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「心地良さ」をデザインする-明治大学 井上教授インタビュー-前編

感性アナライザ」は主に企業のお客様に商品開発、既存製品の評価やPR等でご活用いただくことが多いサービスですが、電通サイエンスジャムでは、そのようなビジネス活用の側面だけではなく、産学連携企業として未来につながる研究をサポートするべく、様々な大学や研究機関とのパートナーシップも築いています。

その一環としてアカデミアパートナー制度をご提供していますが、今回はこの制度を通じて「感性アナライザ」をご活用いただいている、明治大学 理工学部機械情報工学科 設計システム研究室の井上全人教授にインタビューをさせていただきました。

井上教授ご紹介

井上全人(いのうえ まさと)
明治大学 理工学部機械情報工学科 設計システム研究室 教授

慶應義塾大学理工学部卒、同大学院にて2005年博士(工学)取得。慶應義塾大学助手、電気通信大学助手・助教、明治大学専任講師を経て、2021年から現職。ベルリン工科大学(2009年)、ヴッパタール大学(2015年)での客員教授の経験において、ドイツの生活・文化・歴史と製品開発プロセスの関係を実感。機械工学をベースとしたデザイン工学を専門とし、ヒトの感性に基づくデザイン方法、環境にやさしいデザイン方法論、製品開発プロセスの効率化などの研究に従事。

はじめに

著作者:rawpixel.com/出典:Freepik

DSJ
「井上先生、本日はどうぞよろしくお願い致します。」
「早速ですが、はじめに先生のご研究内容についてお話いただけますでしょうか?」

井上先生
「はい、よろしくお願いします。」

「まず研究室全体のテーマからお話すると、“製品やサービスを取り巻く社会システムをどのようにデザインすればヒトが快適に生活できるのか”ということです。デザイン方法論研究や社会サービスのデザインがメインテーマではありますが、その他にも様々な研究課題に取り組んでいます。

その中で感性アナライザを用いた研究としては、ヒトが感じる「快適性」について掘り下げる意図で研究を行っている、「熱的快適性」になります。具体的にお話すると、“ヒトは同じ温度環境下であったとしても視覚や聴覚等の五感から伝わる刺激が変わると、温度の感じ方も変わってくるのではないか”という仮説があります。

例えば風鈴の音で涼しさを感じたり、ヨーロッパのホテルのフロントにあるような焚火のディスプレイを見ると温かさを感じたりするように、人間の視覚・聴覚をコントロールすることで、最終的には、空調の温度設定を必要以上に上げたり下げたりなくてもよいような省エネにつながるようなモノやサービスのデザインができればと考えています。

実際にこの分野では様々な研究に取り組まれていますが、アンケートによる主観評価が主流です。視覚と聴覚を組み合わせれば、より快適性が上がるのではないかという仮説を元に、主観評価だけではなく生体信号を取得できる機器を使って評価したいということで感性アナライザを活用させていただいています。

始めたばかりの研究なのでまだ大まかな結果しか出ていませんが、いわゆる快適・非快適な生活環境の定義があって、その環境の中においてヒトがどう感じているのかを感性アナライザで計測してみると、5つある指標のうち好き度・集中度は熱的快適性においても有意性が示されました。」

DSJ
「環境の快適性が上がると、集中度が変化するのは意外な結果ですね!」

井上先生
「先行研究でも好ましさは快適性に影響を与えるという結果が出ているので、好き度に変化が出ることはある程度予測できていましたが、集中度については熱的快適性が高まると下がる傾向が見られました。」

DSJ
「熱的快適性が高まることによって、リラックスしている状態になるということですね。」

井上先生
「そういうことだと思います。そこで現在は好き度と集中度に特化して、どういう音や色の情報を与えれば熱的快適性が上がるのかという研究を継続して行っています。

なお、昨年、日本機械学会で学生が発表しましたが、同学会で優秀講演表彰をいただきました。」

DSJ
「それはおめでとうございます!」

井上先生
「ありがとうございます。これまでは限られた色の情報しか与えていませんでしたが、今はもっと詳細に色や音の情報を取得するなど被験者数を増やして研究を進めています。」

DSJ
「今後どのような研究結果が出るのか、とても興味深いです。集中度に変化が現れたように意外な結果が得られるとおもしろいですね。」

感性アナライザとの出会い

著作者:vectorjuice/出典:Freepik

DSJ
「続いて、感性アナライザとの出会いについてお伺いできますでしょうか?」

井上先生
「2016年に戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で慶應義塾大学の満倉先生とご一緒して、“デライトものづくり発想支援システムの開発”というプロジェクトを半年間行いました。

デライト”というのは、ユーザーが製品に対して“この機能は、あって当然だ”と思うものや必要不可欠だと思う機能以外に、“こんな機能があったら魅力的だよね”と思えることを意味していて、そのような魅力的品質を実現できるのがデライトデザインだと考えています。

ヒトが魅力的だと感じる時にどういった思考をしているのかを、主観評価だけではなく、脳波等の生体信号を用いて評価することができないかと考えたことがきっかけでした。」

DSJ
「プロジェクトの際にも、実際に感性アナライザを活用して進行されていたということでしょうか?」

井上先生
「はい、そうです。」

感性アナライザの魅力

DSJ
「そこで感性アナライザの存在を知って、井上先生ご自身の研究でも活用してみたら面白い結果が得られるのではないかということですね。」

「先程のお話と重複してしまう部分もあるかもしれませんが、感性アナライザを使用した結果、研究を深めることができた点や、変わったこと、良かったことがあれば教えていただきたいです。」

井上先生
「主観評価でヒトがどう感じているのかということと、生体信号としてどう感じているのかが一致する時と、相違がある時がありますが、主観評価とは違った観点で評価できることが一番の魅力だと考えています。

感性の設計はアンケートベースのものが多いですが、そういった主観評価の裏付けとしても活用できる点が良いと思います。あとは、その人がどう感じているかが秒単位(時間経過)でわかるという部分がメリットだと感じていますね。」


ここからは<後編>にてお届け致します。
後編>もボリュームたっぷりの内容となっておりますので、どうぞご期待ください。

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