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No20. 『モンスター』色んな意味で狂っていて面白かった

これは、「美」を渇望していた女がそれを手にし、狂っていく物語。いや、彼女は最初から狂っていたのかもしれない。そんなお話。

どうもこんにちは、でらです。前回と同じく私のTwitterのフォロワーさん兼ファンの方からお勧めしていただいた作品について紹介していこうと思う。
「モンスター」というタイトルだが、この話に怪物は登場しない。では一体モンスターとは何なのか?そしてこの作品のテーマや魅力は何なのか?

というような事を書いていけたらいいなーとは思う。なお、私は一回読んだだけなので、もしかしたら読み落としている部分、又は解釈違いがあると思う。まあそれは読む人の受け取り方ってことで勘弁してもらいたい。
ちなみに今回は物語の起承転結を意識して書いてみた。主人公の自伝みたいなところもあるから、割とまとめやすかったのもある。

あと、大いにネタバレを含んでいるので、嫌な方は是非読んでからこれを見てね!!

起・モンスター

町で一番美しい女。そう言われているのは主人公・未帆。田舎町でレストランを経営している彼女の美貌はその店の従業員だけではなく客、さらにはその田舎町を超えて噂になるほど。

しかしそんな彼女には大きな秘密があった。
それは、彼女は畸形(きけい)とも呼ばれる顔を持っていたということだ。
ちなみに多分だけど、奇形とおんなじ漢字で合ってます。畸形で検索すると結構エグイ画像が出てくるから、そういうのが苦手な方は検索しない方がいいかも。自分は真夜中に検索してかなり後悔した。こんちくしょう。

彼女は小さい頃からその顔のせいでいじめられ、蔑まれ貶められてきた。そんな彼女のただ一つの希望は、幼い頃の記憶だ。
それは彼女が4歳くらいの頃。英介という男の子が迷子になった自分を助けてくれたという記憶。
高校になって偶然英介と再会してから彼に対する異常なまでの憧れ、恋心は留まることを知らなかった。しかし彼女は今のままでは彼に振り向いてすらもらえないことも同時に分かっていた。

では彼女はどうしたか。彼女は
「英介の目が見えなくなったら他人の顔なんて関係ないのでは?」という結論に至る。
もうここから彼女の異常なまでの彼に対する執着心が見える。ここは割となんでもないようなことのように書かれているんだけど、それがかえって彼女の異常さや狂気を浮き彫りにさせる。
彼女の実家が薬局であることが幸いし、彼女はどうにか英介にメチルアルコールを飲ませることに成功する。しかしそれがバレないはずもなく、彼女は学校一のイケメンを失明させようとした罪に問われ起訴猶予に。
それがきっかけというが追い打ちになって彼女には「モンスター」という名前が付けられることになった。

なんていうか、、、ここまでですら相当報われない話だなとは思った。誰が悪いかと考えたらいじめた側なんだけど、子供、つまり小学生とかって意味だけど、彼らは純粋で善悪の判断が付きづらいんだよね。それらは無意識に行われるから、彼女の性格っていうのはもうそこで確定されてしまったのかも。メチルアルコール事件は英介が高校にいなければ成立しなかっただろう。ただ英介が存在しない世界になってしまったら彼女は自殺を目論んでいたかもしれない。そのどうしようもなさを含めて、救いのない話だなあと思った。

承・平均値の人生

ここからは起承転結で言えば「承」の話。短大を卒業して親にも見放された彼女は製本工場のラインで働く女子工員として文字通り身を粉にして生活していた。
同じ仕事仲間からも迫害され、打ちのめされている時によみがえったのは英介の記憶。彼女は英介に会うべく、整形をすることを決意する。

彼女自身は整形が英介のためだとは気づいていない。彼女の英介に対する想いはもはや本能的なところにまで膨れ上がっていて、読み返したときは一瞬ホラーか何かかと思ってしまった。ストーカーではないんだけど、すげえなっていう。ロマンチシズムも度を過ぎると狂気的になるんですね不思議。

ただ、ここでの彼女の意思の強さは崎村が言う通りすごい。

「あんたは、ここにいる女のことは違うな」
「何が違うんですか」
「どこがどう違うのかはうまく言えないが、何というか、強い意志を持っている。こんな店に来る子はほとんど流されてやってくる。でも、あんたは違う。この世界に確固とした意志を持って飛び込んできた」
「時間と金を無駄に使うなよ」

こう称された通り、彼女は莫大な金を使うことで街で一番の美女になることに成功する。今まで和子だった彼女は新しい名前・未帆として町を歩くこととなるのだ。

※「和子=未帆」ってことです。

未帆の美貌はもうすさまじい。男なら誰しも彼女の顔を注視し、手に入れたいと思う。
生まれつきではなく、必死という言葉が霞んでしまうほどの努力の上に成り立つ彼女の完璧な「美」。彼女はそれを余すことなく発揮し、人生を謳歌していく。

私は30年以上生きてきて、世の中がいかに不公平であるかということをたっぷり学んできた。私は闘って美しさを手に入れた。だから私は「美」の価値を知っている。

この台詞は結構感動ものだった。彼女の美に対する意識や努力が実を結んだ結果であり、一人の人間として尊敬できるなと思った。人間、やる気があればなんでもできるんすね。

ここでの見どころは、会社に勤めている同僚たちの反応だ。最初は未帆の養子を馬鹿にしていたんだけど、それが次第に羨望、嫉妬の目に変わっていき、その感情は恐怖にさえ変貌する。彼女はジョーカーかなんかじゃねえのかとも思うけど、確かに目の前の人が別人のように変化したら多くの人はこういう反応を示すんだろうなと感じた。

