2000年以降、最も美容業界に影響を与えた企業はHot Pepper Beauty(以下HPBと省略)と言っても過言ではないでしょう。その影響が故に、肯定的な声も批判的な声もあります。

このHPBを中立的な立場から考察したいと思います。

1-1.WEB集客の始まり

まず、HPBの誕生の前に近代史でも最も世の中を変えたと言っても良いサービス(商品)が誕生します。

1991年のwww(world wide web)と1995年のWindows95

ワールドワイドウェブは、簡単に言うとインターネットの仕組みです。

これが世界中をつなげ、マイクロソフト社のWindows95がそれを各企業や一般家庭に急速に普及させました。これが今日のインターネット社会、スマホ、SNSなどの土台となります。

日本では1995年以降家庭のパソコン普及率は爆発的に増え、2000年代には約70%の世帯がパソコンを所有するようになります。ただし、この時点では家庭に1台なので今のように1日何時間もパソコンを使う環境ではありません。1人あたりの1日当たりのパソコン使用時間はおおよそ30分~1時間程度。今みたいに1日何時間もスマホを通してインターネットに繋がっている時代ではありませんでしたが、この頃からありとあらゆる市場がインターネットという場での競争にさらされることになります。

1-2.美容、飲食、旅行業での集客の変化

パソコンが普及する以前と以後でどのような変化が起きましたでしょうか?

パソコンが普及する以前の店舗型ビジネスの広告と言えば「チラシ」「看板広告」「新聞折り込み」「専門誌、雑誌」などがメインでした。大企業は「テレビ」「新聞」「ラジオ」などもありましたが、広告費が高いものが多く一般的ではありません。

それが、各会社や店舗によるホームぺージの作成が容易になり、ホームページを作成→SEO対策をして集客を行うという対策も増えます。

それにより「エリア+サービス名」の検索結果に各社ホームページが乱立。消費者からすると、1社1社比較するのは労力と時間が掛かるものでした。ホームページは会社や店によって表示方法や内容が異なります。商品ページ、価格ページ、アクセスページ、連絡先、などなど。会社によって記載情報や記載方法が異なり、また、ホームページを作成していない店舗もあるためホームページだけでお店を調べるというのはまだ便利でない

それらは今でも同じだと思います。例えば、新宿でレストランを探すとして、食べログ、ぐるなび、ホットペッパーグルメ、その他インキュレーションサイトを一切見ずに、各お店のホームページだけを見て探せますでしょうか?ほとんどの方が探すのが非常に面倒くさいと思うはずです。

その手間を省く存在として一気に消費者の心を掴んだのが食べログ、ぐるなび、じゃらん、楽天トラベル、そしてHPBでした。

簡単に歴史を追っていきます。

ぐるなびは1996年創業。楽天トラベルは2001年、ホットペッパーは2001年(当初はフリーペーパー)、じゃらんは創業1990年(WEB広告は2000年)、食べログは2005年。

ここでも食べログ以前と以後で分けられる変化があります。食べログが普及することで、消費者がお店を比較して選ぶということがより数値化して用意になりました。以後、インターネット広告において「口コミ」は最重要の位置づけとなっていきます。

2000年代後半になると各業態の比較サイトは軒並みユーザー数、掲載店舗数を拡大し続けてます。2007年のiphoneをはじめスマホが普及すると、その流れはより加速していきます。

2019年11月のデータではHPB掲載美容院数は43,000店舗に増え、年間利用者数は6300万人まで増えています。新規集客手段として市場のシェアを完全に抑えている状態まで成長しています。

2.Hot Pepper Beautyがもたらした影響

ここまでは他業種も含めて記載しましたが、ここからは美容業界のみで進めて行きます。美容業界での広告媒体はどのようなものがあるか。いくつか有名媒体を記載します。

ホットペッパービューティー、楽天ビューティー、オズモール、ミニモなどが有名だと思います。最近ではヤフービューティーも再度参入しました。それぞれどのようなポジショニングをしているか。

・ホットペッパービューティー:美容室を探す=ホットペッパービューティーという位置づけ。

・楽天ビューティー:楽天経済圏のユーザーがポイントを使う場orポイントをより効率よく増やす予約サイト

・オズモール:銀座、青山、二子玉川、恵比寿など、大人女子がよりこだわりの高級感ある美容室のみを探すサイト。似たポジショニングでは一休.comがある。

・ミニモ:ジュニアスタイリスト、アシスタントのヘアモデル集客サイト。消費者向けも「とにかく安く、ちょっとおしゃれに」がポイント。サロンを探す媒体ではない。

上記のように、新規集客といっても各社微妙に住み分けをしています。他にも多数集客サイトはありますが、割愛致します。また地方には私の知らない地域限定の強い媒体があるかもしれませんが、それは私の無知をご容赦ください。

各社住み分けをしていますが、全体としてHPBが新規集客市場のシェアを独占していることは事実です。これにより、美容業界はどのような影響が起きたでしょうか?

