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脳波計測でメンズメイクの可能性を探る-感性変化で見るメイクの効果-

ダイバーシティーという言葉が盛んに聞かれるようになり、現代は多様性が認められる時代になりつつあります。これまで固定概念として当たり前のように存在していたことが、当たり前ではなくなる時代。
メイクもその一つではないでしょうか?

元来、メイクを日常的に行うのは女性だけというイメージがありました。
しかし、現代においてはスキンケアはもちろん、ファンデーション等のベースメイクをはじめ、アイブロウなどのポイントメイクを取り入れる男性も増えています。さらには美容系YouTuberとして活躍する男性や、メンズメイク専門のサロンも登場するなど、化粧品市場もジェンダーレスな拡がりを見せています。

また、株式会社インテージが行った調査によると、実際に5年前と比較して、男性化粧品市場は408億円から513億円へと1.25倍の成長を遂げており、特にスキンケアで大きな伸びが見られます。ベースメイクやポイントメイクについてはほぼ横這いですが、男性の美容への関心の高まりから、今後徐々に市場が拡大していく可能性も考えられます。

また過去の研究では、女性がメイクを行った際に得られる主な効用として自信や自己に対する満足感が高まることが示されています。さらにセルフメイクではなく、メイクアップアーティストにメイクを施してもらった場合、心理的な活性度が高まり、当事者に快適で高揚した気分を与えると同時に、安心感をも与えるという結果も示されていました。


実験の目的と方法

著作者:pch.vector/出典:Freepik

これらは男性でも同様のことが言えるのでしょうか?
そこで、脳波から得られる感性データの変化からメンズメイクのもたらす可能性を探る為、今回は「メンズメイクによる緊張感の緩和と、気分の高揚」を仮説として検証を行いました。

下記の方法で、メイク前後それぞれにタスクを実施した際の感性変化を比較します。
被験者は日常的にメイクを行う習慣のない男性を対象としました。

実験概要

使用アプリケーション感性アナライザ/VAアナライザ

メイク施術概要:ベースメイク(ファンデーション)、アイブロウのみのナチュラルメイク
注1:メイクはプロのメイクアップアーティストにより施術

実験方法
1.メイクあり・メイクなしの状態でそれぞれ1回ずつ指定のタスク(会議・カードゲーム・カラオケ)を実施
注1:各被験者につき1タスク
注2:一般的にヒトが緊張感を感じやすいと考えられるタスクを与える
注3:タスク実施中のエキストラとしてスタッフが数名同席

2.脳波を計測するタイミング:タスク実施前後安静/タスク実施中
注:メイク中はノイズが発生する可能性がある為、脳波計測を行わない

実験場所:電通サイエンスジャム

※1「感性アナライザ」
慶應義塾大学の満倉靖恵教授が研究・開発したアルゴリズムを用いて、人の感情を脳波から推定し数値化できるアプリケーション

※2「Valence-Arousal アナライザ」
電通サイエンスジャムが開発した、人の感情を規定する二次元値Valence(快楽水準)とArousal(覚醒水準)を脳波から推定し、数値化できるアプリケーション

結果の考察

①会議(プレゼンテーション)

まずひとつ目のタスクとして、被験者Aには模擬会議を実施してもらいました。
通常の会議は日頃から行っており、あまり緊張感を感じない可能性もあることから、ある程度の緊張感を付加する為、英語でのプレゼンテーションを行います。

被験者Aの計測結果を分析したところ、大きなポイントとして次のような傾向が見られました。

メイク前と比較してメイク後の方がタスク実施中の活性度が上昇している様子から、メイクによる覚醒効果がある可能性がわかりました。
その他にもストレス度の低下や好き度・興味度が上昇するなど、全体的にメイク後の方がポジティブな反応が見られたこと、さらに体感としても会議中のパフォーマンスが高まったことから、メイクを施すことで自分に自信が持てる状態にあったと考えられます。

②カードゲーム

続いて、被験者Bにはカードゲームを実施。カードゲームについても、適度な緊張感を与える為、心理戦を伴うカードゲームを選定しました。

被験者Bの計測結果については次のような傾向が見られました。
メイク前後ともにゲーム中はストレス度が高い傾向にありましたがメイク施術後のタスク終了時においては好き度と興味度が上昇しました。

