見出し画像

たゆたえども沈まないこと。

鬱陶しい正月の喧騒(まあメディアなのだが)から逃げるために、フィクションの力を借りて「ここではない何処か」に飛ぶ。今年の1冊目はすでに文庫化されている原田マハの『たゆたえども沈まず』で19世紀末のパリへ。ゴッホ兄弟と日本人画商の邂逅という作者十八番のアート・モチーフで、しばしセーヌの河岸を歩かせてもらう。通り一遍しかないゴッホの知識が、かえって徒に読み進む邪魔をせずいい時間を過ごせた。

Fluctuat  nec  mergitur

「たゆたえども沈まず」は帆船とともにパリ市の紋章に刻まれているラテン語。水運で栄え多くの水害に遭い、歴史の気まぐれに翻弄されてきた街にふさわしい、「転んでもただじゃ起きない」パリ市民の気概(プライド)を感じる言葉。実はこの「Even  though」な構文(?)が好きで、歌でも詩でもこのパターンのフレーズが出てくると、その作品の印象が2割位アップしてしまう。困ったものだ。ではあるが、紋章に堂々と刻めるその心性はこの太平洋の小島の国からは正直羨ましく嫉妬さえおぼえる。

それはさておき「たゆたえども沈まず」というのは、どうしたら我がものとすることができるのだろう。きっとポケットマネーで宇宙旅行に行くより難しく、かつどんなに時代が変わろうとも欠くべからざる大事なものに違いないとは思うのだが。


見出しの画像は「Point2vue410(ポワン・ドゥ・ヴュ・視点)/パリ」さんの作品をお借りしました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?