「世の中を良くする不快のデザイン展」を終えて #08 エンジニア・石川達哉のつぶやき
「世の中を良くする不快のデザイン展」にテクニカルディレクターおよびエンジニアとして参加しました、石川達哉と申します。電通クリエーティブXが運営母体となっているDentsu Craft Tokyo という組織で、エンジニアとして活動しています。この記事では、私が主に担当したモスキート音体験装置について解説いたします。
モスキート音とは
展示にご協力いただいた日本騒音調査ソーチョー様のWebページには、「モスキート音(高周波音、超音波)」と記載されており、今回の展示では高周波音(高い音)をモスキート音と呼んでいます。
モスキート音は生物や年齢によって聞こえ方が違うので、それを利用してネズミ避けや、たむろする若者を防ぐ事例があるということは、展示をご覧になった方はすでにご存じかと思います。
街中に設置されているモスキート音発生装置は、より耳障りに聞こえるよう発生する音が工夫されていることがありますが、今回の体験装置では単純な高周波音を発生させ、それをダイヤルでコントロールできるようにしました。
装置の開発環境
今回の体験装置では、以下の要件を満たす必要があります。
モスキート音がスピーカーから流れる
ダイヤルを回すことでモスキート音の高さをコントロールできる
流れている音の高さによって映像が変化する
そのためにはプログラムによって、ダイヤルの回転取得、モスキート音の生成、映像のコントロール といったことをする必要があります。
これらの機能を実装するための方法は色々ありますが、今回はopenFrameWorksという開発環境を使ってプログラミングをしています。
openFrameworksは「創造的なコーディングのためのC++のオープンソースツールキット」で、映像やセンサーなどを組み合わせたプログラミングがしやすいことから、展覧会などの体験コンテンツ制作で使われることの多い開発環境です。
装置のハードウェア構成
モスキート音体験装置は、以下のようなハードウェア構成になっています。シンプルな構成です。
この中で、主に「ロータリーエンコーダー」と「Arduino」について解説します。ロータリーエンコーダーは回転を電気信号に変換するデバイスです。
回転を検出できるデバイスは、他にはMIDIコントローラや可変抵抗などが考えられますが、ロータリーエンコーダーは回転の限界がないという特徴があります。
今回の装置では、モスキート音が鳴り続けて会場に響きわたるという状況にならないよう、「ダイヤルをしばらく操作しないでいると自動的に音が聞こえない最初の状態に戻る」という処理を入れています。これは、回転の始まりと終わりがないロータリーエンコーダだからできる処理だと言えます。
ロータリーエンコーダーの他には、DJI製DCブラシレスモーターも使用候補にあったのですが、制作時はちょうど在庫がなく試せませんでした。残念。。。
Arduinoはいわゆる「マイコン」の一種で、LEDやセンサーなどデバイスを簡単に操作したり、PCと連携させたりすることができるものです。今回は、ロータリーエンコーダーの電気信号をArduinoに入力し、ArduinoからopenFrameworksアプリにデータを送っています。
苦労した点
今回の制作でもっとも苦労した点ですが、実はダイヤルのつまみを探すのが一番大変でした。
体験する人が一目でこれを回すとわかるよう、ある程度の大きさと質感のあるつまみである必要があると考え、秋葉原じゅうを探し回ったのですが、小さいつまみしか見つからず。最終的にはつまみを作っているメーカーのWebサイトから一番大きいつまみを見つけて比較しました。
結果、サトーパーツ製K-59というつまみが見つかり今回使用しています。
さいごに
展示でも触れていましたが、モスキート音を人間に対して用いることの是非は議論されるべきところではあります。
展示全体の例を見ても、他の事例は不快をうまく扱って人の行動をナッジ(※)的に後押ししているのに対し、モスキート音はずいぶんと直接的な使い方だなと個人的には感じています。
※ナッジ:行動経済学の用語
そんなことを考える一助にこの体験装置がなっていれば幸いです。
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