美容院の視点とエンドユーザーの視点の2つの視点で記載したいと思います。

2-2.美容院目線

インターネットが普及する以前と以後で集客方法や広告費はどのような変化起きたか。

①消費者の流動性が増える(新規集客が容易になり、失客率も増加)

②業界全体の広告費割合が増加

③顧客単価の低下

①について。HPBが存在する前から新規集客はできていました。チラシ、看板広告、専門誌、紹介などの方法があったかと思います。今と比べると新規集客数は恐らく少なかったかと思いますが、その代わり失客率も少なかったかと思います。なぜなら新規集客=他店の失客だからです。HPBができたことにより消費者の流動性が上がったということになります。店舗によっては新規が多数取れるが失客が少ない店も存在します。しかし、業界全体としては、新規集客ができている=どこかのサロンで失客が必ず起きています。

②について。美容業界の市場規模は2兆円ほどと言われています。詳細は計算方法により異なるのでザックリとそのくらいと記載します。この数字は年々減少傾向にあり、少なくとも増えておりません。業界全体として売上は増えていないが、広告費の負担が増え利益率が下がっていることは間違いないです。HPBの年間売上は638億円なので、2兆円の市場規模の約3%を占めております。もちろん、広告費はHPB以外にもかかりますのでこの3%はかなり大きく、美容院の平均利益率が10%だと仮定すると利益率は30%減るということになります。これが、ホリエモンなどがリクルート税とおっしゃる理由かと思います。

③について。HPBのようにサロンやクーポンが一覧に並ぶと、サロンは差別化やブランディングができていない場合、過酷な価格競争に巻き込まれます。HPBによって他にも近くに良さそうなサロンがあるとわかってしまうので、放っておけば失客しますし、他店よりも集客するには価格を下げるのが手っ取り早いからです。それが市場規模を下げている原因の1つにもなりえます。

楽天市場が分かりやすい例えでしょう。同じ商品を買う場合、検索一覧から口コミ評価が悪くない中で1番安い(もしくはポイントなどでお得な)ショップから買う方が多いかと思います。安いショップがあるのをわかっていて、わざわざ高いショップから買う人はいないかと思います。他店と差別化できていないサロンは、このように「同じ商品」の1つと見られていると思った方が良いです。「同じ商品」と見られてしまうと、単純に安い方に人は流れます。

2-3.消費者目線

消費者目線で捉えると見え方は大きく異なります。HPBができたことによって、利用者は「簡単に」「おしゃれそうで」「人気がありそうな」美容院を「お得に」利用できるようになりました。

美容業界にとっては非常に過酷な競争環境ですが、利用者にとっては便利になったことは間違いないです。美容業界の方が食べログや楽天トラベルなどを利用するのも同じように。ただ1点利用者にとって残念なことを言うと、「おしゃれそうで」「人気がありそう」はどちらも幻想だということです。HPBの口コミの点数や数は施策でどうにでも増やすことができるため、口コミ数や点数=サロンの質ではないです。写真に関しても美容院で撮影していないスタイル写真も掲載していることが多々ありますし、また写真の撮り方次第でいくらでも綺麗に見せることも可能です。やはり写真の見栄え=サロンの質ではないのが現状です。

これは消費者ではなかなか気づくのは困難なため、WEB上のHPBを眺めて「おしゃれそうで」「人気がありそうな」「お得に通える」サロンを延々と探し求めては失敗してという利用者が増えているのも一つの事実かと思います。

3.HPBは是か非か

ここまで踏まえた上で、かと答えるならば、私はだと思います。ありきたりな答えですみません。簡単に理由を2つあげます。

理由①価値の無いサービスなら継続できていないから。利用者がいる限り存在価値がある。

理由②リクルートがやらなくても、違う会社がやっている。

もちろん高すぎるという声もあります。しかし、それでも集客できてしまうという事実があります。例えば、今後100万円のプランができたとします。恐らく利用できない店が多いかと思います。それでも100万円に見合った利用価値があるサロンは利用して生き残るという構図ができてくるのではないでしょうか?しかし、やりすぎて美容業界が衰退してはHPBも一緒に衰退するので、言い方は過激ですが「生かさず殺さず」がリクルートとしては一番収益が上がりそうだと、一個人として思っています。

4.HPB1強は続くのか?

今現状は、HPBの1強といって間違いではないでしょう。楽天、オズモール、ミニモはそれぞれ絶妙に住み分けていますが、一番大きいパイをHPBが独占しております。

HPBが1強の理由として:資金力(宣伝広告費)、営業力、知名度、ユーザー数があります。そして、最も大きいのが資金力。結局すべて資金力が影響します。オズモールやミニモは企業力でリクルートに遠く及びません。以下に2019年12月18日現在の時価総額を記載します。