あと、もう一つ印象に残った台詞として、

美人の性格が良くなるのは当たり前だった。いつもこんな風に善意に包まれていれば、自分もまた気配りの出来る笑顔の素敵な女になるのは当然だ。

というやつ。一理あるとは感じた。世の中にはモデルや作中に登場する風俗などの自分の体を売りにした職業が数多く存在していて、そうでない人以上に体は資本なのである。そしてそういった人たちというのはその容姿をほめられることは多いだろう。
「褒める」という行為には、その人の努力をたたえたり、功績や長所に対しての称賛の意がある。言い方は少しとがったものになってしまうけれど、生まれつき持っているものをほめられるというのは裏を返すとそうでない人にとっては努力なしで得たものであり、努力なしで褒められることに対する憎しみや嫉妬というのは当然のものだと思う。
いい顔を持っている人はそれだけで褒められ、嫉妬や憎しみといった負の感情を抱く場面は確かに少ないかもしれない。この文章からは、美醜どちらも経験した彼女が言うからこその説得力があった。

転・英介への想い

人生を謳歌していた未帆だったが、その美貌を手にしたのは何のためかという疑問が浮かぶ。そしてそれは、英介への想いなのではないかという結論へと変わる。探偵社(興信所みたいなやつ?)の話によると既に既婚で、一度は諦めかけたが、彼女は彼を必ず手に入れることを決める。
そのうえでほとんど完璧な容姿を手にしていた彼女だが、さらなる美のために「ゆらぎ」についての知識を得る。

音楽に例えても分かりやすいですね。全音階の長調は確かに明るく開放的で人を楽しい気分にしますが、深みに欠けるきらいがあります。一方、短調は悲哀を含んで深みを感じさせますが、癒される部分が少ないです。長調と短調が微妙に交錯する半音階のメロディーには、人は不思議な魅力を感じます。飽きがこないとも言えます。これが、ゆらぎです。

前から美人だった彼女は自身の顔にわずかな「ゆらぎ」を入れることで究極の美を手に入れる。

しかしそんな彼女の美も永遠ではない。30を過ぎてから彼女は入院などを経験し、自分の命、美が有限であることを悟る。
そしてそんな入院生活などがきっかけとなり、大橋という男性と結婚することを決めたりもする。

ここらへんの話は、彼女が美への終わりを感じ始めると同時に、彼女が身体的にも精神的にも衰弱していくことが分かる内容になっている。
以前の彼女であれば大橋と結婚する気などさらさらなかっただろうし。ここらへんを読んでいると、ああ、まだ彼女も人間としての心があったんだなあとか思ってしまう。
また、一時的とはいえ英介のことを諦めたのも、彼女はついに丸くなったのか!?と思った。杞憂だったけど。

結・英介との出会い、別れ

章にして第十三章。個人的にここからが起承転結の結の部分。
まあなんか色々あったけど、結局この二人はレストランで再会します。まあここら辺はここまでで培ったノウハウを駆使して英介を口説き落とすんだけど、私はやっぱりその過程で生じる、未帆の中にいる和子の想いを考えていきたい。

スパイ映画かなにかかと勘違いしてしまうほど完璧な彼女だったが、英介と結ばれたことでそれまでの彼女・和子の意思が見えてくるようになる。英介が愛しているのはあくまであの時、思い出の中の和子ではなく未帆。頭では分かっていても、彼女の中にこれまでにない葛藤が生まれる。そこでの葛藤は彼女が生きてきた意味そのものでもあり、それが彼女を苦しめる。

結果としては英介と結ばれることはなく、くも膜下出血によって命を落とすこととなる彼女。どん底を経験したにも関わらず人生の頂点をも経験した彼女の最期は、短い人生だったとは言え穏やかであった。

彼女はここに来るまで、又は死ぬまでどんなことを考え、悩んできたのだろう。私が読んで感じたこととしては、美貌を手にした事や英介と出会ったことに対しての後悔はしていないんじゃないかなということ。ただ一方で英介は彼女にとっての王子様ではなくなっていて、彼女は彼に対して少なからず失望もしたと思う。

もし彼女の体に異常がなく、英介が未婚だったなら、彼女らは結ばれたのだろうか。そんなことも考えてしまった。

感想とまとめ

いやーいろんなことを考えさせられる物語だった。「美醜」がメインのテーマであることは確定だとして。私は勝手にこの物語の起承転結を


和子(モンスター)⇒未帆(美人)⇒未帆(歪ませた美人)⇒和子(英介と出会った)

としているんだけど、この変化も今作の大きな魅力の一つであるなと感じた。加えて英介への想い、具体的にこれが恋心と言えるかどうかは微妙だけど、そんな二人のラブストーリーとしても見ることが出来る、そんな作品なのではないかと思った。
個人的には両面を見てきた彼女だからこそ感じることが出来る色々な思いをとてもうまく言語化されているなと感じた。

あと最後に言っておきたいのは、崎村の存在。彼、個人的に本作で一番好きなキャラクターかもしれないです。
仕事仲間と言うには親しすぎて、恋仲と言うのも少し違うような存在。なんかここを見てるのが一番ほほえましいというかなんというか。特に彼が求婚したシーンは、彼が未帆のほぼすべてを見てきたからこその発言で、その時ばっかりは英介いらんとか思っちゃいました。崎村とのハッピーエンド、私気になります!

といった感じで、今回はこの辺で終わろうと思う。この記事を読んで面白いと思っていただけたなら是非スキ、フォロー等よろしくお願いします。
では、よい一日を。


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