビジュアルデザイン、工業デザイン/プロダクトデザイン、建築/空間デザイン/インテリアデザイン、映像デザインなどである。

「デザイン2.0」の教育は、情報デザインやインタフェースデザインという名称で人間中心のデザインを教育に取り入れている。またデザイン学科だけでなく情報工学系の学科でも人間中心のデザインの教育を取り込んでいる場合も多い。また、認知科学/心理学などの学科や経済学部でも人間中心のデザインの教育を取り込んでいる場合もある。

「デザイン3.0」の教育は、それぞれの教育機関で多様に取り組み始めている。デザイン系では、武蔵野美術大学のクリエイティブイノベーション学科、女子美術大学のの共創デザイン学科、東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科などもあるが、工学系学科でもデジタル技術を活用しながらデザインアプローチをしている教育もある。

僕が担当しているXデザイン学校のカリキュラムではデザインカリキュラムでいつも迷っているのは現在のデザイン2.0の学びを中心にしながらも、次世代デザイン3.0と基本となるデザイン1.0の学びをどの程度組み合わせるかです。
実際はその時の受講者の期待やリアクションを考慮しながら、プログラムを進めながらバランスを調整しています。ただ、この三つのデザインを学ぶには3年は必要だと思っていますので、Xデザイン学校は3年間の学びを推奨していますデザイン2.0を中心にしながらも、次世代デザイン3.0と基本となるデザイン1.0の学びをどの程度組み合わせている。

[1] 世界有数のデザインスクールが見据えるデザイン3.0の未来:https://www.worksight.jp/issues/612.html
[2] 山岡 俊樹、「デザイン3.0の教科書: 誰もがデザインする時代」海文堂、2018

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