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阪神淡路、瀬戸内のサイクリング旅 - 「京都府立植物園」

 サイクリング旅初日の2022年3月28日、京都駅に正午少し過ぎに着いた。実質的なサイクリング旅は明日からで、初日の京都は、軽い観光を兼ねて体慣らしと位置付けていた。京都の半日では、かねてからどうしても訪れたいと思っていた京都府立植物園に加えて、銀閣寺、金閣寺を訪れたいと考えていた。当初は、3つの場所を効率よく回るために、京都駅から、銀閣寺、府立植物園、金閣寺と巡るつもりでいた。ところが、銀閣寺が期待以上に素晴らしく、参観し終えたときに予定時間を超えていたため、参観時間が早く終了する金閣寺を先に訪れることにした。
 その金閣寺はというと、圧倒的なきらびやかさと、開放的な広々とした境内空間が、訪れて来たばかりの銀閣寺とあまりにも好対照なのに強烈な印象を受けた。これがあの、三島由紀夫の傑作「金閣寺」の物語が展開した現場なのかとの感慨がわいた。放火に至る若い僧の心のうち、その挙動が眼前に浮かび上がってくる。観光客がいない時空間で一人ここに佇んで眺めたら、すっかり小説の世界に吸い込まれていただろう。

慈照寺金閣

 東山方面に戻るように走って、府立植物園の賀茂川門に着いたときには、もう午後4時を過ぎていた。しかし、ちょうど桜の季節で、夜桜ライトアップの実施期間(3月26日から4月10日)が始まったばかりであり、この期間は夜9時まで開園していることがわかった。なんという幸運だろう。金閣寺と訪問順を逆にしたことが大いに幸いした。こうして、もともと第一の訪問目的地だった府立植物園で存分に時間を過ごすことができるようになった。
 府立植物園に強い興味を惹かれたのは、好きな映画鑑賞を通してのこと。川端康成原作「古都」を、名匠中村登が、岩下志麻を主役にして1963年に映画化した。岩下志麻は、数奇な運命によって、一方は裕福な呉服問屋の一人娘、一方は貧しい北山杉の材木屋の娘として、全く別な人生を歩む姉妹を一人二役で演じた。この作品の中で、岩下志麻扮する千恵子(姉)と両親、仕事で付き合いのある西陣織屋の主人たちが、花見客で騒々しい仁和寺に辟易して、戦後しばらく進駐軍に接収されたために閉鎖され、再開したばかりの植物園を訪れる。植物園での散策の場面で、とりわけ、楠の大樹の並木を散策する場面が強く印象に残り、いつか訪れたいと願っていた。
 東京では、並木といえば、欅や銀杏が一般的で、楠の並木というのは馴染みが薄い。それだけでも印象的なのだが、広大な敷地に、梅林、桜林、針葉樹林、もみじ、つばき、ばら、しょうぶなどの園が点在し、変化に富んだ植栽が展開され、水車や水琴窟も含めた池や水生園も自然の風情を醸し、迷路のように配されていて、飽きることがない。加えて、広々とした芝生の広場があり、ピクニックを楽しむことができる。夕方とはいえ、人がほとんどないというのは、なんと贅沢な空間だろう。東京で匹敵するのは、おそらく都立神代植物園だけだろう。
 園内をゆっくり一巡りして5時40分ごろになる。5時半からは「観覧温室」が入館無料になり(通常は二百円)、無料で入館。建物の造りが洒落ていて、右に左にと曲がりながら伸びる通路の両側に、世界各地の熱帯植物がテーマごとに所狭しと植えられている。歩いているうちに二階の高さになり、二つの建物が連結したような構造になっている隣の建物の温室に導かれる。ここでも短調さが排除されていて、我を忘れて楽しい世界に吸い込まれていくような気分になる。こんな温室にも初めて出会った気がする。

様々な球根ベゴニアの寄せ植え

 夕暮れになった午後6時からは桜の林がライトアップされた。花見の人々を誘う小道も両脇から照らされるが、花見客は少なく、静かに夕闇に浮かぶ桜の花を楽しむことができる。


夜桜ライトアップ

 北山門に隣接しているイタリアンレストランで夕食をとってから、ホテルにはゆっくりチェックインすることにして、ホテルに電話連絡する。このレストランは、素晴らしかった。6時半にはまだ席に余裕があったが、人気があるようで7時にはもう満席になっていた。若い女の子の二人づれやグループ、カップルなどが目に付き、とても賑やかで華やかだ。ピザとパスタをメインにしたメニュー。ドリンクが別メニューで充実している。「Jazzberry」という名のクラフトビール、少し辛いが美味しいピザ(15cm)で一人の夕食にはちょうど良い量だった。植物園に戻って桜のライトアップの中を散策して、入園した賀茂川門に廻り、停めておいたロードバイク で、ホテルに向かう。厳密にいうと、”飲酒運転”(笑)。
(終わり)





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