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S’ACCAPAUの新シェフ、吉沢悠椰インタビュー

西麻布のクリエイティブ・イタリアン「S’ACCAPAU(サッカパウ)」のエグゼクティブシェフの田淵拓が日本を離れた後、新しいシェフとして迎え入れられたのは、吉沢悠椰(よしざわゆうや)。

若干31歳という若さは、何をもたらすのか。どんな風が吹くのか。彼にとっての「クリエイティブ」とは、いったいなんなのか。そのバックグラウンドとともに、紐解いていこう。


吉沢の料理人としてのスタートは、石川県・能登のイタリアン「Villa della Pace」。その前は、金沢の酒蔵で働いていたという。

「酒造りは、米と麹と水というシンプルな原料から、さまざまな工程を踏んで、人の手が加わって製品になる。そこでいろんなアプローチを試しながら、物事を組み立てていくのが楽しくて。これを料理に活かすことができたら、面白いだろうなと思ったんです」

その「試しながら組み立てていく」スタイルは、「Villa della Pace」でもそのまま発揮され、後の吉沢らしさにもつながっていく。

実直に地元・能登の食材を使う。時には山へ入り、採った野草や山菜の特徴をとらまえながらその場で調理し、コースに組み込むこともあったという。

「普通のレストランだったら、シェフの言うことが一番で、その通りにしないといけない、というのがあると思うんですけど、ここは30代のまだ若い方だったので、逆に自由にいろんな発想で、一緒になって考えられた。たとえば根曲がり竹だったらそのままボイルするだけじゃなくて、何か違うことができないか、もっとおいしくできないか。ずっと2人でトライ・アンド・エラーを繰り返してましたね」

こうしなきゃいけない、という正解はない。若さゆえの探究心と好奇心をフルに活かし、とにかくいろいろな方法で試してみる。そうするとだんだんと身をもってわかってくることがある。

「ずっと考えていたのは、地方を訪れる人たちが求めるものってなんなのかということ。空気感であったり、そこでしか食べられないものであったり。田舎らしい素材を、レストランで出せるものに変換すること。山菜以外にも、たとえば杉や松、樺といった木とか、咲いてる花を使って新しいフレーバーを作ったりもしました。ただそれはどこにもレシピがないので、一緒に見つけていきながら、幅を広げていったんです」



希少な食材より、地球のためになる食材を。

それらの積まれた経験や知見は、素材が近くにある地方のレストランだったからこそ。そして今、そこから東京の真ん中に主戦場を移したことで、そのポテンシャルは発揮できるのだろうか。

「僕は、逆にチャンスだと思っていて」

と吉沢シェフの目が光る。

「人気の野草ってやっぱり数に限りがあって、たとえば野生のセリとかを根っこから採ってしまうとその後に生えなくなって、どんどん資源が枯渇していくんです。その一方で、日本に増えすぎてしまった植物もある。たとえばちょっと酸っぱいイタドリっていう特定外来植物があるんですけど、いわゆる排除されるべき野草なので、そういうのを積極的に使ったり。野菜もそう。カブはおいしい時期って1週間くらいしかなくて、ピークを過ぎてしまうと筋が入って硬くなって、生では食べれないんです。だけどけっこう果汁はあるので絞ってソースにしたり」

ただ希少な食材を求め、ことさら有り難がるのではなく。マイナーであっても、地球にとっていい食材を、創意工夫を凝らしながら積極的に活用する。

これこそが、彼なりの「クリエイティブ」の解釈なのだ。

「東京のレストランって、地方に行って美味しいものをピックアップして送ってもらうというのはよくあると思うんですけど、僕はさらにその先を行かないとだめだと思っていて。農家さんと料理人でパートナーシップを組んで、一緒に作物を育てていく。そんな関係性が築けたらいいなと思っています」

アートで持ち前の美意識を培う。

さらに、最年少最速でミシュラン二つ星を獲得した砂山利治シェフのもとで1年ほど働いた経験も、彼にとってキャリアの後押しとなった。

「砂山シェフと美術館に一緒に何かの展示を見に行った時に、板を何枚も貼り付けて波模様になった、すごい形をしたモニュメントがあって。『これいいですね』って話をしていたら、そのあとシェフがズッキーニを使って、それと同じようなフォルムの付け合わせを作ってたんです。ああ、確かにこういう発想ってあるんだなと」

それから意識的に美術作品を見るなど、インプットに時間をかけようという思考になった。

「もともと僕は小さい頃からけっこう美術館に行ってました。母親が広告のデザイナーをやっていたこともあって、色彩の本とかも家にあったんですよね。その影響で、ファッションや家具にも興味があったり。キャンプとか外遊び、あと釣りも趣味なので、なるべく自然の美しさ、そのフォルムを料理に落とし込みたいなと思っています」

こうした持ち前の美意識やセンスは、とくにこれからが発揮のしどころ。

「そうですね。見せ方や盛り付けは、S’ACCAPAUらしく。地方のレストランですと、ちょっと野暮ったい方がその土地らしさが伝わることもあるんですけど、ここは場所柄もあって、雰囲気作りというか、グルーヴ感みたいなものを大事にしたいなと思います。自分の経験値プラス、芯にある考え方をスタッフとも共有して、それに沿った料理ができるように。シェフが変わるたびに続けていければ、店としてもひとつの価値になるんじゃないかなと思ってます」



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