見出し画像

ジャン・バルジャンのお話をしよう!

 子供の頃、いや今でもそうですが、私の故郷はかなりの田舎でした。これは、私が小学生の頃の話です。
 それが悪いことではありませんが、小学校の授業では、方言が使われることも多く、特に年配の先生にはそういう傾向がありました。小3当時の担任の先生も、白髪交じりの年配の先生だったので、その例外ではありませんでした。ある日、いつものようにガヤガヤしながら1時間目の授業を待っていると、初めて見る先生が教室に入ってきました。
 その先生は、ピシッとしたスーツを着こなした年配の先生でした。髪はシルバーグレイで、どことなく品がありました。そのおじいさん先生が言いました。「僕は教頭の○○です。担任の△△先生は、2時間目から来ますので、この授業は自習です」。その時、人生で初めて自分のことをボクと呼ぶ大人に出会いました。はっきり言って、かなり衝撃的でした。大人のワタシやワシなら聞き慣れていましたが、”大人のボク”は初めてでした。
 校長先生は式典の挨拶などで結構見ますが、教頭先生を間近で見るのは初めてでした。その教頭先生が、緊張している私達に優し気に続けます。「今日は皆さんに、ジャン・バルジャンのお話をしましょう」。教頭先生はTVのニュースで聞くようなきれいな標準語でした。今なら、ジャン・バルジャンがレ・ミゼラブル(邦題:ああ、無常)の主人公であることは知っていますが、当時は全く知りません。
 話は、ジャン・バルジャンが銀の燭台を盗む場面でした。教頭先生の話はとても上手で、最初はザワついていた同級生も、話の終わりの頃には、その話に釘付けになっていました。もちろん、私もその一人です。”続きが知りたい”とその時に強く思いましたが、この物語がどんな本なのかを知る方法がありませんでした。たった1回の授業でした。今では、名前も忘れてしまった教頭先生ですが、忘れられない先生の一人です。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?