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自分のキャリアをレクチャーする。デザイナーによる静岡文化芸術大学での出張講義

みなさん、こんにちは🙋‍♀️
DeNAデザイン本部です。
 
2022年7月、デザイナーの松田涼さんが静岡文化芸術大学で学生に向けた講義を行いました。大学側からのご指名により開催に至ったのですが、実はそこには松田さんのキャリアも関係していました。
 
DeNAではアートディレクターやUI/UXデザイナーとして『マンガボックス』や『Pococha』、『Voice Pococha』など多数のプロジェクトで活躍中の松田さんですが、学生時代はデザイナーとしてこの分野へ進むことになるとは想像もしなかったといいます。
 
今回は、松田さんが講義を行うことになった経緯から当日の講義内容、授業を受けた学生の反応、講義後の感想まで、まるっと公開します。デザイナーを目指す学生はもちろん、学校関係の方にも何かしら気づきが得られるインタビューです!


学生時代に考えていたのとは違うデザイナー人生に

――まずは松田さんがこの講義を行うことになった経緯からお聞かせください。そもそも、松田さんはこの大学の卒業生なのですね。

はい。デザイン学部の学部長からFacebookで直接ご連絡をいただいたのがきっかけです。「インターフェイスデザインⅡ」という科目では卒業生によるゲスト講義を毎年開催していて、今年は私にお願いできないか、と。

お声掛けいただいた理由は大きく2つありました。大学のこれまでの流れや地域性もあるのですが、卒業後はスズキやヤマハなど、在静岡の大手メーカーにプロダクトデザイナーやインハウスデザイナーとして就職するケースが多いんですね。しかし、時勢を鑑みて、IT分野などデジタル業界への進路もあることを学生に紹介したい、という意向があったのがまず1つ。事実、この講義にその分野以外のデザイナーが登壇するのは私が初めてだったようです。

2つ目は、私に複数回の転職経験がある、ということでした。実は転職経験のある卒業生は少ないそうなんです。就職したその先のデザイナー人生において、1つの会社にこだわる必要はないんだよ、違う分野に進む未来もあるんだよ、というのを学生に知ってほしい、と。

――つまり、松田さんは卒業生の中ではレアケースだったのですね。ご自身はどういう経歴を?

卒業後はエディトリアルデザインがやりたくて出版社に入社したのですが、配属されたのがWeb部門で。当時はWebにほとんど興味がなかったので、辞令が出た時は正直がっかりしました(笑)。でも、それがIT分野のデザインについて学び始めるきっかけとなったんです。

2社目は広告系制作会社です。クライアントワークとしてのアプリ案件などを担当することになり、初めてUI/UXデザインに触れました。それを機に、開発・提供したサービスを自分ごと化して改善したり次に繋げるような動きをしてみたいと思い、DeNAに転職して今に至ります。

――学生時代に考えていたのとは全く違う分野に進まれたわけですね。

そうなんです。なので、今志向していることとこの先に携わる分野は違うかもしれないけれど、自分が興味を持って学ぶ姿勢があればフィールドが変わっても活躍できるよ、という話を講義の最初にしました。

事業会社のデザイナーにはどういう役割があって、どんなプロセスで働いているのか

――では、当日の講義の内容についてお聞かせください。テーマは「事業会社におけるデザイナーの役割について」とのことですが、なぜこのテーマに決めたのでしょうか?

私も卒業して随分時間が経っていますし、今の学生は何を知りたいのかが不明瞭だったので、DeNAに新卒で入社した若手のデザイナー、特に3年目までのメンバーにヒアリングをしました。大学で何を学んだのか、そして何を学んでいたら良かったと思うか。その結果がこのテーマになりました。事業会社のデザイナーにはどういう役割があってどんなプロセスで働いているのか、確かに学生にはイメージしづらいかもしれないなあ、と。

――それは入社後に仕事を通じて知るより、事前にある程度イメージできていた方がいいのでしょうか?

