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No.19 『ガラスの海を渡る舟』寺地はるなさんが描くメッセージ性がすげえ

この物語を一言で表すのなら、「みんなちがってみんないい」だ。
どうもこんにちは、でらです。「読書の秋」というフェアが現在noteで行われていて、当初はあまり乗り気じゃなかった。しかしこれに応募することで一人でも多くの方の目に留まるのではないか!?という少々不純な動機から、私はこの本を読んだ次第である。

結論から言うと、まーーじで面白かった。表紙の美麗なカバーイラストやキャラクターの魅力、物語の展開、どれをとってもかなり楽しんで読むことが出来た作品だと思う。

その中でも特に、「個性」というテーマが強く作品に表れており、これ抜きで今作を語ることは出来ない。
今回は個性というテーマを中心として、いくつか感じたことを自由に書いていこうと思う。

なお、ネタバレはできるだけ控えようと思いますが、たまにポロリします。ご了承ください。


羽衣子と道

今作は妹・羽衣子(ういこ)と兄・道(みち)の二人の視点が入れ替わりつつ話が進んでいく。
羽衣子はなんでもそつなくこなせるオールマイティタイプ。道は骨壺を作るセンスはずば抜けているけれど人との接し方が分からず、断定こそされていないが発達障害を持っている。そんな二人はお互いにそりが合わず、実質的に祖父の後を継ぐことが決まってからもすれ違いが続いていた。

羽衣子は「自分が道より劣っている」という劣等感を絶えず道に対して抱いていて、道に対しても、また自分に対しても素直になれずにいた。

日ごろ手のかかる兄の方ばかり見ている母が、その日(ケーキを買いに行く日)だけは自分を見てくれるはずだと信じていた。

客観的に見ればどちらも愛されているんだろうなというのは分かるけど、いざ自分が体験するとなると話は変わってくる。
私は兄弟がいないため、兄弟間での優劣とかは想像するしかない。けど、似ているものとしては学校が挙げられそうだなと思う。

教室でも部活でも、学校という場所はシステム上優劣が付けられることになる。学校では勉強が出来て先生の言うことをよく聞く、今回で言うと羽衣子のような人に ”お利口さん” という優の印をつけられる一方、道のような、協調性に若干の難があり、個性的な子に対しては ”扱いが難しい子” というレッテルが貼られる。

しかし本作の舞台は学校ではなくガラス工房。多少難があっても非凡な才を持つ道に客が付くほど、羽衣子の焦りは彼女自身を苦しめていく。

じゃあ羽衣子ばかりが悩んでいる物語なのかというとそうでもなくて、道には彼なりの悩みがある。
軽度の発達障害を持つ彼は、人の気持ちを慮ることが苦手。そんな二人の関係性は今作の大きな魅力だろう。


寺地はるなからのメッセージ

この兄弟、特に道は主に人との関わりにおいて苦労してきた。そんな時に道が祖父からいくつかの言葉を受けていた。今回はそれらを紹介しようと思う。

 ①「ひとりひとり違うという状態こそが『ふつう』なんや。『みんな同じ』の方が不自然なんや。」

 ②「道、お前が自分以外のことが分からんように、その人たちもお前たちのことが分からへん。お前の困難を理解できへん。それはその人たちにとってはぜんぶ難なくできることやからな。自分が簡単に出来ることを簡単にできない人がいる、と想像するのは難しいことや」

 ③「他人のいいところを認めるより、批判したり揚げ足取ったりする方が、ずっと簡単やな。優位に立ったような気分になれるけど、実際はその場にとどまったまんまや。」

いやもう全部刺さりまくり。名言メーカーなんよ。
他人はあくまで他人。自分ではない。1+1=2くらい当たり前の事なんだけど、これを本質的なところで理解して実行している方が周りにどれくらいいるんだろうか。

私はこれらの言葉を、著者である寺地はるなさんからのメッセージなのではないかと感じた。


相手の状況をよく知りもしないのに罵ったり馬鹿にしたりする人。それほどでなくても友達になにかを強制させたり、自分の思想を相手に押し付けたり。
私は①の言葉を読んで、周りと違うことは悪いことではないことや、ひとりひとり違っていいのだという当たり前のことに気づかされた。

②の文章も面白い。「なんでそんなこともできないの!?」と糾弾する会社の上司とか(全国の上司の方々すいません)に向けて言ってやりたい台詞。羽衣子にとっては人とのコミュニケーションや恋愛が簡単でも、道にとってはそうではない。相手が得意なことは褒める。そのうえで苦手そうだなということは非を認めさせたり責任を押し付けるのではなくて、一緒に考えていくくらいの気持ちで関係を深めていくのが大切だと感じた。

③に至ってはTwitterなどのSNSを見ていると嫌と言うほど感じる。ネットに存在する人全員ではないんだけど、負の感情を他人の投稿に連ねる人って結構多くいるような気がする。確かに心に余裕のない人たちって人のいいところを素直に認められなかったりするよね。自分も昔を思い返してみればそんな感じだった気もするし。

今作の状況自体は少し違うんだけど、私はこれら①~③の言葉は寺地はるなさんが昨今の社会に向けて発したメッセージなんだろうなと解釈した。

感想とか

あんまり内容の深いところやネタバレは避けたつもり。もちろん彼らの関係性は好きだし、他にも個人的に好きなシーンは色々ある。
私が特に好きなシーンはやっぱり最後のシーンかな。詳しくは語らないけど、羽衣子も成長したんだなって思いました。
あとはタイトルの付け方も好きでした。ガラスは出来るまでその色や形を完璧に把握することが出来なくて、道がそれを「ガラスの舟を渡るような気持ち」と言っていた場面はとても素敵な表現だなと感じました。


というわけで今回は寺地はるなさんの新刊を読んで感想を述べさせて頂いた。これを読んで興味が湧いた方は是非、この作品を読んで著者からのメッセージを受け取ってほしいと思います。ではこの辺で。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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