3.買収する側・される側のレベルによって異なるはずのPMI
3-1.PMIのあり方
①一番重要なのは事業・営業面で求めるものに他ならない、当たり前ですが
近頃は、これまでは取引クロージングに特に重点を置いていたM&A仲介会社をはじめとしたM&Aプレイヤーの方々がPMIの重要性を訴えられるようになってきましたので、M&A関係の話ではPMIから記載していきたいと思います。
事業DDを行う過程で、買収主体はどういった事業上の効果を獲得したいのか、すなわち、定量面ではどういった売上・利益を獲得したいのか、定性面での事業戦略・営業戦略上、得たい効果をなるべく明確に把握する必要があると考えます。当然、そのアウトプットとしては、対象会社買収後の事業計画となります。
また、当初漠然とでも描いていた、事業戦略・営業戦略上、買収主体が得たいものについては、対象会社を事業DDしていく過程で更新・修正されていき、その上で対象会社に求めるもの、ひいては自社の関与する方針などを掘り下げて把握していくことになり、最終的には事業面でのPMIの方針が確立されるものと考えます。
おそらく、少なくとも日本のM&Aで、それらを突き詰めてやれている会社は大企業含めて半分もないのかなと思われます。もちろん、一定水準以上の会社では、決裁のために事業計画などの資料は準備されますが、それがどこまで投資後の事業運営実態まで見通した上での血の通ったものになっているのか。多くの企業では、投資決定に関わった人もいなくなった、投資後数年以降先の投資回収効果の定量的結果でそれは判定されることになるのだと思われます。。。
M&Aの検討期間中は、時間に追われることもあるので難しい部分があるとも思われますが、それをどこまでやれるかがM&Aの、本当の意味での成功のカギを握っていると思われます。管理面は最終的には何とでも何とかできますが、事業面は取り返しがつかないので・・・
オーナー経営者の企業をのぞいては、やはり、自分のお金で投資したとしたら、いかに回収できるのか、何があっても最後は必ず投資効果を得るのだ!といったマインドを持てるか、すなわち、オーナーシップとリーダーシップが当該投資の意思決定関係者にとって重要な要素ではないかと思われます。
②事業運営のための管理体制の手入れ度合を財務法務DDの過程で把握する
管理体制整備面でのPMIにかかる全体像としては、中小ベンチャー企業のIPO準備で記したものと似たイメージをもっております。
各種項目は、IPO準備の全体像の投稿を参照していただければと思いますが、当然、買う会社と買われる会社の成り立ちや状況は異なるため、組織風土、文化にはじまり、業務管理体制の水準の差がどの程度なのかを把握する必要があると考えます。
それらを認識した上で、買収後のグループとしての統制、シナジー効果の追求が可能になるといえるのではないでしょうか。
③DDの重要性 ~適切なPMIを実施するために~
①②を踏まえると、やはり事業DDや財務DD、法務DDといった各種DDの重要性は自ずと認識されるかと思います。きちんとした現状認識があって初めて適切なPMIの方針が確立されるとしか考えられないでしょう。
しかしながら、時折、買収金額が大きくないから、とか、M&A仲介会社に急かされて時間がないから、DDの費用が小さくないから等といった理由でDDをきちんとやらない会社も見受けますが、必ずといっていいほど結果的に小さくない代償を払われていると思います。
そうした場合、買収金額は小さく見えたのに、追加投資がそれ以上にかさんだり、業績改善が進まず、同様に買収金額以上の出血が生じるケースもしばしば見られます。
もちろん、DD業者に匹敵する現状把握能力がある方が、時間が限られている中で実質的に同様のことを行う、というのであればよいと思います。ただ、投資回収期間や投資利回りといった定量的な効果、定性的な戦略上の理由はきちんと最低限のアウトプットを行い社内で共有して議論し、投資意思決定を行う必要があると考えます。
なお、財務DDの役割としては、買収価格の算定に資する、実態財務諸表の把握という目的もありますが、単に修正純資産価額の把握という静態論的なものに留まらず、せっかくの数字や証憑の検証機会を通じて、買収後の業務管理体制水準の改善プランも視野に入れられるような、すなわちPMIに資する動態論的な内容も得られるものを実施するのが望ましいと考えます。
事業DD等の各種技術的な内容については、他に優れた著作もありますのと、以降の投稿でDD中心にお話させていただきたいこともありますので、ここでは一旦この程度で留めておきたいと思います。
3-2.買収する側・される側のレベルによって異なるはずのPMI
大きな傾向としては、次のマトリクス表のように分類できるかと思います。
※1 なお、上場会社でも、少人数の会社もありますが、一定水準以上のレベルの会社のはずにて大企業として区別させていただきます。
※2 また、中小企業の中でも、上場を目指すIPO準備会社と、そうではない会社では、特に管理水準のレベル差があるのが通常にて区別させていただきます。
もちろん、でたらめなIPO準備や表面的なIPO準備をしている会社の管理水準実態は低いですし、上場は目指していないけどもきちんとした業務管理体制で事業されている会社もありますので一概には言えない部分があることは申し添えておきます。
これらⅠ~Ⅵのケースにかかる個別内容は、それぞれの事例エピソードふまえて後日改めて記載したいと思いますので、主な傾向だけここで記載しておきます。
①大企業が買収する場合のⅠ、Ⅳでは、大企業病が対象会社に伝染して対象会社の活力が失われていくことがよく見受けられる。
②それ以外のⅡ、Ⅲ、Ⅴ、Ⅵでは買収する側・される側のレベルと力量によって相対的に対応していく必要がある。
になるかと思われます。
それではまた。