私は新卒採用の面接官も担当しているのですが、志望動機を聞くと、いわゆる0→1(ゼロイチ)フェーズと呼ばれる、新しいプロダクトやサービスを世の中に生み出すフェーズの話をする学生がほとんどです。デザイン自体にそういうイメージがあるようで。でも、なぜそれをやりたいのか聞くと、明確な答えを持っている学生は少ないんですよね。

事業会社のプロダクトやサービスの開発には0→1で新しいプロダクトをリリースするフェーズだけではなく、リリース後に運用・改善する1→10(イチジュウ)フェーズ、規模を最大化させる10→100(ジュウヒャク)フェーズと3つのフェーズがあります。それぞれのフェーズにおけるデザイナーの役割と仕事のプロセスについて、あらかじめ理解できていた方が就活時の選択肢の幅にも広がりができるだろうな、と考えました。

――では、講義の概要を教えてください。

大学の傾向としてはプロダクトデザイン方面に進む学生が多いので、サービスデザイン・サービス開発とはどういったものなのかについて主に説明しました。

プロダクトはお客さまに実際に使っていただくところがメインのフェーズですが、サービスに関してはリリース後も継続的に運用しつつ改善したり広めたり、そういったプロセス全てがサービスデザインです、という話が前段部分。その後、私は全フェーズの経験があるので、過去事例を元にそれぞれの局面でのデザイナーの役割について解説しました。

特にサービスデザインの現場では、開発フェーズごとの顧客体験の価値創出が重要です。現場は、デザイナー以外のさまざまな職種の人との関わりあいの中で進行します。その中でどのようにデザイナーがプレゼンスを発揮するのかがとても大切だよ、という点を強調しました。言われたことだけをやるのではなく、デザイナーからもどんどん提案していく必要があるよ、と。

――デザイナー以外の職種の人とチームで協業するという感覚は、確かに学生は持ちづらいかもしれませんね。

はい、実際私もそうでした。それと「こんなデザインいいよね、この世界観だよね」という話は、デザイナー間では共通言語があるので意思疎通しやすいんですよね。でも、他職種、他業界の方と関わる時は、バックボーンも思考性も違うし、そもそも共通言語が違う。だからそういう方々にデザインやイメージを伝える時は、伝え方や言葉選びについて特に意識する必要があるよ、という話も仕事現場で大切なポイントとして強調しました。デザイナーは“言葉を扱うスキル”も持っていた方がいいので。

質疑応答とポートフォリオ相談会でも、実践に即したアドバイスを

――学生の反応はいかがでしたか?

やはりデザイナーとして働くイメージが具体的になった、という声が多かったです。他には、IT系に進む学生がほとんどいない大学なので、それまで想像しづらかったUI/UXデザインの現場が見えた、就職や進路の選択肢として考えてもいいんだな、という声もありました。

あと興味深かったのは、質疑応答で学生と社会人の違いについて聞かれたことですね。「学生と社会人ではどちらが大変ですか?」と(笑)。

――それは、どういう意図の質問だったのでしょうか(笑)

これは美大あるあるだと思うのですが、たぶん課題に追われていて、それが主なタスクになっているからなのだろうな、と。自分から学んでいく姿勢はもちろんあるけれど、学んだことを課題提出という形で消化するのはしんどいですから。

デザイナーも常に成長を求められますし、それには連綿と学びつづける必要があります。いつも何かをキャッチアップしていく姿勢をキープしていくのは、それはそれで大変だよ、と伝えました。ただ、私も学生の頃は勉強が好きじゃなかったので…(笑)。社会人になってからは学ぶことが楽しいなと感じるようになった、と付け加えました。

この質問から「学ぶためには何を見聞きしたらいいですか、どんなグラフィックツールを使用するといいですか」という話に広がりました。今は無料で使用できるツールがあふれているので、そういったものを使いながら自分の好きな領域ややりたいデザインの方向性を見つけていく作業から始めるといいんじゃないかな、みたいな話をしたり。

――講義の最後にポートフォリオの相談会をされたのですよね。実際にご覧になっていかがでしたか?

予想以上に多くの学生がポートフォリオを持って集まってくれたので1人1人に細かく対応することはできませんでしたが、何人かをピックアップして、まずはそれぞれの学生がどういう業界に行きたいのかをヒアリングしました。それによってポートフォリオを見ながら、この業界だったらこういうところをより魅力的に見せたほうがいいよ、というようなアドバイスをしました。

――具体的にはどのようなアドバイスを?

