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山陰地方縦走サイクリング旅 (トピックス)山陰の暮らしと文化

1。家並み
 鳥取県を山陰本線で移動している時から、落ち着いた家並みが目につくようになった。とりわけ、屋根瓦の色に気を取られた。明るい黄土色の瓦と、黒光りする瓦が美しい。そのコントラストに最初に気がついたのは、鳥取県倉吉市の車窓からであった。以後ずっと気になっていたのだが、津和野を訪れると、ほとんどの家が、明るい黄土色の「赤瓦」になっていて、街並みがとても落ち着いた美しい景色だった。出立時に宿の若女将に尋ねたところ、これが、「石州瓦」で、この地方では、普通に使われる瓦だと言う。黒光りする瓦の方は、知らないと言う。後で調べたところ、黒光りする黒瓦も「石州瓦」で、釉薬の違いによるようだが、詳しいことはわからない。

2。道路事情
1)鳥取から島根にかけて、とりわけ米子から境港に向かって走る時からはっきり気が付いたのだが、黄色に点滅している交通信号が目立つ。米子から松江までの区間でも、松江から出雲大社に向かって走ったときにも、やはり、黄色点滅が多かった。そのため、信号機で止まる頻度が非常に少なくてとても助かった。交通量がある程度少ない道路の場合、とても合理的な手法のように感じる。東北地方や四国瀬戸内地方を走ったときには経験していないので、とりあえず称賛と感謝を持って「山陰だんだん方式」とでも呼んでおきたい。

2)国道9号線は、山陰地方、とりわけ鳥取県と島根県の沿岸を貫く幹線道路である。今回の自転車旅でも、米子から松江にかけてこの道のお世話になった。しかし、この道は、一部を除き、自転車にとって走り良いとはとても言えなかった。自転車レーンがないのはもちろん、路肩が狭く、傷んでいるところが多く、往来する車に常に注意しながら走らなければならない。この道以外にも、米子から境港へ続く道路や、松江から出雲大社にまっすぐに走る道路も同様な状況であった。とりわけ「自転車王国」を目指して、各種イベントを開催したり、施設の整備を推進したりしているらしい鳥取県に対しては、まず第一に、「自転車王国」の名に恥じない、自転車が走りやすい道路を整備していただきたいと願う。一方で、往来する自動車の大半は、自転車に気を使ってくださって、追い抜くときには、速度を大幅に落として慎重に追い抜いたり、対向車線が空いている時は大きく膨らんで追い抜いていく車が多かった。大声で「だんだん」と叫んで感謝の念を伝えたかった。残念ながら首都圏では、こういう態度にはなかなかお目にかからない。

3)米子から中海に沿って境港へ向かう。中海沿いに南北に伸びる国道47号線をひたすら北に向かって漕ぐ。国道は、米子きたろう空港と航空自衛隊基地を迂回して、境港方面に進む。次の目的地は、中海に浮かぶ江島+大根島へ渡る江島大橋。こんな橋、見たことない。ちょっと大袈裟にいうと、”天空の橋”。まっすぐに伸びる橋は見上げるように高度を上げながら伸びている。遠くから望遠レンズで撮影すると梯子を車が登っているような風景になる。

望遠でとらえた江島大橋(ネットから引用)

 自転車で登り切れるか不安が湧く。が、ここまできた以上は、なんとしても上りきらないといけないと"決死の覚悟"でペダルを漕ぐ。道が狭いので、路肩にへばりつくようにして、後ろからくる車に気をつけながら走らないといけない。45メートルの高さにある橋の最高点に達し、路肩に身を寄せて360度に広がる中海とその周辺の景色を楽しむ。このまま島へ渡ってしまうと、もう一度登って帰って来なければいけなくなるので、ここでUターンした。それにしてもなぜこんなに高い橋を作る必要があるのだろうか・・・。自転車や歩行者が渡るのを断念させるため???

3。足立美術館

足立美術館の前庭

 四日目、大山から下って、14時15分ごろ足立美術館に到着。お昼をとらずに空腹に耐えて走ってきたので、館内のレストラン「大観」にて遅いお昼を食べる。ビーフカレーとグレープフルーツジュース(セットで1700円)。入館者は意外と少なく静か。場所によっては、他に誰もおらず、景観を独り占めすることもできる。ここが19年連続日本一に選ばれた庭園(第2位が桂離宮)を有する美術館なのかと、違和感が湧く。ガラガラと感じるのは、東京の美術館や展覧会に慣れてしまっているからなのかもしれない。アメリカの大きな美術館、例えば、シカゴ美術館、ボストン美術館、ニューヨークメトロポリタン美術館、ワシントンナショナルギャラリーを思い出しても、どこも、混雑している美術館なんてなかったことを思い出した。
 空には雲が多いが、雲の間からは強い日差しが注ぐ。庭はやはり素晴らしい。とりわけ、主庭の広々とした白砂青松に様々な工夫が凝らされていて、狙い通り、原寸大の「名画」の前に立っているようだ。実際、大半は横山大観の作品をモチーフにして作られたものだという。この庭園美術館の創設者である足立翁は若き日に大観の絵画に出逢って魅せられ、その後生涯をかけて大観の作品を収集した。大観以外にも日本画の大家である小林古径、安田靫彦、川端龍子、前田青邨など多数。魯山人の作品にも魅了されていたようで、息子の代になっても遺志を継いで蒐集を続け、数百点の作品を所蔵しており、その作品の展示のために、最近新しく魯山人の作品専用の展示室が作られたという。個人的には、魯山人の作品は、個性が強すぎて好きになれないが、今回、彼の原点が「書道」にあったことを知り、展示されている何点かの作品を観たが、彼の書の作品には、大いに魅せられた。さらに、この美術館は、若いあるいは新進の画家たちを支援する活動を続けており、院展の入選作品を中心に、個性的な、また魅力的な作品を蒐集している。その展示のために、地下道でつながっている道向こうの新館を建設したのだという。ここに展示されている作品群も、また素晴らしいものであった。
 「まもなく5時半閉館」の案内を聞いて、時間の経過に気がつき、急いで新館を出て、道を渡って元の本館に戻り、コインロッカーに預けてあった荷物を取り出して舘を出る。受付やスタッフが揃って丁寧に挨拶するのにも感心した。他の美術館では経験したことがない。

4。安野光雅美術館
 一泊した津和野を発つ日、津和野で訪れたかった場所の一つ、「安野光雅美術館」に向かう。駅前なので、乗車予定の列車の時間直前まで見学できるが、すでに30分程度しか見学に当てられる時間がなくなっていた。ここも、入館者はほとんどなく静かな展示室を足早に見て回る。木造の学校校舎が美術館内に作られていて、絵本図書館になっていたり、プラネタリウムの設備が併設されていたり(この時は、新型コロナ感染拡大で閉鎖されていた)して、のんびり一日過ごすこともできる施設になっている。ノスタルジックな昔の田舎の風景や子供達の姿など、安野光雅の絵は、いつも、見ていて心を穏やかな気持ちにさせてくれる。

(終わり)

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