この結果を基に本人にヒアリングを行ったところ、次のような回答が得られました。
「興味度についてはメイク後の方がゲームを上手く進行させたいという気持ちが強くなり、心理戦において相手の表情を読み取ろうという関心が強くなった結果かもしれない。好き度については、メイク直後は仕上がりに対する不安感が強かったが、周囲が好反応だったため安心感を得ることができ、事後の好き度の増加およびストレス度の減少につながったように思う。」

このように、脳波計測だけでなく、実際に本人にヒアリングを行うことでより多角的に感情を分析することが可能になります。

③カラオケ

最後のタスクとして、被験者Cにはカラオケを実施。被験者自身が選曲し、10分間自由に歌ってもらいながら、脳波計測を行います。

計測結果を分析したところ、実験同行者と初めてカラオケに行くという慣れない状態への緊張感からかストレス度は常に高い状態にあったものの、メイク施術後はタスク中にリラックス度が上昇するという結果が見られました。この結果から、メイクをすることで自分に自信が持て、カラオケ中にリラックス感やポジティブな感情を感じやすい可能性があることがわかりました。

実験後の本人に対するヒアリングでも「メイク後の方が気を遣わずリラックスできた」というコメントがあり、脳波計測の結果と相違がないことがわかりました。

-全体を通して-

今回3つのタスクに共通して見られた結果としては、メイクの施術前後で全体的にストレス度が高まる傾向が見られました。これは、嫌悪感を意味するストレスではなく、プロのメイクアップアーティストにメイクをしてもらうという非日常的な緊張感から、一時的にストレスが高まったものと思われます。(実際に被験者にもヒアリング済み)

また、メイク後はネガポジ度・活性度が共に上昇していることから、結果的にメイクが気分転換になり、感情のスイッチが入ることで気分も高揚して覚醒状態になった可能性が考えられます。その結果と連動するように、メイク後は集中度も同時に高まる傾向が見られました。

<Valence-Arousalマップについて>
Valence(ネガポジ度)、Arousal(活性度)はラッセルの感情円環モデルの理論に基づき作成された指標です。マップは1秒毎の変化を4象限または16象限に平均値では確認できない時系列内での変化を大きかったのかを把握するために使用します。
・1秒毎に感情値がどの象限を示していたかを評価時間中に対してその象限に感情値が存在した時間の割合[%]で各象が表される。
・全ての象限の合計は100%になり、4象限と同じ位置にある16象限中の4象限の合計は一致する。
・実験前後での比較や実験時間をシーン別に分類することで、他の時間との対比により被験者の状態を評価する。

まとめ

今回の簡易実験を通じて、会議等の人前に立つシチュエーションにおいてメイクを施すと、気持ちを切り替えることができ、いつもより良いパフォーマンスを発揮できる可能性を見出すことができました。各タスクにつき1名での実施だったため細かな検証は行えませんでしたが、被験者数を増やして検証を行うことができれば、より正確で有用なデータが得られると期待しています。

また、実験を通じたヒアリングから男性目線では、”男性にとって日常的にメイクをすることが一般的ではなく、周囲の目が気になる”、”メイク方法がわからない”、”メイクに時間を割くことが面倒”等を理由にまだまだ日常的にメイクを行うことに抵抗がある現状も見えてきました。

このような抵抗を無くす方法を探るべく、今後は感情の変化だけではなく、メイクをすることで業務時の作業効率がアップする可能性等、異なる角度からの検証も行ってみたいと考えており、化粧品メーカーとの共同研究も視野に入れて、「男性のメイクアップが習慣化するきっかけ」や「メンズメイクを行うメリット」等、化粧品市場の新たな可能性の開拓に寄与できればと願っています。

新しい時代の中で、男性もファッションや身嗜みとして気軽にメイクを取り入れつつ、さらにメイクをすることがパフォーマンスの向上に繋がっていけば良いと感じました。

本記事に関するご質問、共同研究等については下記よりお気軽にお問い合わせください。
お問い合わせ

●メイク協力:YASUYO TANAKA (Nous)

●画像出典
TOP画像:著作者:drobotdean/出典:Freepik


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