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「心地良さ」をデザインする-明治大学 井上教授インタビュー-後編

前編>に引き続き、井上教授のインタビュー<後編>をお届けします。
<後編>では、井上教授が考える未来に焦点を当ててお話を伺いました。

デザインを通じて環境問題の解決に取り組む

著作者:macrovector/出典:Freepik

DSJ
「ここからはフリートーク形式でお話できればと思います。」

「先ほど、熱的快適性について、視覚と聴覚に関係があるというお話があったかと思うのですが、視覚というのは照明の色等も関係してくるということでしょうか?」

井上先生
「はい、そうですね。今は専用の実験部屋を用意して、調光が可能なライトを用いて実験を行っています。あとは壁の色等も関係していると思います。」

「実験を進める上でわかったことですが、色と音の組み合わせにも関係があって、色と音の持っているイメージが一致すると快適性が上がるという傾向が見られました。」

DSJ
「例えば、風鈴の音を聞きながら青い部屋の中にいるというようなイメージでしょうか?」

井上先生
「はい、そういうイメージかと思います。現在、同じ大学で熱の研究をされている川南剛先生と共同で研究を進めていますが、この点については、今後もう少し被験者を集めて検証を進めていきたいと考えているので、今後は企業の方も交えて一緒に研究に取り組むチャンスがあれば良いなと考えています。」

DSJ
「温暖化が深刻な問題となっている中、やはりこういった環境への取り組みは大切だと思いました。」

井上先生
「エアコン等もこれ以上エネルギー効率を良くすることが難しい段階になってきています。そこで、人間の心理や視覚、聴覚を使って新たなエネルギーコストをかけずに何かできないかということを考えています。」

DSJ
「エアコンの温度を変えなくても、人間が涼しいと感じる色や音を活用すれば体感温度が変わるかもしれないということですね。試しに自宅でも実践してみたら面白そうですね」

「先生の場合は色と音について研究されていますが、例えば丸や四角のような形も熱的快適性に関係があったりするのでしょうか?」

井上先生
「あるかもしれないですね。形についてもその形が持っているイメージがあると思うので、イメージとの一致が関係するという点では可能性はあるかもしれないですね。」

DSJ
「熱的快適性以外で、今後感性アナライザを活用していきたいとお考えの研究はありますか?」

井上先生
「いろいろな事例に適用ができると思っています。

熱的快適性に取り組む前は、“モノ使っている時にヒトがどう感じているのか”ということを検証していました。

例えば、ユーザーがペンを使っている時の感性を調べて、ユーザーが望む要求を満足するためのペンをどのようにデザインしたらよいのかというデザイン問題に取り組んでいました。その時はまだモノの変化にしか注目していなかったので、ペンの太さが1mm、2mm変わったくらいでは一般のヒトの感情には、あまり変化は見られませんでした。

ただ、モノとコトが重なった時、ペンであれば、どんな紙に書いているのか、絵を描いているのか文字を書いているのかという、使うシーンやシチュエーションも一緒にデザインすれば変化が見られるのでは?と考えているので、今後はモノやコトのデザインのプロセスについても研究していきたいと考えています。

人間がより心地よくモノを使う為には、どういったデザインのプロセスがあれば良いのかという部分を検証していきたいですね。」

DSJ
「実は弊社でもそういったプロダクトデザインに関するご相談を受ける機会が多いので、今後先生からもアドバイスをいただいたり、共同研究を進めていくことができればありがたいです。」

「最後の質問になりますが、今後DSJと一緒に取り組めそうなことやビジネス化していきたいことがあればお話いただけますでしょうか?」

井上先生
「設計の方法を模索することが研究のメインではありますが、より重要視しているのは設計の前段階の部分です。

前段階というのは何かというと、“そもそもどんなものをつくろうか”、“企業がユーザーのニーズに応えるには何をどうデザインしたらよいのか”という関係性を考えることです。

ユーザーのニーズを抽出して、そのニーズを満たすためにはどうしたらよいのかを分析できるソフト(評価グリッド法システム)の開発にも取り組んでいるので、ニーズ調査等でご一緒できればありがたいです。」

DSJ
「いくつか選択肢がある時に、人がどこに一番強く反応しているのかという部分が見られたら面白いと思うので、感性アナライザと組み合わせて比較検証ができれば新たな可能性が拡がりそうですね。

製品開発分野での感性アナライザ活用についてご相談いただく機会もあるのですが、新商品開発のための基礎研究を進める場合、ニーズ調査を経て、脳波でできることを考えるというステップを踏んでいければ良いなと思いました。」

井上先生
そもそもどんなニーズがあるのかということと、市場が一致していれば可能性は見出せる思うので、そういった活用の仕方をしていければと思っています。
ちなみに、このシステムをつくるきっかけになったのもSIPのプロジェクトでした。」

「手法としてはオリジナルのアンケートベースの集計ですが、たった10人のアンケート結果でも膨大な量のデータになります。そこを簡易集計できるようにシステム化しています。

何が主なニーズになっているのかとか、レアだけど実は潜在的なニーズなんじゃないかとか、ニーズを達成するためには何を設計したらよいのかという分析結果については、研究室のオリジナルとして開発を進めています。」

DSJ
「脳波と組み合わせたら、設計の段階から製品開発までまとめて提案できそうですね。今後ニーズ調査が必要になった際は、ぜひ活用させていただきたいです。」

「本日はどうもありがとうございました!」

まとめ

著作者:pch.vector/出典:Freepik

人に寄り添うデザインについてご研究されている井上教授。

今回は、感性を把握することでヒトに最適な環境やモノを構想する過程だけではなく、デザインを通じて環境問題を解決しようとする研究についてのお話や、先生が開発されているシステムについても伺うことができ、私たちとしても新しい可能性を得ることができました。

世の中には様々な物が溢れていますが、設計の段階から人が心地よいと感じる状態を導くことができれば、私たちの生活はより豊かになるのではないかと思います。

今後も「感性アナライザ」を通じて、人々の生活や環境をより良くするための研究を推進するサポートができればと考えています。

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