例えばゲーム業界を志望している学生の場合、イラストを羅列して並べていただけでした。最終的にこのイラストからどのようなビジュアルやグラフィックにアウトプットとして昇華されるのか、ということを企業側は知りたいと思うので、1枚作り込んだ絵を最初の画面で見せた方がいいよ、という話をしました。

サービスデザインに興味がある学生に関しては、カスタマージャーニーマップ的なものをポートフォリオの中に一応入れてはいたんですけど、ただ入れてるだけになっていました。ユーザーが抱く感情の起伏や状況説明も詳細に入れたり、ポジティブやネガティブな部分についてぱっと見でわかりやすい色や表現にすると、ポートフォリオの質が上がるよ、というようなアドバイスをしたり。

――学生も目から鱗がポロポロ落ちたのではないでしょうか。大学側からのフィードバックはいかがでしたか?

おかげさまで好評でした(笑)。特に、私が副業で携わった『sacri』というアプリの話についても反響が大きかったです。このアプリはお話をいただいてから3ヶ月後にリリースしたのですが、短期的なフェーズにおけるデザイン作成でリリースも改善していく、というスピード感について驚かれたようです。プロダクトデザインの世界は、例えば世の中に出るのが10年後とか、ものすごく長い時間をかけますから。IT業界がサービスを作っていく過程について、先生ご自身や学校の方々も体感できました、と。

講義を終えて感じたこと。DeNAの出張講義について

――講義を終えて、松田さんご自身はどう感じましたか?

1つ、とても印象に残った出来事がありまして…。講義終了後のことなのですが、人がいなくなったタイミングで半分泣きながら話かけてくれた学生がいたんです。「やりたいことが少し見つかってきたけど、それが就職という道ではなくて…。ただ、同期の学生や親には就職した方がいいんじゃないか、と言われるのですごく悩んでいます」という3年生からの相談でした。

これ、私が今回呼ばれた理由の1つでもあるんですよね。その学生には、新卒で就職することはもちろんメリットがあるけれど、就職することが絶対ではないし、自分がやりたいことの方向性を探る作業がまず必要だよ、と答えました。

――人生相談ですね。

自分の頃はもうちょっと適当な学生が多かったのですが、今は進路について悩む学生が少なくないみたいですね。こういう形で講義をする機会は度々あるのですが、「自分の講義から何かを得てもらえているのだろうか…」と不安になることもあって(笑)。

でも、「いいインプットが得られました」とフィードバックいただいたり、今回の学生のように最後まで残って相談しに来てくれたりすると、何かしら内容に共感してくれたんだろうなと思えて素直に嬉しいです。将来について相談したいと思ってもらえるような関係値を、一度の講義の時間内で構築できたということにすごぐ学びがあるな、と今回は感じました。

講義をすることで、その度に自分のキャリアの振り返りにもなりますし、気づきもあるんです。自分が今まで得た知識や経験、インプットなどを昇華したことで何かを感じてもらえると、本当にやって良かったなと思えますし、そうじゃないとやる意味がないんだろうなとも思ったりします。

――DeNAのデザイン本部は、このような出張講義を積極的に行っているんですよね。

はい。UI/UXデザイナーの需要は年々高まっているのですが、デザイナーの数はまだ少ないのが実情で…。都市部にある美大では新卒でUI/UXデザイナーを志す学生が増えてはきましたが、それでも圧倒的に少ない。地方だと、今回の講義でも実感しましたが聞いたことはあるけどどういう職業なのかを知らない学生がほとんどです。

そこで、UI/UXデザイナーの仕事を知ってもらおうと、全国の学校に出向く活動をしています。現場を知る上で微力ながらもお力になれるかと思いますので、興味のある大学の方はぜひお声掛けください。講義内容はニーズに合わせてプランニングします。

また、UI/UXデザイナーを目指す方向けのポートフォリオ制作講座をオンラインでも開催しています。参加人数の上限はありますが、先着順で無料開催していますので、学生にはぜひ参加してもらいたいです!

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