リクルートホールディングスの時価総額:約7兆円

楽天の時価総額:約1兆3千億円

株式会社ミクシィ(minimo):約1600億円

スターツ出版株式会社(オズモール):約54億円

時価総額=かけられる広告宣伝費ではありませんが、100倍どころか1000倍も差があるため太刀打ちできないのは明白です。また、唯一張り合えそうな楽天はECと楽天カードなど金融市場が事業基盤となりつつあり、楽天ビューティーはそのオプションの1つにすぎません。ECでも他にアマゾン、Yahoo!という超強豪2社と競っているため、リクルートと戦って広告媒体で戦う戦略はとっていないです。

ただし、今後HPBの1強が続くとは限りません。今後新たにライバルになりそうな会社(サービス)を記載します。

・Google(Googleマイビジネス):検索プラットフォーム、資金力、地図

最近、テレビCMでもYOUTUBEなどでも頻繁にGoogleマイビジネスの広告を見かけます。Googleは世界TOP5に入る超巨大企業で、それこそ資金力ではリクルートを圧倒しています。また、検索=Googleとなっており世界シェア90%(Apple製品もgoogle検索を使用)。人々が調べたいことを世界一知っていて、そこに何を表示させるかをコントロールできる唯一の企業がGoogleです。このGoogleが近年力を入れているGoogleマイビジネスは、旅行業界ではすでに非常に大きい影響力を持っています。

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試しに、エリア名+ホテルなどと検索をして頂けるとわかりやすいです。パソコンでもスマホでも非常に検索しやすいGoogleのページが出てくるかと思います。Google上だけで各ホテルの景観、レビュー、設備が表示され、更に各予約サイトの最安価格まで一覧表示されています。もはやGoogleだけ見ておけば良い構成になっています。飲食や美容業は、まだここまでの仕様になっていませんが、今後のアップデートで更に使いやすくなっていくことが予想できます。そうなると、美容業界もGoogleだけ見ておけばよいとなる日が来るかもしれません。もちろん、Googleを見た上でHPBで予約するということもありえますが、その場合HPBの強みはかなり減少するでしょう。

・ヤフービューティー:資金力、営業力、決済手段、SNSインフラ

ヤフービューティーはZホールディングス株式会社の参加で、Zホールディングス時価総額約2兆円。また、関連のソフトバンクは時価総額約6兆9000億円。ソフトバンクグループは時価総額約9兆6000億円。こちらもリクルートを大きく上回る資金力を持っています。広告費の殴り合いもできる資金力、営業力はリクルートと十分に戦えるのは間違いないです。また、決済手段としてpaypay。更に先日経営統合してLINEpayまで手中に収めました。これがあると何が強いのか?ヤフービューティーから予約してpaypayで支払うと20%キャッシュバックという鬼のような施策が打てます。これを行うと「どうせ同じサロンいくならヤフービューティーから予約しよ」という消費者が増える可能性が高いです。事実、paypayモールで20%キャッシュバック、ユニクロで1枚買うと1枚プレゼント、ワイモバイルなどと組み合わせをしており、paypay攻勢を強めています。リクルートはこの決済手段をもっていません。また、どこか違う決済会社と組もうともpaypay&LINEpayの連合に太刀打ちするのは非常に困難です。

しかも、まだあります。これはかなり推測の域ですがLINEと経営統合したことで、LINEの約8000万人のユーザーにアプローチできる可能性が生まれました。ご存知の通りLINEは日本で一番多く使われているアプリです。もはやインフラです。LINEは広告事業で収益を上げると宣言しておりLINE公式アカウント(旧名LINE@)や、LINEクーポン、LINEトラベルなど事業を多角化しています。まだ収益として形になっていないですが、LINE8000万人のユーザー×ソフトバンクグループのコンテンツ&資金力があれば、無数のアプローチが可能となります。この一角にヤフービューティーが入る可能性もあります。もちろん、SNSインフラもリクルートは持っていません。

上記のように、今までは1強を保てたHPBですが、今後はGoogleやソフトバンク連合のように、リクルートより強い競合と戦わなければならないかもしれません。

5.今後、どう向き合うべきか?

1年後のことすら予想ができないのが現状です。電子決済市場は2018年12月のpaypay100億円あげちゃうキャンペーンを皮切りに競争が激化し、QRコード決済1位と2位が経営統合したことでわずか1年でほぼ決着がつきました。市場の変化が非常に早く先が読みにくいのが現状です。GoogleやYahoo!が美容業界にそこまで目を向けなければ、数年後もHPB1強が続いている可能性はあります。しかし、本気で美容業界を狙ってきて、年間数百億円のコストをかけてきたら1年で市場は変わる可能性があります。それはGoogleとYahoo!次第です。

現状できることとしたらGoogleもYahoo!も今の内から運用し慣れる。コツを掴んでおくことが重要かと思います。

最後に

「Hot Pepper Beautyは是か非か」というタイトルですが、インターネットや検索媒体の簡単な背景から、HPBを脅かす脅威、今後の媒体市場について私個人の見解を記載しました。時代の変化が年々早くなっており「これだけやっておけばよい」というのが断言しにくいです。

常に時代や市場の変化を敏感にとらえながら、その都度生存に最も適した戦略を取る。ということが大切かと思います。